(364)ムーギとパーミア
ダイヤジャックが部屋に戻るとムーギはいなくなっており、どうなったのか心配になって問いかけたヨーレイは予想外の返事に少しだけ驚いている。
自らの友人であるパーミアが対応していると聞いているので、ムーギの本来の立ち位置と任務を知らない状態ながらも大丈夫なのかを心配している。
「そ、その・・・ムーギさんは納得いただけたのでしょうか?パ、パーミア先生に負担がかかりませんか?」
「全く問題ないぞ?それとムーギは何故自らが試験に落ちたのか理解しているので、この問題で揉めることはないと断言しよう!」
いつまでもヨーレイが不安そうにしては問題だと思っているので、先ずはミルバが口火を切って徐々に話題を別の方向にもって行くために誘導を始める。
「ジャッ君が言うのであれば間違いないよね、ロイ君?」
「そうだね。俺もそう思うよ、ミルバ君。それにヨーレイ先生は凄く公平ですし思いやりがありますからね。試験結果も直ぐに納得してくれたと思いますよ、先生!」
一気に褒めるとヨーレイは直ぐに慌てるのを知っているので、ロイもミルバの意図を正確に理解して流れるように称賛し始める。
「え・・・え・・・その、ふ、普通にしていただけだと思いますけど」
早くも掌の上で踊らされているヨーレイは、この後暫く称賛の嵐に藻掻くことになる。
そのころ・・・知能担当分野教官パーミアの私室では、ムーギとパーミアが対面の形で座っている。
「紅茶で良いかしら?」
ムーギは最大の恐怖が去った状況になれたことから自らの依頼内容や組織の存在まで明らかにしてしまった事実を思い出し、小刻みに震えている。
間違いなく組織には戻れないし、パーミアが想像していた通りに排除対象となる可能性が高いと認識したからだ。
だからこそ少しでも落ち着けるように紅茶を勧めているパーミアだが、ムーギに返事をする余裕はない。
下を向いて小刻みに震えているので、パーミアは立ち上がって紅茶の準備を始めている。
組織や依頼について暴露する前であればこれ以上ないほどに逃亡の好機と言えるのだが、今はどこかに中途半端に逃げるよりも組織としても最大の脅威と認識されているジャッ君ことダイヤジャックの傍にいたほうが良いと正しい判断をしているので逃げるそぶりは一切ない。
パーミアもそこまで把握しているので、無防備に背中を晒して紅茶を準備している。
「はいどうぞ。貴方も大変ね?バカ王子の無駄なプライドを守るためだけの依頼を遂行する羽目になった結果がこれでしょう?今後の事もあるので直接的な質問になるけど、いくつか聞かせてもらうわね?」
震える手で何とか紅茶を一口飲むと、少しだけ震えが収まったのか視線をパーミアに向けている。
「貴方に守るべき存在はいるのかしら?」
宣言していた通りにド直球の質問だがパーミアが頭脳明晰であることは間違いないので、この言葉の意味はムーギの裏切り行為のせいで組織に狙われる身内の様な存在がいるのか問いかけていると理解できる。
「幸運なことに誰一人としていません。組織の面々は大半がそうだと聞いています。それが事実かどうかは知りませんが・・・」
抗う意志はまるでないので、聞かれたこと以上の回答をしているムーギ。
「それは一先ず良かったわ。次の質問。組織はどこまで大きいのかしら?貴方が態々学校に入学しに来るということはこの場に構成員が入り込んでいることはなさそうだけれど、王城や貴族の邸宅はすでに入られている可能性は捨てきれないわよね?」
「正直に言ってわかりません。依頼を複数人で行う際に都度構成員を紹介されるだけなので、学校にも私の知らない存在が潜んでいるのかもしれません」
「組織の大きさはどうかしら?」
「そこもわかりません。そもそも店長の出身はこの国ではないと聞いているので、何かあれば国から出れば良いとは言っていました。そこから推測すると、そう大きな人数を抱えているわけではないと思います」
この後も直接的な質問に対して聞かれたこと以外も付け加えて全てをさらけ出したムーギは、最後の質問に度肝を抜かれる。
「これが最後の質問ね。貴方は何で男装をしているのかしら?」
店長にすら知られていないはずの事実を告げられて目を見開いてしまう。
ダイヤジャックもムーギを調査すれば一発で看破出来るのだが脅威になり得ない存在を調査するのも面倒だし、そもそもこの大陸に来てからは過剰な調査は禁止とロイに言われていたこともあって何もしていなかった。
「な・・・何故分かったのですか?」
「あはははは、わかるわよ!私も女性だから、分からないほうが不思議よね?」
普通ではわかるはずがないし事実これまでも明らかになっていないのだが、頭脳明晰故に何かしら看破できてしまうサインがあったのだろうと強制的に自分を納得させたムーギ。
「一応ですが、不測の事態に陥った場合の対処として男性として活動していました」
「それが今回功を奏するわけよね?想像でしかないけれど、過酷な環境の中で男性のように振舞った上で実績を出すのは大変な努力が必要だったでしょう?」
不測の事態はまさに今回のような状況を指しており、組織から逃亡することを念頭に置いていたムーギだ。




