(363)ムーギ
冗談を本気に取られたところで、作成するのか既に何らかの手段で発掘するのかは不明だがダイヤジャックが洗脳可能な何かしらの道具を使えることに気づかされたパーミア。
「えっと・・・一応教官として、生徒になろうとした人物に過剰な痛みを与えるのは控えたいなーなんて思ったりして。実際に何か事をしでかしたわけではないでしょ?そこは酌量の余地があると思うのよ!」
なぜかムーギをかばいだす始末だが、ここまでしっかりと伝えなければダイヤジャックが国家を揺るがすほどの行動を起こしかねないと知っているので内心焦りがある。
何せ国王の髭を容赦なくむしった挙句に説教をぶちかます傑物なので、ありとあらゆる方向で常識が自分たちとは大きく乖離していると思い知らされている。
怯えながらもなんとか状況を打破するために一部分では冷静なムーギは、パーミアの焦り方が演技ではなく本心から焦っているのを理解してしまいより恐怖を感じてしまう。
「わ、私は皆様に従います!本心、嘘偽りない本心です!何卒、何卒!!」
パーミアの良心からの行為が思わぬ効果を生み出しており、ムーギは保身のためにどのように行動すべきかを悩む余裕がなくなり一気に軍門に下っている。
「え?そ、そう?それは私としても正直助かるけど。それじゃあ誰からの依頼なのか、具体的な内容についても教えてくれるかしら?」
ゼシューが依頼を行うような組織は表に出てこられない立場の者の集合体であり、そこを考慮すると依頼内容を告げた時点で裏切り者として認識されるだろうと推測しているパーミアは、そのリスクを背負ってまで目の前のムーギが真実を告げるのか試している。
何が事実かを知る術はないながらも自らがある程度推測した内容と合致していれば真実を話したと判断し、その結果ムーギはどうあっても組織に戻れない立場になるので首輪がつけられると考えている。
「そ、想像されていた通りにゼシュー第二王子の依頼になります。最早あの方にとっては気分を害した方々全てが敵になっているようで、魔力分野のクラスだけではなく最終的には学校、校長も含めてターゲットになっています。その筆頭は・・・ジャッ君で、その力は相当危険だと私の組織でも認識されていました」
消されるべき存在の筆頭と告げられているのと同義だが、ダイヤジャックはその事実を聞いてもまるで興味がなさそうな表情を崩していない。
「そう。ヨーちゃんも命を狙われるのかしら?」
「ジャッ君以外は敵対してもそう危険ではないと判断されているので、そこまでの依頼ではありません。しかしミルバ王子は別で、最大の脅威であるジャッ君を排除した後に同様に排除する依頼でした」
依頼の内容を吟味した結果嘘をついているようには見えず、謎の組織に命を狙われると明言されたダイヤジャックが心配になったのか少し視線を移すパーミア。
「ん?パーミア先生はこの程度の事で心配してくれるのか?ふはははは。自分の感覚では、コバエが周囲を飛ぶと言われているのと何ら変わりはないぞ?ついでになるが、この男が言っていることは全て真実だと付け加えておこう」
どのような手段で判別したのか不明だが、自らの命を狙われていることが事実と認めながらもまるで気にする様子を見せていないダイヤジャックを見て毒気が抜けるパーミア。
「そ、そう。そうよね。ジャッ君だもんね。私の認識がまだまだ甘かったと思い知らされたわ。本当に規格外よね。頭の回転には自信があったのに、その想像をはるかに超える行動ばかりだから正直ついていけないわ」
肩をすくめているが言葉とは裏腹に落ち込んでいる様子はなく、諦めの域に達しているように見える。
パーミアが知能分野担当教官として優れた頭脳を使って導き出した正しい回答なのだが、カードの者達が行う行動について真剣に悩んでは自らの常識だけではなく人格すら崩壊しかねないので諦めるのが唯一にして絶対の対応になる。
「それじゃあ早速で悪いけど、あなたは私と少し別室でお話しをしましょうか?」
パーミアの言葉は危険な行動でムーギが即座に裏切るかもしれないと思ったダイヤジャックだが、これまで単独でヨーレイやミルバを敵だらけの環境からを守り続けてきた実力は本物なので余計な事を言いそうになった口を閉じて陰ながら監視することにした。
「では自分はヨーレイ先生達のところに戻ろうと思うが・・・ムーギと言ったな?見逃すのは一度だけだと心に留めておくと良いだろう!」
近接して肩をつかんで強制的に視線を合わせているダイヤジャックだが、敢えてこのようにしたのはさり気なく光魔法を行使して痛みを感じないようにしながら両肩に監視と反抗的な動きを制限する道具を強制的に埋め込んでいた。
行動と監視の道具を埋め込まれているとは当事者のムーギですら理解できないので、ダイヤジャックの強烈な脅しに肯定の意を示す他ない。
「わ、わかりました。温情、感謝いたします!」
「わかれば良い。ではパーミア先生、これで失礼する」
パーミアは予想以上にダイヤジャックが素直に引いたことに驚いており、最低でもムーギに対して何かしらの楔を打つのかと思っていたのだが・・・実際にはこれ以上ないほどの楔を物理的に打ち込んでいるが、パーミアでは視認できないので少しだけ拍子抜けすると同時に自分を信頼してくれているとも思えている。
ここまでの行動はすべてロイに報告が上がっており、特段否定的な話しは一切飛んでこなかったことに安堵しながらダイヤジャックは部屋に入る。
「あ、あれ?ムーギさんは大丈夫ですか?」
「はははは、相変わらずヨーレイ先生は優しいのだな。全く問題ないぞ?今は心を入れ替えてパーミア先生と話しをしているところだ」
入学試験不合格に対する具体的な説明をするために教室を出て行ったダイヤジャックなのだが、同行しているはずのムーギがいないことから少々不安になって思わず問いかけてしまうヨーレイ。
ロイは報告を受けているので態度に一切の変化はないが、同じく事情を知らないミルバも過去のダイヤジャックの暴走を思い出して不安そうな表情をしていた。




