(362)パーミアの秘密②
得体のしれない驚異の前で真実を告げるわけにはいかずに黙るほかないムーギと、この態度から自らの仮説は正しかったと確信したパーミア。
「ジャッ君。聞いていた通りにこの人はゼシューの回し者よ。当然相当悪意があるの。このまま放逐してはいけない存在だということはわかるわよね?」
ダイヤジャックの基準が一般的な基準と大きくかけ離れているところもしっかりと認識しているので、通常であれば脅威になりえる存在も雑魚と判定して放逐しかねないと思い釘を刺している。
「む・・・理解した」
図星だったので少し焦りが出てしまうが、この状況はカードを介してロイに報告しつつ新たな命令を待っている。
「ところでパーミア先生?こやつの足元の油、いつ準備したのだ?」
「やっぱりジャッ君には見えちゃうのね。試験結果とこの人の行動を把握した直後、絶対にこうなるだろうと思って準備していたの。普通に歩く分には表面の膜があるから違和感はないけれど、相当力を入れて踏み込むと幕が破れて油が出てくるの。凄いでしょ?」
「なるほど。魔力に一切依存しない道具というわけだな?新たな視点だ!流石はパーミア先生だ!そもそも情報をつかんだのはついさっきだろう?この短い時間で全てを先読みして正確に行動を当てる。驚異的な能力だ!」
「ありがとう。ジャッ君に褒められると少し照れるわね。道具だけに依存している人達の対応であれば、道具の起動に必要な魔力を感知させなければ簡単に油断してくれるのよ。まさに現状がそれを証明しているわね」
ムーギが違和感すら覚えなかったのでまんまと膜を破るほどに力を入れて転倒する羽目になったのだが、仮に道具を使用した罠であればパーミアの言う通りに僅かな魔力の揺らぎを肌で感じて回避されていただろう。
近代的な道具に頼り切った結果原始的な罠に嵌ってしまった典型なのだが、油の表面に作成している膜を形成するには高い技術と高価な素材が必要になる。
それが容易にできてしまうのだがパーミアであり、ダイヤジャックは改めてパーミアの能力の高さを認識していた。
「しかしパーミア先生。これだけの品を準備できる技能や知識については感心する次第だが、随分と高価な素材をふんだんに使っているのだな」
ムーギそっちのけで話しが進んでいるのだが、ダイヤジャックからしてみれば逃走しても容易に捕らえる事ができる相手だしパーミアも理解しているので会話に乗っている。
「そうね。ジャッ君には全てわかってしまうのね。今更隠しても仕方がないか。実は私はハルバン伯爵に仕えているの」
ハルバンとはロイをこの大陸に連れてきてくれた船の船長であり、この国で唯一第一王子ミルバ派閥を公言している貴族だ。
パーミアは信頼できる仲間であるために身辺調査など入れていないので、ダイヤジャックとしては高価な素材を入手するにも手間がかかっただろうと慰労のつもりで口にしていたところ、全てを知っていると言われたように感じたパーミアは自分の本当の立ち位置を説明していた。
「フム。ロイ君を船に乗せてくれた人物だな?やはり信頼できる人物には信頼できる人物が仕えるのは自然の摂理なのだろう。逆もあるのが悲しいところだがな」
この言葉だけでは自らが明かした情報を事前に知っていたのか否かは判別がつかないのだが、どのみちダイヤジャックが本気を出せばこの程度の情報は直ぐにでも抜かれるだろうと思っているし味方に対して秘匿する情報でもないので焦りはないパーミア。
「申し訳ないけれど、ヨーちゃんには一応秘密にしてもらえるかな?ひょっとしたらこの事実を知って友人としての対応をしてくれなくなっちゃうかもしれないでしょ?ハルバン伯爵に仕えているのは事実で、実は伯爵の命もあって魔力分野の教官であるヨーちゃんとミルバ王子を陰ながら守っているの。ヨーちゃんに関しては任務ではなく友人として守りたい気持ちもあって、今更態度を変えられると寂しいから・・・お願いね?」
「大丈夫だ。そこはこのジャッ君を信頼してもらおう。それで本来の用件だが・・・コレをどうする?パーミア先生基準ではどのような対処が適切なのか、教えてもらえるとありがたい」
ダイヤジャックだけではなくカードの者達基準の案では受け入れてもらえる可能性が低いと正しく認識したので、直接希望を聞いている。
「そうね。一応私は教官なのでどのような存在であっても受験生を消すのは道徳的には難しいわ。だからと言ってそのまま放逐するわけにはいかないのも理解してもらえるわよね?ヨーちゃんだけではなくクラスの安全確保、そして明確にゼシューに対する警告が必要なのよ?」
「そこは理解した。具体的にはどうするのだ?」
「いっそのこと完全に洗脳しちゃおうかしら?」
「ひぃ・・・」
パーミアは冗談で言っており洗脳可能な道具など現時点で太古の道具を含めて発見された報告は一切ないし、当然道具に対して絶大な実績と信頼があるタッシュであっても作成できるとは一言も口にしていない程の品になる。
秘匿されている道具があるのかもしれないが道具にそのような効果を持たせるのは不可能だと広く知られており、つまりムーギにしてみれば苛烈な身体的負荷による洗脳だと聞こえている。
事実同じようなことをした経験があるために、より具体的にどのように洗脳するのか理解できてしまう事が恐怖を過剰にあおって声が漏れている。
「ふははは、パーミア先生は随分と優しいのだな。確かに自分の基準で考えればその程度の甘い罰は思い浮かばないだろう」
一方のダイヤジャックはその程度の道具を作成することは容易なので、洗脳されるムーギ本来の意識が消えるだけで痛みもなければ後遺症もない為に相当甘い罰だと本気で思っているが、パーミアは正直そのようなことは不可能だと思い冗談で言っていた。
「え?そう・・・かな?」




