(361)パーミアの秘密①
人気のない廊下でパーミアとムーギは相対しており、ダイヤジャックは少し横にずれて壁にもたれかかるようにして様子を見ている。
「うーん、本当はもう少しだけ大人しくしているつもりだったけど、思った以上にヨーちゃん周辺の環境が変わっちゃったから動かざるを得なくなったのよね」
「だから何を言っている!そもそも何故この私が不合格なのだ?さっきの口ぶりでは余計な減点があったように聞こえるが、減点要素を教えてもらおうか?」
教官に対してこの口調で詰め寄った時点で学校生活を送るには不適格だと判断される可能性が高いのだが、そこすら考えられないほどに感情が揺さぶられている。
如何せん目の前には得体のしれない女教官だけではなく壁にもたれながらも一挙手一投足を一部の漏れもなく観察しているダイヤジャックがいるので、その気配を嫌でも感じて余裕がなくなっている。
「そうねぇ。ヨーちゃ・・・ヨーレイ先生の試験の判定は昔から道具を使っているのよ。私も推測の域を出ないのだけれど、最近使い始めた道具はヨーレイ先生に対して不利益な存在は減点されるようになっているの。どの様な不利益なのかはわからないけどね」
「は?その様な曖昧な判定基準で受験生を篩にかけているのか?」
「正直に言って、受験生側からしてみれば具体的な数値を知らされていなければそう思うのは仕方がないわね。ジャッ君?この子の結果、どうせ知っているでしょう?具体的に教えてあげてくれる?」
「・・・魔力総量と技術は今日の全受験者の中でもトップだったな。一方で悪意も断トツのトップだ」
入学の最大の目的と最大の脅威にこのように言われてしまい非常にまずい状況に陥っていると即座に判断したのか、近くの窓を割ってそのまま逃走するために大きな一歩を踏み出そうとしたところ・・・全力で踏み出した一歩が滑って無様に床に転がってしまう。
「プッ・・・あはははは!これだけで自分は黒だと言っているようなものじゃない?はー、私の生徒だったら顔を洗って出直すように叱るレベルよ?」
「お前、何をした!」
強烈な殺気を込めた言葉が反射的に出てしまうがパーミアは至近距離にいながらも平然としているので、言葉は問いかけのようになっているが返事を期待している訳ではなく次の行動を始めるための時間稼ぎとしており、煙幕が発生する道具を起動しようとしている。
「ジャッ君。流石の私でも道具の起動は止められないの。お願いできる?」
道具を起動するそぶりなど見せたつもりは一切なく、言葉と殺気で意識をほかの部分に向けさせていたはずなのだが・・・過去の経験が全く活用できない相手を目の前にしてなりふり構わずに道具を起動しようとしたのだが全く反応しない。
「ふはははは、既に実行している。安心して教育的指導を継続すると良い、パーミア先生」
「やっぱり凄いわね。で、ムーギだったわね?貴方、私の友人であるヨーレイ先生に何をしようとしたのかしら?素直に喋ったほうが身のためよ?」
ここまで追い詰められた経験はないが、腐っても暗躍を生業としている存在なので依頼に関して口を開くわけにはいかないので黙っている。
「ふーん。随分と大人しくなったわね。それじゃあ少し話し易くしようかしら?理解できているのかは分からないけれど、どのみち私は答え合わせがしたいだけだから貴方から新たに得る情報には興味がないのよ?正直必要な情報はもう持っているの。分かるかしら?」
何を言っても一切反応しなくなったムーギだが、全くお構いなしにパーミアは話し続けている。
「この状況・・・タッシュ先生失踪による錬金分野の地位低下の加速も踏まえると、どう考えてもゼシュー王子の差し金でしょう?次点でボッシュ伯爵もあり得るけど、未だに自宅の復興に力を入れているからそこまで余裕はないはずね。その対象はどう考えても魔力分野クラス。具体的にはヨーレイ先生だけではなくジャッ君やミルバ君、ロイ君も入っているのではないかしら?」
瞬き一つせずにムーギの様子を観察しているパーミアと、敢えて意識を他のところに持っていく事で条件反射的なものを含めて一切反応を見せないムーギ。
「うーん、私にはこれ以上は無理かな?脅しではないけれど、私が対応しているうちに素直に答えれば痛い目を見ずに済むと思うわよ?私でダメならジャッ君の出番。この意味、分かるわよね?」
意識を外していても最後の言葉の意味は分かってしまい、何をしたのか全く分からない状態で逃走用の道具も無効化されているので初めて動揺が態度に出る。
「そうそう。最初から素直にしていれば余計な恐怖を感じることはないのよ?」
「じ、実は・・・確かに魔力分野が民の間で重要視されているので、このままでは国の根本的な指針が揺らぐと危惧されたとあるお方の依頼を受けて、魔力分野の学問を学べる環境を悪化させるべく混乱に陥れようと考えていた」
ムーギは身の危険があるので命を取る云々については一切口に出せないが、魔力分野の評判を改めて下げるように場を荒らす目的で入学する予定だったと告げている。
嘘ではないが真実でもないのだがこれが現時点で出来得る最善の回答だと思ったのだが、知能分野担当教官パーミアは甘くはない。
仮に相手がパーミアではなくダイヤジャックであれば取るに足らない雑魚が何かを囀っている程度の認識となるので、ロイの命令もあって多少の被害は避けられないが致命傷を受けることなく放逐されていただろう。
「国の指針ねぇ。やっぱりゼシューバカ王子の依頼なのね。それで?」
「それで・・・とは?」
「あのねぇ。あのゼシューからの依頼が環境を悪化させる程度のわけがないでしょう?正直ここまで環境が変わったきっかけは、タッシュ先生の自爆もあるけどジャッ君の成果が大きいわよね?そこに加えてヨーレイ先生の素晴らしい知識。そのあたりを消そうとしたのでしょ?」
知能担当教官の名は伊達ではなく、試験の結果を一早く聞きムーギの騒動を把握した直後にこうなるだろうと予測してこの場で罠を張って待ち構えていた。




