(358)入学試験
店員が学校に到着して入学試験を受験したい旨告げると、直にとある教室に連れていかれて入室した先には・・・席が間もなく完全に埋まる状態まで人がいた。
「あの・・・これから受験をする人達がここに集まっているのですか?」
「そうですね。この教室以外にもあと三つほど教室を使っています。今日だけではなく数日前からこのような状況になっているので、希望のクラスに入れない場合やそもそも入学をお断りせざるを得ない場合もあります」
「それは凄いですね。過去には錬金が過剰なほど人気でしたけれど、私が聞き及んだところでは最近は魔力分野が人気だとか。それは事実でしょうか?」
「良く御存じですね。入学志願者が一気に増加した時から大半の人が魔力分野を希望していました。その次に知能分野なので今は錬金分野が最も倍率が低い状態です。実は校長の指示によって一日当たりの合格者数は決定していますので、今年の入学試験は今日で終了する事になっています。ギリギリセーフでしたね?」
本当に危なかったとホッと胸を撫で下ろしたのだが、冷静に話しを聞けば合格しても魔力分野のクラスに入れない可能性もあるので少し突っ込んだ質問をする。
「魔力分野に入学するには、どの様な所で点数を出せば良いのですか?」
過去の錬金クラスであれば何らかの品を練成して能力アリと認められれば入学できる可能性が高いと知っているのだが、あぶれ者クラスであった魔力分野がどのようになっているのかは残念ながら情報がない。
「現時点で開示できるのは魔力の量、又は魔力を効率的に運用できる力をお持ちの方が優先されるようです。正直学校側としても魔力分野クラスに意識が向いていなかった事もありまして、担当教官のヨーレイ先生に直接聞かれた方が良いかもしれません」
情けない説明を受けているのだが、事実この学校だけではなく国の上層部も魔力分野に関する学問は不要と切って捨てていた事を知っているのでこれ以上の説明を職員に求める事は酷だと理解したのか、素直に空いている席に向かって行った。
その後数人が同じように入室すると、オドオドしている人物が教室に入ってくる。
「わ、私が魔力分野担当教官のヨーレイです。あ、あの・・・これから皆さんの魔力量の測定を実施させて頂きますので、そ、そのまま席でお待ちください」
突然入学希望者が殺到して大勢の前で話す羽目になっているヨーレイは緊張と動揺が隠しきれていないのだが、事情を知ったダイヤジャックがロイの許可の下で数人纏めて内包魔力を測定できる道具を渡していた。
今までの様に一人一人に行動を起こす必要がなく受験者からすればヨーレイが近くを普通に歩いて通過したとしか思えないのだが、その一瞬で周辺に着席している受験生の魔力をしっかりと測定・記録している。
誰しもが教室の中を均等にウロウロしているヨーレイに視線が向いているのだが、網羅するように歩き終わると再び教団に上がったのでいよいよ試験が開始されるのかと緊張の面持ちに変わっている。
「あ、あの・・・これで試験は終了になります。ご、合格者につきましては一時間程度後にこの教室を出て直ぐの壁に貼り出しておきます」
何時どのような試験をしたのか分からない受験者達だが、ヨーレイは確かに魔力量の測定を実施すると言っていた以上無駄にウロウロしている様に見えた中で全員の測定を終えたのだろうと自らを納得させている。
逆に普通に歩いているだけで全員の魔力に関する調査を終える事が出来たのであれば相当魔力に関する知識と実力を持っているとも言えるので、そこから学べることは多いと何とか合格したい気持ちに溢れている者が大半だ。
一方で店員・・・偽名ではあるがムーギと言う存在は立場上何かされれば違和感程度は覚える程度の訓練は受けており、事実それなりの実力があるので現在も生き延びているのだが何かをされた気配すらつかめずにいたのでヨーレイの実力を疑っている。
一般人では経験する事の出来ない苛烈な環境を生き延びた確かな実績と実力があるが故にヨーレイ・・・今回はダイヤジャックの道具になるのだが、自分の理解の範疇から大きく外れているとは夢にも思えなかった。
ダイヤジャックの実力に関してはある程度認めざるを得ない状況になっているのだが、相当オドオドしているヨーレイが太古の道具と言っても過言ではないレベルの道具を使用しているとは思えない。
「まさか見た目で判断したのでしょうかね?だとすると少しは自信がありますが・・・人の美醜は個人の感性に大きく委ねられる事を考慮すると、ヨーレイ先生に贈り物でもしておいた方が良いでしょうか?」
明後日の方向に思考が飛んでいくのだが、どの道ヨーレイに贈り物をしようにも当人は他の教室で魔力測定を実施して結果を纏めているので相当忙しく第三者と呑気に会話をする時間などない。
今から貢物を購入しては間に合わないのでその部分に関しては本気で言っているわけでは無いが、ここまで不可解な状況に陥った経験が無いので命の危険が無い分気持ち的に余裕はあるのだが、入学試験を突破できなければ依頼遂行難易度が跳ね上がるので祈る気持ちで待っている。
周囲の受験生たちも小一時間沈黙を貫けるわけも無く顔見知りの者は今回の試験について感想を述べあっており、ある程度ザワザワしていると教室に教官らしき人物が入って来た。
ヨーレイではないが学校関係者だと分かるしっかりとした服装をしており、魔力分野を希望する人物が多い為に他の科目の試験を受ける前だが一瞬で教室に静寂が訪れる。
「皆さんお待たせしました。ヨーレイ先生が測定した魔力調査結果から魔力分野の合否を決定させて頂きました。判定基準につきましては各人のプライバシーにも係わる事なのでお答えできませんが、ヨーレイ先生からの伝言では此方のクラスでは魔力の扱いによって合格された方はおらずに総魔力量での判定となったそうです」
魔力の扱いと言われてもヨーレイの前で入学希望者達が何かをしたわけでは無いのだが、学校関係者と言っても直接合否を判定していないと明言している目の前の存在に文句を言っても埒が明かないので、仮に自分が不合格になっていた場合にはヨーレイの所に乗り込もうと思っているムーギ。
同様に合否判定についての言葉を理解できなかった受験生も多々いるのだが、差し当たってはゾロゾロと全員が教室を出て自らの合否を確認しに向かっている。




