(357)道具探しと
この大陸では道具が非常に重要であり、タッシュが言っていた通りに生活の基盤になっている。
道具を作成する錬金の能力が褒め称えられる環境になっているのだが、タッシュ自身は魔力が乏しい事もあって嫉妬心から魔力に関する知識や実力がなくとも問題の無い環境を半ば強引に作り出していた。
それが大気中も含めて魔力を備蓄できる道具なのだが、これ以上の道具となると神の御業で現在のレベルでは練成出来ないとされており、はるか昔に栄えていた古代文明の不思議な力によって練成された遺物・・・太古の道具だと認識されている。
今回タッシュを乗っ取った黒の存在も道具によって召喚されているのだが、仲間を呼ぶための同じ召喚道具がこのダンジョン内部にあるようで危なげなく侵入している。
実は過去にこのダンジョン内部の素材を没収していたカードの者達なので、どれほど探そうが希望の品が見つかる事は永遠に無い。
当然黒い存在を召喚する道具などロイの益には一切なり得ないと判断され、人では間違いなく不可能ではあるがダイヤキングの号令により一瞬で無に帰している為に既にこの世界に存在していない。
そのような事情はタッシュも知らないので記憶にある訳も無く、黒の存在は本来あるべき場所に道具が無い事から範囲を広げて探している。
「相当時間が経過してしまったからな。恐らく地殻変動もあるだろう。こうなると探し出すのは相当厄介だな」
ブツブツ文句を言いながらもタッシュでは絶対に不可能な力を行使して周辺を掘り起こしているが、相当な時間経過しても未だに発見に至っていないが大して疲れていないので作業を継続している。
ダンジョンの奥深くであれば時間の経過は全く分からないので、タッシュを乗っ取った存在が発掘作業に没頭している頃・・・ゼシューが依頼をした店の店員がダイヤジャックの調査を始めていた。
「一先ず学校に侵入・・・クラスメイトになれれば調査をし易いですかね?」
この大陸で活動している時間が長いので落ちこぼれと認識されている魔力分野の生徒になるのは容易いと入学する事にしたようで、過去ロイがミルバがギルドを通して活動をした際にスペードキングから情報を教えてもらった殺意無き追跡者二人のうちの一人の存在は、こう呟くと早速実行する為に行動を始める。
実はこの学校の教官であり著名人になっているタッシュが店に依頼をしていた事は知っているのだが、依頼者との関係は厳に秘匿されるべきであり且つ第三者であるべきだとの信念からその伝手を使って入学する選択肢はない。
この掟こそがこれまで自らの命を繋いでいると常に店長が説明しているので、この店員もそこに倣って独自の力で入学する為に学校に入るのだが・・・予想に反して相当慌しい雰囲気になっているので、不測の事態を防ぐために特段何もせずに一旦店に戻る。
「店長!あの学校、何かありましたか?」
「あぁ、お前は依頼で入学するつもりなのだな?それならば少し時間を置いた方が良いだろうな。タッシュが行方をくらませているそうだ。国の生活基盤を整えた存在だからな。暫くは相当な騒動になるだろう。依頼人もこの騒動は知っているはずだから改めて説明の上で調査期間は長くなる旨伝えておこう」
予期せぬ騒動に巻き込まれる事を嫌い、店主の指示もあって入学を延期している店員。
因みに店主は依頼人がゼシューである事を知りながらも敢えて名前を出していないだけであり、口調も時と場合によって変化させているので一定していない。
店主であればタッシュが素材収集の依頼をした事と依頼を達成して報酬を受け取った事も報告を受けているので、今回の依頼が失踪に何等かの関係がある事は把握しつつも余計な事には首を突っ込むつもりはない。
一方で入学予定の店員は店主の指示通りに暫く時間を置くべきだと判断しつつも可能な範囲でターゲットの情報を得ておけば仕事が楽に進むと思い独自に動いた結果、魔力可視化の道具を始めとした容易には信じられない様な成果ばかりが聞こえてくる。
「事前に聞いてはいましたけど、民から直接同じような言葉を聞いてしまうと・・・何とも言えない不思議な気分になりますね」
自分達で同じレベルの道具を練成できるかと言えば不可能だし、どこかのダンジョンに潜って探し出せるのかと言えばこちらも不可能なのでダイヤジャックの成果を信じたくない部分がこの言葉に現れている。
「そろそろ入学しても良さそうだ。寧ろ民からすればタッシュが不在になった事で学校への入学がし易い環境になったらしく、その上にジャッ君とか言うターゲットの成果を目の当たりにした影響か魔力クラスに対する入学志願者が増えているそうだぞ」
「とてつもない効果を出している道具を見て、錬金クラスではなく魔力クラスを希望しているのですか?」
「そうだな。タッシュ不在による錬金クラスの立ち位置が下がった事に加えて、如何せんあの道具を生み出した存在が頑として魔力クラスから移動しないと明言している様なので希望者が殺到している様だ。つまり、お前も仕事をするために侵入し易くなっただろう?」
貴族に連なる者であれば魔力に関する学問を学ぼうとする事は自らを下げる行為だと刷り込まれているのだが、民は柔軟に対応できるのでその限りでは無い。
「分かりました。早速入学試験を受けてきます。依頼人にはその旨伝えて頂けますか?」
「あぁ。こちらから伝えておこう。依頼実行予定が決まった段階で連絡をよこせ」
こうしてゼシューから依頼を受けた店員が無謀にもダイヤジャックを始末するべく、同じクラスに入学するために試験を受けに学校に向かった。
事前情報の通りにダイヤジャックがもたらした道具の拡散とタッシュ不在の相乗効果によって民が魔力分野のクラスに殺到しており・・・このままだと入学試験に落ちる可能性すら見えている。
「ま、まさかの事態ですよ!入学できない可能性があるとは・・・想定外です!」
これまで情報の精度を上げ、且つ隙があれば始末する為に行動していたのだが、まさかの初手で想像もしていなかった障害が現れて焦っている店員だ。




