(314)全員の会議⑦
全てが上手く行っていると強気の姿勢だったタッシュだが、何故かパーミアが新しい道具の詳細について問いかけてきたために反射的に答えてしまった。
大きさは台の上に置いてある試作品よりも大きく外観はグラデーションだと自らが練成を行う時にイメージした事をそのまま口にしていたのだが、どうせ真の道具はこの世界のどこにも存在しないので問題はないと思っている。
そこに機能的に大きさが変えられないのか更に問い詰められたので、こちらもイメージのまま答える。
質問の内容もタッシュの能力が不足しているので大きくなってしまったのではないのか?と暗に匂わせていた結果、プライドが刺激されたのか言い訳がましくパーミアを見下しながら回答している。
「何の知識も経験も、付け加えれば能力も無いパーミア先生にアレコレ質問されるのは面白くありませんが、今回は特別に答えてあげますよ。私の全力をもってしても今この場にある試作品よりも一回り大きくせざるを得ませんでした。それほどの機能が組み込まれているのですから、小さくするには新たな技術の開発・・・素材を含めた抜本的な見直しが必要になります。天性の才能が有って努力を惜しまない私でもそこに至るには数年か数十年か、何れにしても相当長い年月が必要になるでしょう」
ここまで明言すればダイヤジャックから渡された新たな機能を持つ素晴らしい道具が見つかっても、明確にタッシュの手が入っていない証明になる。
何より学校の教官全員がこの場に集まっているのでこれ以上ない程に立場のある多数の証人を得られたと確信したヨーレイとパーミアは、想定以上の成果を得られた為に最初の壁は乗り越えたと感じている。
但しタッシュから有りもしない道具を盗まれたと公言された疑いはかかったままので、気分が良くなって独演会をしているタッシュをよそに二人でこっそりと相談している。
「・・・従って、この私の最高傑作を奪った存在は絶対に許されるべきではありません。今日この場にお集まりいただいた皆様の期待も裏切ったのですよ?一人の悪意が全てを台無しにする。全ての中には国家繁栄も含まれている、非常に重要な事案です!」
話しの内容が再び盗難に移行したので人見知りヨーレイの代りにパーミアが再び立ち上がろうとしたのだが、校長が割って入った。
「タッシュ先生。今回の発表に関してのみの話しをすれば、そちらの道具は過去の試作品の為に改善品は公表できない。良いですね?」
「盗難があった以上は・・・不本意ではありますが、そうです」
何故か校長としての威厳が復活しているので強気な姿勢は鳴りを潜め、素直に認める。
「それでは今日の会議は全て終了としましょう。議論するべき項目は全て終了したのですから、特に問題はないはずです」
「ですが校長!私の傑作が盗まれた事実・・・早朝に盗まれた事実はどうするのですか?」
「そこは継続して調査しますが、勝手な想像で犯人を決めつけるのには賛成できませんね。一番に出勤したからと言って疑いをかけられては、業務に対して真摯に向き合っている先生に対する侮辱でしょう?」
極めて冷静な校長の一言を耳にしたヨーレイを疑っていた大半の教師は恥ずかしそうにし、周囲の状況を見て流れは途切れてしまったと判断したのかタッシュも黙る。
「理解して頂けたようですね。ですが貴重な道具が盗難に遭ったのであれば放置する事はできません。タッシュ先生。今一度道具の具体的な外観や重さ等、詳しくお話しして頂きましょう。しっかりと記録に取ります。それと守衛に今朝から学外に出た人物がいるのかを調査し、今後学外に出る人物がいれば荷物検査を厳重に行うように告げてください」
再び有りもしない空想の道具についての説明をする事になったタッシュだが、流石に二回目なので自らの頭脳自慢や無駄な言葉の装飾が口から出てきた場合には校長によって容赦なく遮断されている。
何度も注意を受けて段々と言葉に詰まり始めているタッシュだが、その間にも道具を見つける為の手がかりとしての聴取は続いている。
「外観はグラデーションとの事ですが、何色から何色に変化しているのでしょうか?また、どの様な経緯でその配色になったのか。練成した結果何らかの影響でそうならざるを得なかったのか、その部分も学術的な観点から説明をお願いしますよ?」
校長の質問は情け容赦なく聞こえるが本当に練成出来ていたのであれば極めて重要な技術に関する質問であり、現物がなくとも未知の技術を公開する事でタッシュの功績を公にしている部分もある。
本来個人の技術として秘匿する事も認められなくはないが、今までの説明でタッシュはこう何度も口走っている。
「皆さんには理解できない内容かもしれませんし、仮に理解できたとしても絶対に私と同じ練成は不可能です。相当の技術が要求されますので、ここで宣言しておきますよ?誰だかは分かりませんが私の道具を盗んだ方!そこから素材やらを解析しようとしても無駄です!あれほどの練成は私以外には不可能。つまり、逆の解析も絶対に不可能ですからね!」
何故かヨーレイを見ながらだが、この言葉から技術を公開しても問題ないと理解する事も出来るので校長は敢えて秘匿しても良い部分をこの場で問いかけている。
ここまでくるとタッシュの頭の中では完全にヨーレイが自分の成果を盗んだと自分自身で思い込んでいるので、ダイヤジャックが道具を持っていた事や助言に関する事は無かった事になっている。
「色の変化は練成時に高品質の素材と混ざり合った時に起きてしまう現象です。この私でも一度しか成功していない品ですから二度目も全く同じ配色になるのかは不明ですが、外観上色が変化した状態になるのは間違いありません。本来一気に練成出来れば一色になりますが、あれ程の緻密な練成を球体全てに均一に行う事は不可能なのです」
「それはつまり、徐々に練成が行われた結果の色ムラと言う事ですね?」
「・・・言い方は納得できませんが、その通りです」
まるで練成能力がないと言われているように聞こえたタッシュだがその後も質問攻めにあい、やがて守衛に指示を出しに行った教官が戻ると会議は完全に終了となる。
一部タッシュの説明、グラデーションに拘ったと言う部分には矛盾が生じている事になるのだが、この場の誰もそこには意識が向かなかったようだ。




