(312)全員の会議⑥
長い会議も終了していよいよタッシュが宣言していた素晴らしい魔力可視化の道具に関する説明が始まるのかと期待している教官達だが、いざ道具の前に到着したタッシュは訳の分からない事を話し始める。
過去の発表会では道具に関する理論・・・教官と言う立場であっても全く理解できない理論を上から目線で長々と説明していたので同じ流れかと思っている人物もいるのだが、何やら雲行きが怪しくなっていた。
「私は一部の方もご存じの通りに昨晩から今朝にかけて寝る間を惜しんで道具の改善をすべく最後の一瞬まで努力をしておりました。ところが・・・今朝がた突如として意識を失ってしまいこの場にいるのですが、私が最終調整を行った道具とは異なる道具がここにあるので困惑しています」
全くの嘘だが、調整済みの道具がこの場にないと主張し始めるタッシュ。
「え?タッシュ先生。私の記憶では、前回校長先生が試した道具と同一に見えますけど・・・何が違うのでしょうか?」
「確かにその通りですが、コレは私が以前お見せした道具に至る迄に試行錯誤して作り上げた試作品になります。今回改善を行った品は外観も変わっており、その品をお見せする準備を整えていたのですが・・・私にも何が何だか分からないのです。一応この試作品も過去に一度起動した実績は有りますが、現在も起動するかは保管環境も劣悪であった事から保証はできません」
「私がタッシュ先生を呼びに行った際に見つけた銀色の台に置いてあった品を持ってきたのですが、それが間違っていたのでしょうか?場所を教えて頂ければ私が改めて持ってきますよ?」
「私が最終調整を行っていたのは、銀色の台の上に置いてあった品で間違いありません。そう考えると、何者かが私の成果を妬み卑劣極まりない行動を行ったとしか考えられません。高い確率で研究成果を盗んだのでしょう!」
正に自己紹介だが、何も事情を知らない教官達はタッシュの言葉を信じている様だ。
「これは・・・至急調査を行う必要がありますね。私は前回一瞬しか魔力の流れを視認できませんでしたが、あれ程美しく表現できる道具であれば価値は計り知れない!それを盗むなど言語道断!」
「ちょっと待っていてください。守衛に昨晩遅くまで残っていた面々を調査させて報告します!今日は丁度生徒は休みなので、第三者が来たか否かも直ぐに分かるでしょう!」
一人の教官が急ぎこの場から出て行くのだが、その間にも犯人探しに関する無駄な議論は白熱する。
「ヨーちゃん、思った以上にタッシュ先生は役者なのね。でもさ?こんな茶番でこれほど期待されている発表を乗り切れると思っているのかな?」
「わ、分かりませんけど、何だか嫌な感じがします」
タッシュの態度にパーミアは呆れ、ヨーレイは得体の知れない不安感に襲われている。
「はぁ、はぁ・・・先生。タッシュ先生。昨日の晩は結構な先生方が残られていたようですが、朝方まで残っていた先生はおりません。一番早く登校したのはヨーレイ先生ですね」
事実を伝えているだけだが、全員の視線がヨーレイに向く。
「え?え?」
ヨーレイは折角楽しく授業が出来る環境になっているので、少しでも楽しく学んでもらえるように時間をかけて授業の中身を考えていた為にここ最近は結構遅くまで残り、朝も早くから出勤していた。
タッシュはこの状況を狙っていたわけでは無いのだが想像以上に自分に風が吹いていると思い、俯いて誰にも見えない状態でニヤリと笑った後に真剣な表情でヨーレイを見る。
ヨーレイは人見知りもあって突然多数の視線に晒されたために動揺してしまい、その姿勢もタッシュを勢いづかせてしまった。
「ヨーレイ先生でしたか。幾ら学校として・・・いいえ、国としても不要な学問である魔力分野の担当教官だからと言って、人様の功績を盗む事は看過できませんよ?貴方には理解できないでしょうが、あの品を練成するのにも高品質の素材を集めて高いレベルで錬金を行う必要があるのです。その努力を一人の嫉妬から無にする等、教師として恥ずかしくないのですか?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!何で勝手にヨーちゃ・・・ヨーレイ先生が犯人だと決めつけているのよ?アンタが改善品を練成したと言う方がよっぽど怪しいじゃない!」
当然パーミアが即座に立ち上がって反論するのだが、流れが来ていると信じて疑っていないタッシュは余裕の表情だ。
「友人を庇いたい気持ちは分かりますけど、実はパーミア先生も共犯である可能性もありますよね?」
「話しが全く通じないわね。だったらアンタが作った新たな道具は何色なのか、形状はどのような形なのか説明して貰おうじゃない?それすら忘れるほどアホじゃないわよね?」
少し下を向いて落ち込んでいるヨーレイを庇っている仕草を見せたパーミアだが、コレは机の下で紙に示された伝言を読み取ったからだ。
何故か隣のヨーレイが立ち上がっているパーミアの足をつつくので、タッシュの態度に頭にきながらも視線を向けた際に改善した道具の特徴を聞く様に指示された。
何故?とは思ったのだが流石は知能分野担当教官だけあって頭の回転が速いのか、この場に持ち込んでいるかは不明だが間違いなくヨーレイはタッシュが望んでいる改善済みの道具を所有しているので、先にタッシュの口から情報を言わせない限り盗品と言われる可能性が高いと判断した。
正にヨーレイもそこを危惧しており、何となく嫌な予感がしてこうなる可能性に思い至って対策を少し前から考える事が出来たので、辛うじて正しい指示をギリギリだが出す事に成功していた。
「そ、それは・・・一回り大きい球体で、外観にも拘っているので美しいグラデーションになっている」
「あっそ。で、その大きさは機能を発揮するのに絶対必要なのかしら?道具は小さい方が良いはずだけど?」




