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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
312/319

(311)全員の会議⑤

 突然声が聞こえて目を開けてみれば既に会議が始まっていると言われて、慌てて飛び起きるタッシュ。


「え?今は・・・すでに会議が始まっているのですか?」


「そうです。何時まで経ってもタッシュ先生が出席されないので心配になって呼びに来ました。随分とお疲れのようですね?皆さんタッシュ先生の素晴らしい成果を楽しみにしていますので、早速行きましょう!こちらは私がお持ちしますね」


 床に倒れるように寝ていたタッシュを見て寝る間を惜しんで研究活動に勤しんでいる素晴らしい人物だと誤解している教官は、これならば改善された魔力可視化の道具は想像以上に素晴らしくなっていると期待を寄せている。


 魔力可視化の道具に見た目上変化は無く魔力に反応して起動してしまっては抜け駆けした様で他の先生たちに申し訳ないと配慮したのか、この教官は直接道具に触れないようにポケットから袋を取り出して道具を入れるとタッシュを強引に研究室から連れ出す。


 タッシュは昨日の出来事を思い出そうとしている最中に半ば強引に研究室から連れ出されているので、状況把握が出来ないまま魔力可視化の道具と共に教官が勢揃いしている会議室に入室する。


「タッシュ先生をお連れしました。寝落ちしてしまう程に錬金術を実行されていたようです。これほどの熱意があるので、これまでも不可能と言われていた成果を出せたのでしょう。今回の改善品も楽しみです」


 勝手にタッシュのハードルを上げている教官は、持ち運んでいた袋をひっくり返して道具に触れない様にしつつ全員が見える位置に置く。


「ではタッシュ先生。発表は最後になりますので、席にどうぞ」


 未だ現状が理解できないままだが発表が迫っている所は理解したので本音を言えば何とか少しでも事前に道具の起動チェックを行いたかったのだが、それすらできない状況に追いやられている。


 その様子を見て笑いを堪えているのは、ジャッ君ことダイヤジャックから事前にタッシュではあの道具は絶対に修復不可能だと教えられていたヨーレイとパーミア。


 タッシュがこの会議に参加していなかった時から二人で何が起きているのか想像しており、恐らく最後のその時まで必死に修復を試みているのだろうと小声で話していた。


 結局タッシュを連れてきた教官の話しから、その教官が口にした熱意は全く該当せずに寝る間も惜しんで修復できない状態を改善する為に足掻いていたと思っている。


 こちらも少々誤解はあるが、結論として道具が修復されておらずにこの場に来ている部分は変わらない。


「ヨーちゃん。タッシュ先生の顔色見た?無駄な努力で寝不足なのは間違いないわね」


「そ、そうですね。でも・・・ひょっとしたらがある可能性については否定できませんよね?魔力可視化の道具を初めて作り上げた実力は本物ですから」


 今後の教育方針や各予算の消化などの議題が進んでいるが、その大半が錬金術のクラスに関係する事なので知能分野担当教官のパーミアと魔力分野担当教官のヨーレイには全く関係ないし話しを振られる事も無いので、継続してタッシュの話しで盛り上がっている。


 少しするとタッシュに変化が一切なく道具を凝視してピクリとも動いていないので、別の話題に移行する。


「ジャッ君とは正直良い飲み友達になれそうなのよ!私と同じくらい飲める人なんてそうはいないから、またお邪魔するわ」


「か、歓迎します。でもパーミア先生と飲みかわせるなんて、凄いですね。わ、私は早々に脱落して、楽しかった事位しか思い出せないので・・・」


 呑気な話をしている二人だが議題は進み、やがて最後の議題も問題なく終了すると校長が宣言する。


 校長レベルの人材であればタッシュの様子を見ただけで道具が改善されている可能性は低いと把握できるしそもそも道具を作成した実績がない事も知っているのだが、自分の考えの及ぶ範囲から逸脱した道具を作成した過去があるのでそのまま議題を進める。


「今日の定例的な議題は全て終了しました。いよいよ私を含めて全員が待ち望んでいる、タッシュ先生の素晴らしい発表に移りたいと思います。過去に同じ状況になり魔力可視化の道具を発表された時以上の衝撃・・・感動的な、そして革新的な技術の誕生を目の当たりにできるのです。正直楽しみ過ぎて昨日は眠れませんでした。ではタッシュ先生、宜しくお願いします!」


 ヨーレイとパーミア以外は校長の言葉の通りだと思い期待に満ち溢れた目で半ば放心状態のタッシュを見ているのだが、真実をある程度知っている側としてはより一層校長がハードルを上げているので太ももを抓って笑い声が出ないようにしている。


 校長も教育者らしく道具が改善されていれば素晴らしい技術によって学業の幅が広がる為に期待しているが、タッシュが道具を作っていない事実を知っているしあの様子では改善されていないだろうと言う気持ちが大半を占めつつ成り行きを見守っている。


 校長の宣言で周囲から期待の視線を集めてしまったタッシュは、やれる事はやったので絶対に大丈夫だと根拠のない拠り所に縋って立ち上がる。


 どの道ここまで来てしまえば引く事は出来ないのでツカツカと表情を取り繕って歩いているのだが、手が微妙に震えている。


「ぷ・・・ヨーちゃん!見てよ。震えちゃっているじゃない?この時点でジャッ君の言葉が確信に変わるわね」


「ざ、残念ですね。自業自得の部分もありますから、仕方がないと言えばそれまでですけど」


 ヨーレイとパーミアが話している間にタッシュは道具の前に辿り着いてしまい期待に満ちた視線を投げかけて来る各教官や校長を見回すのだが、その中に格下で追い出そうと画策しているヨーレイと何れは同じく追い出してやろうと考えているパーミアが一切期待していない表情である事に気が付く。


 素人でもわかる程に周囲の期待の表情が過剰だと言えるのだが、逆に二人が目立っているので瞬間的にこの場をやり過ごす案が思い浮かんで実行する。


「本日はお集まりいただきましてありがとうございます。私は日々この国の発展の一助となるべく、また学校の発展に寄与するべく努力しているのですが・・・」


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