(307)全員の会議①
前回タッシュが半ば強引に教員を集めて発表会を開催し奪った道具を自らの功績だと主張したのだが、使用時の魔力消費に関して致命的な問題があると認識されている。
ゼシュー王子もそこを問題視して敢えて命令としてゼシューに改善活動を実施するように伝えていたのだが、何をどうしても改善する手立てすら掴めずにいる。
ゼシュー王子にしてみればタッシュが全力で事に当たって手掛かりすら掴めないとは思っておらず、やがては何らかの成果が確実に出てくるだろうと確信している。
タッシュは自らの名声を上げる一助になると思い道具が非常に有用だと確信していたために公開に踏み切っていたのだが、逆に言えば各教官から興味を必要以上に持たれている事にもなっており、最早なかったことにはできずに引くに引けない状態だ。
錬金を担当する各教官からの改善報告は1組の担当教官がタッシュのプライドを刺激する形で攻めてきたので、結果的に有用な情報は何一つ得られていない。
報告を受けたとしても使える内容は何一つないのだが、タッシュは現在窮地に立たされている。
「タッシュ先生!明日の会議、楽しみにしていますよ!」
私室と研究室を往復する短い時間でも他の教官から声を掛けられる始末で、明日の教官会議で魔力可視化の新しい道具についての議論が再燃することは間違いない。
まさしくロイ達が想定していた事が起こっており、最早なりふり構っていられないとタッシュはヨーレイの元に突撃する。
タッシュの私室とは比べ物にならないほどに狭く、そして日当たりも悪い部屋であったはずなのだが・・・何故か雰囲気が良く淡く優しい光が部屋を照らしている。
「ヨーレイ先生!ん?部屋の雰囲気が変わっているような・・・いや、今はそこではない!魔力可視化の道具・・・あのジャッ君とか言う訳の分からない存在が出してきた道具。予備は当然あるはずだな?」
「よ、予備・・・ですか?同じ品はないと思いますけれど、私ではわからないのでジャッ君に聞いてみましょうか?」
あの品は直球で表現すると適当に錬成したゴミと聞かされているヨーレイなので、完全に同じ品を持っているのかと聞かれればこのような回答になってしまう。
タッシュは明日開催の教官が一堂に揃う会議ではゴミと化している道具を何とか起動すれば時間を稼げると思い自らが開発した魔力を備蓄して供給できる道具をフルに使って起動を試みたのだが、元から壊れていたところに三人の教官が無駄に錬成を実施したことで何をどうしても起動することができなかった。
出した結論が格下と見下し続けていたヨーレイから予備の品を入手することだったのだが、あっさりと否定されて困り果てている。
あれ以上の品が存在するわけがないとの先入観があるので、実はヨーレイの懐にタッシュが最も望んでいる品があるとは夢にも思っていない。
そもそもヨーレイはロイ、ダイヤジャック、ミルバから絶対にこの品については口外無用と言われて自らも納得しているので、いくらお人よしのヨーレイでもこの品に言及することはない。
「こうなったら・・・仕方がない。ヨーレイ先生!あの男から予備の品を借りてこい!今すぐにだ!」
魔力分野担当教官に頭を下げるのは負けであると思っているのか、この期に及んで命令口調のタッシュ。
過去同様に強く出れば絶対に断れない性格であると知っているからで、言われたヨーレイはオドオドしている。
これだけ強く言われたので行かなくてはならないと言う思いと、もうこのような理不尽な関係は終わりにしたいと言う思いが鬩ぎあっていた。
「失礼する。ふははははは、やはり来ていたか!もうここまで来ると予想通り過ぎて呆れるばかりだな?」
待っていましたとばかりにダイヤジャックが入室してきたのだが、これは数日前に教官が集まる全体会議があるとパーミアから教えられていたロイがダイヤジャックに指示をしてヨーレイの周囲を警戒させていた為だ。
対応も常識の範囲と指示を受けているので、幸か不幸かカードの者達基準の常識で判断されることになる。
友人ができた喜び、その友人が能力発現に至った喜び、素晴らしい先生に教わる喜びから具体的な常識の範囲設定を忘れたロイの大失態だ。
「して、そこな無能が宣うに・・・自分が適当に錬成して見せた能力可視化の道具を所望しているようだな?その理由も容易に想像できる。あぁ、余計な言い訳は無用だぞ?この程度の道具を再現できない無能が何を言っても呆れるだけだからな」
タッシュにしてみれば正に権利を横取りしようとした相手と相対しているので多少の焦りが出るのだが、校長すら黙らせる事が可能な権力・・・学校内での絶対的な立場を利用して封殺すべく口を開こうとしたところに追撃を入れられてしまう。
「無能教官が欲しているのはコレであろう?」
いつの間にか掌に一つの丸い道具を出現させたダイヤジャックは、あえて起動して自ら抑えていながらも膨大になってしまう魔力の奔流を見せつける。
抑えていても人の域を軽く超えていると感じるほどの勢いだったのだが、そこは道具の異常か誇張するような細工がしてあると考えれば納得できるのでその道具を手に入れるべくタッシュはズンズンとダイヤジャックのもとに向かう。
「お前は一生徒の分際で過分な道具を持っているのだな。国家の、学園の発展のためにしばらくその道具は責任をもってこのタッシュが預かろう」
掌の上の道具を奪おうと手を伸ばしたタッシュだが、視線を固定していたのに突如として道具が消え去り行き場のない手が空中に漂っている。
「ふはははは、自分は伝えたであろう?道具を欲している理由も察しがついている・・・と。なぜ無能教師のありえない功績作りのために道具を提供しなくてはならないのだ?偉そうな言葉を並べていたが、自尊心を満たすだけが目的であろう?」




