(305)困惑③
1組が道具を解析できる期間が終わったと言うことは、錬金術分野のクラス全員が解析を試して手も足も出なかったことになる。
勿論各クラスの教官や総括の位置にいるタッシュも含まれているのだが、各クラスの担当教官は今後の自分の立ち位置が変わる可能性があるので相当緊張した状態のままタッシュの私室に向かっていた。
今道具を持っているのは1組の担任であり、これまた他のクラスの教官と同じように無駄に錬金術を行使していた為にこれ以上ないほどに道具は破壊し尽くされていた。
三人の教官はタッシュの対面に座っており、一先ず道具を返却するために1組の担任が外観上は何の変化もないが内部構造は最早原形を留めていない道具を返却する。
「こちらの道具、お返しいたします。タッシュ先生が私共に改善の要望を出されるには理由があると考えましたが、相当完成した道具であったようです。無駄に中途半端な改善を行ってしまった場合、タッシュ先生の素晴らしい成果を破壊してしまう可能性が高いと考えました」
1組の担当教官ともなればタッシュのプライドをくすぐりながらこの窮地を脱するために屁理屈をこねることも容易であり、今回命令を受けたのはタッシュが発明した道具の改善案を見出すことだったためにそこを突くことにした。
あえて自分たち程度の中途半端な案ではこの道具を悪化させる可能性が高いと述べ、タッシュが過剰に格上であると持ち上げて見せた。
ここで案が何も出なかったと言わないところが担当教官の立ち位置を守っており、タッシュもここまで言われてしまうと夫々の案を聞くことはできない。
聞いたとしても誰一人として真面な案は持ってきていないのだが、あっさりと1組担当教官の思惑に乗ってしまう。
「そうだな。確かに私の傑作を完全に理解して改善するなど相当難易度が高かった。申し訳なかった。確かにコレは受け取った。もう下がって良いぞ?」
正直1組の教官としては他のクラスの担当教官が改善案を出してしまえば自らの立場が悪くなることが確定してしまうのだが、何もせずにその時を待つわけにはいかずに苦肉の策で案とも言えない案を実行していた。
結果的に2組と3組の担当教官からも何も言葉が出なかったことから、この時点で他のクラスでも真面な案が出ていないことが確定した。
誰しもが過剰に上の立場を狙っているので、案が出ているのであればこれ以上ないほどのチャンスになっていたのだから・・・
その程度は理解できるのでタッシュの私室から出て暫くすると、ポツリと1組の担当教官が二人の担当教官に聞こえるように呟く。
「今回は貸しとしておきますよ?お忘れなきよう」
黙って去っていく2組と3組の担当教官だが確実にこの言葉は聞こえており、悔しさから何も反論することはなく夫々の私室に戻る。
この鬱憤は何度目になるのかはわからないが生徒に向けられ、まさか原因が最も格下で相手にすらならないと思っている無能集団だとは把握できずに辛い日々を過ごしている。
一方の魔力分野のクラスでは日々笑い声とともに学べる環境が確立されており、今日はいよいよミルバが既知となっている数々の能力をいくつか試した結果、高速思考が発現した可能性が高く試す時がやってきていた。
実はダイヤジャックが能力発動の気配を感じてロイの許可のもと誰にも知られずに鑑定を実施し、既に高速思考を持っていることは確定している。
例えば炎魔法を出そうとしているところで魔法を出す箇所・・・手であれば手の周辺の魔力が大きく消費されているはずであり、その能力が発動しかかっている証明になるとの仮定のもとで数えきれないほどの能力を試していた。
この国家で二番目に重要と考えられている知能分野と認識されている能力の一つと知られている高速思考を試したところ、頭の周りの魔力がごっそりと消費されて体を覆う魔力が補填するために移動したことが確認されていた。
「漸く・・・本当にやっと私にも能力が発現したのかもしれない!ロイ君、ジャッ君、ヨーレイ先生!見ていてください!」
幾つかの演算問題を複数準備してその解答を発現している可能性が高い高速思考を使って実施することにしており、演算の結果が正しいうえに数分で結果が出たのであれば一般人の域を大きく超えているので能力発現が証明される。
ダイヤジャックの様に鑑定術を持っている人物が鑑定すれば一発だが、残念なことにこの国で重要な錬金術を実行できるか否かは目視で明確にわかるために鑑定術も有用性が低いと判断され、結果今では鑑定術を持っている人物は公には知られていない。
「頑張って、ミルバ君!」
「ミルバ君ならできる。間違いない!自分を信じるのだ!」
「わ、私も絶対大丈夫だと思います!頑張ってください。良いですか、では・・・はじめ!」
ヨーレイの掛け声とともにミルバは全力で複数の演算を解き始めると、頭の部分にあった魔力は一気に消失すると同時に体を覆っていた魔力が頭の部分に移動を始める。
「流れもスムーズ。これなら絶対に大丈夫!」
ロイとダイヤジャックは能力が発現していることは確定していると知っているので、より有効な魔力の使用方法に意識が向いている。
必要かつ最小の魔力消費を行いつつ体全体から流れるように魔力を移行して消費することで、効率的に能力を高いレベルで行使し続けることができる。
実際に必死に演算を行っているミルバと生徒の能力発現を祈る気持ちで見ているヨーレイとは異なり、ロイとダイヤジャックは今のところ順調に魔力が適正に移行していると判断してこれまでの修練が実っていると内心で喜んでいる。
「そ、そこまで!」
ヨーレイの一言が教室を支配するが実はその前にとっくに演算は終了して確認までしていたミルバは、能力が発現したと確信して感動からか天を仰いでいる。




