(302)錬金術分野のクラス
この大陸、特にこの国ミューゼ王国では錬金術が他の全ての能力を補えた実績がある為に最も重要とされており、当然錬金術師も非常に立場が高い。
学校の入学試験のために粗全ての希望者は日々錬金術を行使するべく修練し、その結果相当な人が練度は別にしてその能力に目覚めている。
能力があればそれなりの価値があるのかと言えば決してそのようなことはなく、習熟度合いや本来持ち得ている魔力、その効率的な運用や経験によって実力・・・つまりは評価に大きな開きがあるのだが、魔力に関してはタッシュ本人があまり持っていないこともあって改善策を生み出し、費用さえあれば対策可能な状態の為に問題視されることはない。
学校の試験を受けた後に希望する分野は大半が錬金分野、そして能力が不足していると判断された少数が知能分野に向かうことになり、本来全ての能力を起動するために必要で非常に重要な基礎的学問の魔力分野は無能のレッテルがあり避けられている。
今は生徒が三人と近年では最高になっているが、それでも三人しかいないのでクラスは一つしかなく担当教官であるヨーレイが直接指導している。
逆に立場が上で所属している人員が多い魔力分野は3クラスあり、それぞれにタッシュとは異なる教官が教えている。
多少厳しくしても入学希望者が後を絶たない状態なので横柄になっており、本来せっかく魔力可視化の道具があるのでそれを利用して基礎的な部分も教えるべきなのだが、今ではすっかり実地ばかりで何かを教えることは稀だ。
日々教官の指定した錬成を実施し、期日までに実行できなければクラスが下がり・・・やがては退学と言う過度な緊張感のあるクラスになっている。
教官から学ぶ事は稀なので技術が向上するわけもなく入学前に培った修練の経験から必死にくらいついている生徒が大半だが、基礎技術が無くどうしても脱落する者は出てくる。
ロイと同時に受験した面々も漏れなく退学が見える3組に所属しており、既に数人は退学勧告によってこの学校を去っており、残る二人も間もなくその立場になる所にまで追い詰められている。
「俺・・・次の課題ができないと退学だってよ」
「実は俺もだ。何をどうすれば良いのか分からないのに、あのような錬成ができるわけがないだろう!なんだよこの学校!思っていた内容とは全く違うぞ!」
競争意識だけが異常に高くなってしまったので得られた技術を共有してしまうと自分の優位が脅かされる環境のために秘匿され、間もなく退学となりそうな時点で漸く互いに知り得ていることを共有する状態になっている。
退学目前の生徒が持ち得ている技術を共有してもたかが知れており劇的に改善すること等あろうはずもなく、また全て自己流のために肌に合わない技術であることが多いので逆に足を引っ張ることにもなっている。
「くそ・・・そう言えば、あの時にいた冴えない男。しょっぱなから教官に目をつけられていた奴がいたよな?」
「ん?受験の時にいた奴か?確かロイと言っていたな。ド底辺の魔力分野で授業を受けているはずだけど、それがどうした?」
「俺たちですらこれだけ苦労しているんだ。アイツも立ち位置から俺達以上に苦労しているはずだろう?少し肩の力を抜きに行かないか?」
上には上がいるが下にも下がいるので底辺だと思っているロイの劣悪な環境をその目にすることで少しでも慰めになればと、自己中心的な考えで魔力分野のクラスに向かう二人。
教室が近づくにつれて何故か笑い声が聞こえてくるので不思議そうにしている二人は、無意識に忍び足で教室に近づいて覗き込む。
予想に反して教師を含めて何やら雑談をして笑いあっており、自分達のクラスでは教師が何かを教える事もなければ笑える話しなどされるわけもなく、日々あり得ない課題提出の話しか提出した課題のダメ出しの言葉しか聞いたことがないので羨ましく感じてしまう。
下の人物の劣悪な環境を見て愉悦に浸ろうとした浅はかな二人だが、その後数日経っても新たな課題についての話題は一切なく、自習時間が続いていることに安堵しながらも不思議そうにしている。
その理由は・・・必死に道具を解析しようとしているタッシュだが既に道具は内部的に破壊されているので内部構造を把握しようにもできるわけがなく、難航していた事による。
真面に起動している時点でも手も足も出ないまま、今この状態が破壊されているゴミに成り下がっているとは理解できずに必死に構造を調べるために研究室に籠っていたが、当然切欠すら掴めないので視点を変えるために動いていた。
錬金分野担当教官を研究室に全員呼び出し、自らが開発した道具を改善しようとしたところ煮詰まってしまったので各自が切磋琢磨して良い案を出すように命令
した。
こうなると今まで生徒に命令していた立場の教官達はまさしく生徒の立場に成り下がり、必死に一つしかない道具を対象に研究しているために生徒に構う暇がなくなっていた。
これでも学校として成立してしまっているので、普段如何に真面な授業がなされていないのかが良くわかる。
数週間経過しただろうか、教官は何も成果が出せないことにこれ以上ないほどに焦り始めており、生徒達は強大なプレッシャーから長く解放されたことで非常に緩んでいた。
一方で知能分野と魔力分野は日々担当教官の二人がしっかりと授業を行っているので、緊張感がありつつも楽しく過ごし知識や技能もしっかりと吸収している。
知能分野のクラスに所属する生徒の中には錬金術の能力が発動できた人物もおり、その人物は漏れなく錬金術分野のクラスに憧れていたのは事実だが・・・現実を嫌でも目の当たりにする機会があるので今ではクラスを移動する気にはなれなかった。
それほどに錬金分野のクラスが劣悪で、知能分野教官のパーミアが素晴らしいと言える。
ある日・・・切羽詰まり過ぎたのか、錬金分野の3つのクラスの教官は示し合わせたかのように揃って各担当のクラスで暴挙に出る。
久しぶりに教室に顔を見せた教官に思わず眉をひそめてしまう生徒達に向かい、あろうことか教官達は自分達で数週間かかっても手も足も出なかった可視化の道具の解析を実行するように告げていた。




