(294)交渉①
タッシュは学校での立場と力、そして完全に優勢になっている第二王子ゼシューをある意味懐に入れているので今のところ敵なしだと思っていたのだが、思わぬところで自らの威厳が全く効かない存在が表れて苛立っている。
最悪は人目のない所で錬金術によって作成した道具を使い亡き者にしてやろうと教師としてはありえないことまで考えていたのだが、どう考えてもこの環境では自分が真っ先に疑われるしアリバイを考えるほどの余計な知識や余裕もないので他の方法を考えている。
「あの錬金術・・・どう考えてもイカサマだろうが、この私の目をもってしても何が起きたのかわからなかった。現物があればもう少し調査のしようがあるのだが、あれはゼシュー王子が持ち帰ってしまったからな」
錬金術分野の担当教官と言ってもクラスは魔力分野とは異なって多数ある為にタッシュはクラスを受け持っておらず、全体を総括する立場である事から与えられている広い私室でロイに対する対応を考えている。
錬金術に関して言えば自らが実行不可能なものは他の面々では絶対に不可能だという固定概念があるので、ロイがカードの力を借りたと言っても錬金術で錬成したとは絶対に思えない。
公にロイが如何に無能かを暴露する方法も考えていたのだが、同じように認識できないイカサマによってあたかも錬成した様に見せかけられては逆に自らの立場が悪くなりかねないと二の足を踏んでいる。
「差し当たってはこの道具を没収したから、真面な授業はできないだろうが・・・それだけでは私の腹の虫は収まらない!」
手には可視化の道具が握られており、ロイから指摘されたとおりに周囲の魔力と自らの魔力の境が判別できないほどしか魔力がない状態だ。
こうすることでロイに対する怒りの炎を絶やさないようにしているのだが、頭に血が上り続けているので何をするにも現状効率は非常に悪い。
「そもそもロイとか言うふざけた奴はハルバン伯爵が連れてきた。つまり異大陸から来たのは間違いないので、情報は・・・ハルバン伯爵かミルバ王子しかもっていないだろうな」
弱みでも握ればそこを豪快に突いてやろうと思っているのだが、そもそも個人情報がまるでないのでこの手は使えない。
結局結論が出ないまま翌日になっており、気分が晴れないので敢えて三度魔力分野の教室に向かい可視化の道具がなくなった為に効率的な授業ができなくなっている様を見て溜飲を下げようとしていた。
今までの通りに露骨に教室に入るとロイから怒りの燃料を投下される可能性が高いと思い、後ろの扉からそっと授業を覗いている。
やはり道具がないせいか魔力に関する実地はできていないようで、ヨーレイは黒板に魔力に関する理論を書きながら説明している。
「これならば、仮に一年学んだとしても何も成果はないだろうな。多少使えない魔力の知識が増えるだけでミルバ王子も無能のまま。ゼシュー王子の立場がより盤石になるだけだ!安心したぞ!」
強制的に自分が有利になっていると言い聞かせながら私室に戻っているタッシュだが、魔力分野のクラスでは内容の濃い授業が行われていた。
そのあたりの知識がないし必要もないと思っているタッシュなので板書されていた内容は下らない知識と切って捨てていたが、これまでのヨーレイが得た経験と知識からどのように魔力を制御するのが効率的か書かれており、ロイにとっても目から鱗が落ちる内容だった。
ロイ同様に足元のスペードキング、そしてそこから情報を聞いているカードの者たち・・・特に頭脳派集団のダイヤ部隊が非常にざわついていた。
座学しかできない状態ではあるが密度の濃い授業を数日受けており、一度担当教官のヨーレイと仲の良い知能分野の担当教官であるパーミアと一部の生徒の来訪があった以外ではお邪魔虫が来ることもなく、平穏な学校生活を送れている。
当然タッシュが何もしないわけがなく必死に毎日どのようにロイや魔力分野のクラスを潰してやるのかを考えていたのだが、現時点で妙案が出ていないので実行できなかっただけなのだが、やがて強権とも言えるゼシューを巻き込んでありえない手段に出た。
―――ガラガラ―――
扉の音でヨーレイや授業を真剣に受けていたロイとミルバもその方向に視線を向けると、タッシュとゼシュー、そして何故か校長までがいた。
「あ、あの、どのようなご用件でしょうか?」
タッシュとゼシューの二人であればロイが反射的に対応したのだろうが、そこに校長がいるとなれば担当教官であるヨーレイが対応するほかない。
この短い時間でヨーレイは人見知りながらも一生懸命に生徒と向き合ってくれる素晴らしい教師だと把握したロイとミルバは、仮に状況が悪化すればヨーレイを庇うつもりでいる為に成り行きを注視している。
「ヨーレイ先生。今日はゼシュー王子の権限によって一つ実行していただかなければならないことがあります」
タッシュとゼシューの表情は教師と王族とは思えないほど醜悪であり、逆に校長は非常に申し訳なさそうにしている事からこの時点で碌な話ではない事は確定している。
ヨーレイもその程度はわかるので、今まで以上に少々怯えながら必死に対応している。
「ど、どのような事でしょうか?」
「実は・・・魔力分野のクラスだけは生徒数が非常に少ない。学校としても国家から補助金をいただいている以上、相応の成果が見込まれずに衰退している学問に無条件で投資し続ける訳にはいかないとの結論に至りました」
ロイとミルバは互いを見ており、校長の言っていることはある意味正しいがどう考えてもタッシュとゼシューの圧力だろうと不快になっているが、具体的な話しがまだなので黙っていると得意そうにタッシュが割り込んでくる。
「さんざん長い目で見てやったのに、未だに何も成果が出ていない上にクラスとしての体もなしていない。よって、明日までに新たな生徒が一人も来なければ解散させる!」




