(293)当然といえば当然
三人揃って特に問題なく再び授業が始められる魔力分野の一組。
「そ、それでは今日はもう少しお二人の魔力の流れについて検証し、その流れを色々と変化させてみましょう。もちろん流れが良すぎる部分も能力発動に悪影響を与えている可能性がありますから、一口で言ってしまえば改悪することも含めて実験していきます。な、流れが可視化できている状態であればコントロールする感覚も身に着け易いと思いますので、頑張りましょう!」
再び懐から魔力可視化の道具を出すと先ずはロイが最初に実行するようで、手渡されたロイは立ち上がって楽な姿勢を維持する。
「じゃあ、行きます」
道具を手に取った時点で可視化が行われているので宣言する必要はないのだが、指摘されていた右手を意識してみると確かに見える範囲の中で他のどの部分よりも魔力の流れが速くなっていることに気が付く。
「げ、現状認識はできましたね?ロイさんは右手の流れが良すぎますので、その部分の魔力の流れを悪くする意識をしてみましょう。右手で消費しているイメージを払拭して、左手と同じく何もしていないと思ってみてはどうでしょうか?」
ヨーレイのアドバイスの通りにしているつもりだがこれまで魔力が自分を覆っていることは理解できても流れや密度について考えたこともなかったので、一朝一夕にできるものではない。
「ロイ君。頑張って!」
ミルバも我が事のように応援してくれるのだが、やはり何も変化がないまま過去に経験したことのない疲労感に襲われる。
「そ、そこまでにしましょう。魔力を持っている人でも流れを意識できている人はかなり少ないです。そのうえ強制的に現状を変化させようとしているのですから、か、体だけではなく精神にも多大な負荷がかかります」
ロイの様子をしっかりと観察していたのか、ヨーレイによってロイの作業は強制的に中断させられる。
「ふー、ミルバ君。少し安易に考えていたけど思った以上に難しいよ。逆に言えば、できるようになるのが楽しみだよ!」
こう言いながら額の汗をぬぐって道具をミルバに渡すロイ。
「そのようだね。桁外れの魔力を持っているロイ君だからこそ・・・かもしれないけど、私も魔力の流れを意識して操作することは初めてだから頑張るよ!」
「ミ、ミルバさんの場合は“おへそ”の周辺で魔力の流れに淀みが見られます。ロイさんとは逆に経路を解すようなイメージが必要になります」
ここでも的確な助言を行っているヨーレイは魔力の流れの変化やミルバの体調の変化を見逃さないように注意していると・・・教室の扉があく。
「やはり使っていたか。無能ども!それはこの俺タッシュ様が寝る間を惜しんで我が国の発展のために作成した道具、心血を注いで研究を行った正に血と涙の結晶だ!それを何も利益にならない、むしろ害にしかならない連中に貸し出すわけにはいかない。返してもらおうか!」
再びタッシュが怒鳴り込んできたのだが、言っていることは一部非常識ながらもこの道具の所有権を持っているのは開発者であるタッシュであり、昨日の屈辱をどのように晴らすべきか考えた結果、授業中にこの道具を使用していた形跡があることに気が付いて没収するために来ている。
「あれ?ペテン先生!毎日毎日、随分と暇なのですね。ひょっとして魔力のクラスが気になって仕方がないのですか?」
反射的にロイが煽り返しているが、開発したのはタッシュであると聞いていたことから所有権に関しては一切口にしない。
ギロリと音がしそうなほどにロイを睨みつけたタッシュだが、今はこの道具を回収するのが最優先だとミルバが持っている道具を強制的に奪う。
「この俺が作成した素晴らしい道具を無能が使っても仕方がない。今までは温情で見逃してやったが、不敬な態度をとる以上はこちらも譲歩する必要はないからな」
ここだけ聞けば正論だが・・・常識が壊れているロイが普通に黙っているわけがなかった。
「あはははは、随分と貧弱な魔力ですね。大気中の魔力と体を覆っている魔力の境目がわからないほどですかぁ。残念ですねぇ?」
折角できた友人が気合を入れて試行錯誤しようとした出鼻を大きく挫いたので、教師の立場がして良い事ではないと多少の怒りも含んで対応しているロイ。
事実タッシュは錬金術を行使する際には通常懐に忍ばせている補助道具から魔力を得て実行しており、何もなければ標準的な魔力値を下回っているので錬金術の技術はあってもレベルの高い錬成は行えない。
そこを補うために血の滲む思いで修練しながらも多数の道具を生み出した結果今の立場にいるのだが、コンプレックスとも言える・・・触れてはいけない部分に容赦なく触れてきたロイは完全に敵であると認識された。
普段のロイであればこのような言葉は絶対に出さないが、タッシュの行動が許容範囲を大きく超えているので敢えて指摘している。
今日は可視化の道具を取りに来ただけなので魔力を補完する道具を持っていないのか起動していないのかは不明だが、素の状態の魔力が可視化されてしまった。
「お前はこの学校で、今後真面に学べると思うなよ?」
怒りが頂点に達しているのか短い言葉ながらも相当な圧力があるのだが、ロイにとってこの程度はギルド職員として荒くれ者を相手にした経験がある上にカードの者達の暴走による心労と比べるとまるでそよ風だ。
「そこまで心配していただいてありがとうございます。そのような結末にはならないので、安心してください!」
分かっていながら過剰に好意的にとらえた形の返事をして更に煽っており、タッシュはこれ以上この場にいては教師としての顔を失いかねないと速足で出て行った。




