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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
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(292)撤退

 喧嘩を吹っ掛けた挙句にイカサマまで行って勝負をしていたタッシュとゼシューだが、懐に抱えている素材が黄金に変化しているのに気が付いて驚愕している。


 全てを黄金に変える必要性がないので、二人の性格であればそのまま持ち去られる可能性が高いと判断して本当に表層だけを変化させている。


 そもそも全てを変化させては重さが異なりすぎるので、手から離れて抱えきれなかった事を理由にイカサマをしたと言われる可能性を潰したかった事もある。


 実際に妨害をものともせずに錬金術を実施したのはジョーカーの一体であり、ロイはスペードキングに今回の実行についてジョーカーが行うように指示を出していた。


 この程度の悪党は難癖をつけてくる内容も簡単に想像できるので、肩をすくめながら敢えて少々見下すような雰囲気を作ってとどめを刺しに行くロイ。


「あれ?あれれれ?誤魔化すも誤魔化さないも、俺は普通に指示された錬金術を行使しただけですけどね?イカサマって何をしたのか教えてもらえませんか?何も錬成できなかった無能教師さん?」


 ロイのことを穏やかで朗らかな好青年だと認識していたミルバとヨーレイは、徐々にだが確実に逃げ場無く追い詰める態度・・・言い方は悪いが相当陰湿に攻め込んでいるロイを見て絶対に怒らせてはいけない相手だと認識していた。


「す、すり替えたに違いない!この素材は絶対に錬成できない搾りカスだ。つまり、素材をすり替える他には手法がない!」


「そうは言ってもどこかの無能教師が錬成できなかった素材をそのまま使っていますし、俺は一切触れていませんけど?事前に不正防止状態であると確認したうえで実行していますよね?それすら忘れましたか?それともう一つ。錬成できない素材を俺の入学試験に使ったこと、自白いただいてありがとうございます!」


 ああ言えばド正論と煽りで返されるので、結局何を言っても勝てないと思ったのか黙ってしまうタッシュ。


 ゼシュー第二王子もどう考えても分が悪いのはわかるので、光り輝く素材をタッシュから奪う様にしてそのまま教室から出て行ってしまった為にタッシュも慌ててその後ろを付いて行く。


「あの・・・せっかく楽しい授業の雰囲気だったのに、ぶち壊して申し訳ありません」


 二人が出て行った姿を確認すると、ロイは改めて立ち上がりミルバとヨーレイに謝罪する。


「い、いえいえ。正直胸がスッとしましたよ?」


「色々と素晴らしかったよ、ロイ君。正直私ではどうしようもなかったかもしれないので助かったけど・・・ロイ君は間違いなく目を付けられただろうし、ヨーレイ先生も当たりが強くなってしまうかもしれません」


「だ、大丈夫です。毎日あんな感じなので、もう慣れたと言いますか・・・」


 あの状態に慣れてしまうのも微妙だと感じてはいるが、この程度であれば普通の生徒の範疇で生活ができるので問題ないと少々ズレたことを考えているロイ。


 繰り返しにはなるが王位継承を有利に運んでいる権力と財力、さらには人脈まで持っている第二王子ゼシューや国家として最重要とされている錬金術の使い手であり学校での担当教官のタッシュに対して、平然と一生徒が反撃すること自体があり得ないのだが・・・


 祖国で万屋を始めとしたカードの者たちの暴走に感化されてしまった部分が大きい。


 その日の夜・・・指定の宿でダイヤキングと会話をしているロイ。


「だからさ?俺としては普通の学生として生活してみたいんだ。今日みたいに少し力を借りるときはあると思うけど、基本的には命の危険がない限りは俺の指示なしで動くのは禁止させてもらうよ?」


「・・・承知しました。ですが、あの先生は非常に深い知識をお持ちで感銘を受けたところです。我が主の魔力使用方法が改善できれば、仮に全員顕現したとしても前回の様な事は起こらないかもしれません」


「だよね。過剰な能力だから制約があるのは覚悟していたけど、制約というほどではなく改善できる可能性があるのであれば、せっかくなら試してみたいよね?」


 これだけでも異大陸に来たかいがあると感じているロイなので、明日からの授業も新しい知識や必要な技術をモノに出来る可能性が高いと浮かれている。


 ダイヤキングもこれだけ浮かれているロイを見たことがないので、言われたとおりに勝手に行動することは厳禁だと胸に誓う。


 翌日登校すると昨日同様ミルバは既に教室にいた。


「おはよう、ミルバ君。昨日よりも少し早く来たつもりだったけど・・・ミルバ君は早いね?」


「おはようロイ君。私はあまり城にいたくないから、必然的に早く来ちゃうんだよ」


 昨日で相当打ち解けたので本来は隠したい部分も曝け出し、本当に友人に話すような口調になっているミルバ。


 ロイもミルバが苦境に立たされているのは理解できているので気の毒に思いながらも、学校では一生徒で自分の友人と言う立ち位置を変えるようなことはしない。


「そっか。昨日は大丈夫だった?」


「まぁ、今のところは大丈夫かな。それよりもヨーレイ先生の方が正直不安でね。実はその不安もあって何時もよりも更に早く来ちゃったんだよ。今冷静に考えれば、私が早く来ても何も変わらなかったね」


 確かにヨーレイが何かしらのトラブルに巻き込まれて授業が行えなくなってしまうと大損失なのでどうするか悩み始めると、すぐにヨーレイが現れた。


「お、おはようございます。皆さん早いですね。私、これでも急いで来たつもりだったのですが・・・上には上がいましたね」


 ロイとミルバは隣の席に座っており、その前に机を移動して近接した位置に座ったヨーレイの視線が二人の体中を確認しているのは理解できるので、互いに問題ないことを確認して授業が始まった。


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