(291)驚くべき事態!
机の上には絶対に変化を起こせないと思っている素材が乗っており、今は目の前に座って素材を見つめているロイと、本来は味方であるはずの第二王子ゼシューからの視線も感じている錬金術担当教官であるタッシュ。
何時まで経っても行動しないので、早くロイが次なる行動を起こしてどのような道具を使っているのか判別したいゼシューがタッシュの尻を叩く。
「タッシュ。折角だから無能に見本を見せてやれ!その方が無能との埋めきる事のできない絶対的な才能の差を思い知らせてやれるだろう?」
「いや~、本当にその通りですよ。初めて意見の一致を見ましたね。次回以降は遠慮したいですけど・・・と言うことで、早くお願いしますよ?」
この指摘に被せる様に乗ってきたロイの言葉を聞き、破れかぶれになって錬金術を全力で行使するタッシュ。
素材が淡く光り始めたので錬金術を行使しているのは誰にでも理解できており、確かに全ての力が素材に集中しているように感じるので実力は高いのだろう。
「流石の実力だな、タッシュ。それで、この素材が何になるのか・・・楽しみだ」
錬金術師として明確にタッシュの実力を認めているゼシューは、素材がどのように変化するのか本心から楽しみになっている。
その後に光が収まると・・・そこにはタッシュの事前予想の通りに何も変化のない素材が残っていた。
「プハハハハハ、あれ?これって錬金術としての能力を計測する試験用の素材ですよね?なんで何も変化が起きていないのかなー?不思議だなー?まさか、担当教官が能力なしなんてことはないよねー?入学希望者よりも無能なのかな?」
「き、貴様・・・そうだ!この素材はお前が勝手にすり替えていた何も変化が起きない残りカスだ。そのような品を出しておいて恥ずかしくないのか?流石は無能の異分子だな!恥という概念がないらしい」
それはお前だ!と反射的に返しそうになるのを堪えたロイは、小声でスペードキングに指示を出している。
口を本当に僅かだけ開き、他から見れば何も変化のない状態での呟きの為にカード以外の誰からも拾われることはない。
「はいはい。じゃぁ、その素材を錬成できれば言いがかりだと証明できますかね?」
「と、当然だ。だが、お前は無能で錬金術師としての能力は全くないはずだ。できるものならやってみろ!」
試験は不正でロイに錬金術の能力があるか否かは全く判定できていないのだが、無能であると思いたい事と引くに引けない状況になっている事から売り言葉に買い言葉で反応してしまう。
「わかりました。すり替えたと言われるのも嫌なので、端を持っていてください。何なら、突然教室になだれ込んで訳のわからない妄言を垂れ流していた貴方も持ってもらって構いませんよ?さっきから穴が開くほど俺の手元を観察しているようなので、不正を疑っているのでしょう?」
まったく気にしているそぶりを感じなかったのだが、ロイを慎重に観察していた事実まで指摘されてこちらも引けなくなったゼシュー。
「不敬な・・・ここまで暴言を吐いて錬成できなかった暁には、お前の学園生活はその時点で終了だぞ?」
「起こらない未来の話しをする暇があったら、さっさと素材を手にしてくれませんか?俺は早く授業を受けたいので」
「「お前・・・」」
この期に及んで全く引かないロイなので、ここまで自信満々であれば何かしら対策があるのだろうと祈る気持ちで見ているヨーレイとミルバ。
何故かゼシューとタッシュは両手で素材を包むように持っており、この状態では本当に錬成できる素材であっても変化を起こすことは非常に難しい。
余計な障害物がある状態となっている上に妨害するように二人揃って異なる錬金術を行使しており、物理的、能力的に錬金は阻害されることになる。
そもそも錬金術の能力がないロイはそのあたりの知識がまるでないので一切気にする素振りは見せないのだが、ヨーレイとミルバはあまりの非道さに立ち上がろうとする。
「あ、そこまで大切に抱えていただければ不正は行われていない証明になりますよね?色々と無駄ですけど・・・その辺り、しっかりと明言してもらいたいのですが?」
ロイの言葉で浮きかけた腰を落とすと、今度は興味深くロイと素材を見ている。
「はっ、ブレない不敬な態度だけは誉めてやろう。お前の言う通りにこの状態で錬成できれば、不正は一切ない!」
自分が不正をしているのは棚に上げているのだが、雰囲気から第一王子派の可能性が高いロイを即日排除できるのでしっかりと答えているゼシュー。
「じゃぁ、行きますよ・・・っと」
言質が取れたとばかりにロイは立ち上がり、何とも言えない掛け声とともに少々大げさに腕を振り下ろすと直ぐに座りなおしてしまう。
「無能はどこまでも無能。お前はこの時点で退学が決定したぞ?」
「当然このクラスは解散ですよね、ゼシュー王子!つまり、ヨーレイとミルバはお払い箱になるわけだ!」
自信満々に告げているゼシューとタッシュは排除対象のヨーレイとミルバを見ると、大きな目を見開いて視線が素材の方を向いているので抱えている素材に意識を向ける。
「ば!ばかな?」
「何が起きた?お前・・・どのようなイカサマをした?錬金術担当教官のこの私、タッシュ様の目はごまかせないぞ?」




