(281)異大陸へ⑨
予期せぬ襲撃後はダイヤキングの道具によって蓄積されているロイの魔力変化状態のデータを調査して少しだけ忙しくなったのだが、当初船長が予想した通りに天候は穏やかで落ち着いた船旅を楽しむ事が出来ていたロイとカードの者達。
海洋生物が初日に襲い掛かりその対処をロイが万屋に願っていた事も知れ渡っていたおかげか、船内のどこで誰に会っても異常なほどに好意的に受け入れられていた。
逆に言えばそれ程までに第一種状態が危険な状態だったと言えるのだが、屈強な船乗りは同じような経験をしている面々が多数いるので恐怖を引きずる者はいないようだ。
予定通りに数週間経過しただろうか・・・毎日の散歩がてら必ず甲板に顔を出していたロイの視界にも、米粒のように大陸が見え始めた。
「ここから新たな旅・・・か」
「いやいや、そうではないと思うぞ?実は大陸についての行動の選択肢を示す様に言われていたのだが、例の騒ぎですっかり忘れていた。ちょっとこれを読んでくれないか?」
背後に船長がおり突然声をかけられて驚いたロイだが、素直に手紙を受け取って中身を読み進める。
「えっと、学校があるので入学したらどうかと言う事ですか?」
「そうだな。一応ロイ殿の立場に関しては政治的にはこちらからは干渉させないと言う約束があるので、保証人としては第一王子ではなく俺になる」
露骨に自分は第一王子派だと明確に宣言している船長だが、あれ程の戦力を持つ万屋が背後にいるロイであれば全て知っているだろうと思っての行動だ。
事実その程度であれば既に理解しているロイは、悩み始める。
確かに学校に通うのは楽しそうではあるのだが、逆に言えば自由な時間が無くなる可能性もあるので気ままな旅は出来ない可能性が高い。
「ロイ殿は旅をしていたと聞いている。同じように旅がしたければ、入学後に学校で学ぶことが無くなった際に改めて旅に出るのもアリだぞ?」
身分を保証してくれる存在が勝手に退学しても良いと言っているのと同義なので、それならば行ってみたいと意思を固めるロイ。
「ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願いします!」
「ははは、俺の方こそ命を救ってもらった事に加えて、正直もっと早く手紙を渡さなくてはならなかったからな。申し訳なかった」
大きな海と同じく豪快な人だと思いながら、ロイは始めて通う学校に意識が向いていた。
「俺みたいな中途半端な年齢で、大丈夫ですか?」
「そこは問題ないぞ。下は歩き始めたばかりから、上は文官として働いている者も学校に行っているからな。まぁ、流石にクラスは違うが」
「そうですよね。赤ちゃん?と文官ではレベルが違いますから。で、そのクラスはどのように分けられているのですか?年齢ですか?」
「いや・・・まぁ、若い連中は年齢なのだが、ある程度の年齢になれば実力で区分される。その方が教える方も効率が良いからな。その実力を示す分野は道具作成能力、知能と交渉能力、最後に魔力だな」
手紙にも記載はあったが、説明順からも魔力は最も優先順位が低いと再認識したロイ。
「えっと・・・それぞれの分野でクラスがあるのか、どれか得意な分野を選択してそれだけを学び、更にそこから分離されるのか。どの様な感じですか?」
「あの学校の教育方針は明確だ。それぞれの能力を集中的に伸ばす為に分野を選択してその中でクラスが分かれる。試験を受ける時にはどの分野に行くのかは決めておいた方が良いと思うが、一応全ての試験があって最も成績が良かった分野を選択するのが一般的だな」
自分はどの分野が優れているのか考え始めたロイだが、自分自身の能力で考えれば道具など作れるわけがないし知能も自信を持って言えるほどではない。
知能の一部の交渉能力は冒険者相手であればある程度の自信はあるが、王侯貴族相手であればバミュータと比較すると恐らく足元にも及ばないので能力は低いと考えていた。
残りは異大陸で重要視されてない魔力になるが、流石にコレは異常な力を持つカードを使う為に相当量ある事を自覚しており内心自信もある。
「コレは独り言だが・・・第一王子は魔力の分野で一組にいらっしゃる」
最後に何とも言えない一言を漏らしながらこの場から消えて行く船長。
「なんだかんだと最終的には政治的な話しをしているけど、そこまで切羽詰まっているのかもしれないな。第一王子・・・か。手紙によれば不遇と言われる魔力分野ながらもトップクラスで間違いないのかな?」
ロイの予想通りに第一王子の立ち位置は非常に悪く、王位を継承する第一王子がこの大陸で最重要視されている道具作成能力、則ちダイヤ部隊が最も得意とする錬金の能力が皆無である為に継承に異を唱える貴族が大半を占めた結果、政治的な安定が損なわれている。
あれほど豪快で広い心を持っている船長が、最大の禁止事項であるロイに対する政治的な話しをしてしまう程第一王子の状況は良くないのだろう。
「だからと言って・・・ね。バミュータさんの助言もあるから、安易に動く事は出来ないな」
情に流されたり中途半端な情報で判断したりは厳禁だと言われているので、改めて戒めの為に口に出して自分の意思を確認しているロイ。
そうこうしている内に時間は経過し、船着き場に到着するようで船長の声が響く。
「間もなく到着する。接岸準備!」
微振動が数回続くと船の動きが止まったのを肌で感じたロイはいよいよ新しい生活の始まりだと心躍らせながら小さなカバン一つを持って部屋で待機していると、船長のハルバンが部屋に来て今後の動きを教えてくれた。
「ありがとうございました。御紹介頂いた学校、楽しんで通ってきます!」




