(280)異大陸へ⑧
ハートクィーンが万屋として突然襲来してきた海洋生物に対して対処すると決まった直後、三度船長からの声が聞こえた。
「第一種!第一種状態!!」
「これって、数字が一って事は最大限危ないって事だよね?ハートクィーン。直ぐに頼むよ?」
言葉の意味を知ったロイは確かにあの船長がこれほど焦る様な雰囲気を出している時点で異常状態だと理解しているのだが、ハートクィーンが向かった以上は直に事は収まると確信している。
予想通りに一瞬何か水がはじける音がして船が少しだけ浮くような感じがしたのだが、その後に喧騒は一気に消え去る。
「状態解除・・・」
何故か少々魂が抜かれた様な船長の声が聞こえたのだが、作戦が成功したのは間違いないので今度は落ちる事を心配しなくて良いベッドに大の字で横になるロイ。
「お待たせいたしました。万屋としてしっかりと白い海洋生物に対処してまいりました。何やら操作されているようでしたので、操作媒体を破壊の上で厳しく指導しておきました」
「え?」
サラッと報告されているが、ロイは二つの疑問にぶち当たっている。
一つ目は当然今回襲い掛かって来た海洋生物が操作されていた所であり、自分を狙った可能性も否定できない為に今後は積極的に周囲に対する安全対策を行わなくてはならないと思っている。
二つ目は指導と言う言葉であり、あの船長が焦りを隠せない程の存在を指導・・・何をどうしたのか非常に気になるところで今更ながら嫌な汗が流れて聞く気が起きなかったのだが、ロイから褒めてもらいたい気持ちが溢れているハートクィーンは聞かれてもいない事を話し出す。
「あの白い生物ですが、あの程度の媒体では情報が乏しく触媒から操作元に辿る事は不可能だと判断いたしました。ですので、しっかりと調教して海洋生物自身の意志で操作元に向かいそれなりの罰を与える様に申し伝えております!」
海洋生物に何を申せば伝わるのか理解できないロイだが、カードの者達であれば出来てしまう可能性が高いので強制的に自分自身を納得させる。
「わ、わかった。お疲れ様。ところでその生物は何を狙ったのか分かる?もし対象が俺なら、それなりの対処をしなくちゃならないからね」
「私が把握している限りでは、対象はこの船と命令されていたようです。あの程度の媒体ではそれ以上の詳細については命令できなかったのでしょう。因みにですが、あの軟体動物は異大陸から来たようですね」
この時点でソシケ王国の手が回っていない可能性が高く、祖国からの刺客ではなかった事に安堵しているのだが・・・自分を狙ったわけでは無いとまでは断定できない。
「そっか。じゃあ辺境伯との交易を面白く思っていないのか、俺が第一王子派になると思われて消しにかかったのか・・・そもそも何も考えずに第一王子派にトラブルを起こそうとしているのか、分からないことだらけだけど注意は必要だね」
その後も仮定の範疇を出ない話しをしていたロイだが、スペードキングからこの部屋に向かって来る船員の気配を教えられてハートクィーンはカードに戻る。
ハートクィーンも普段であればその気配はつかめるのだが、今はロイとの会話に集中しきっていたので全く気が付いていなかった。
―――コンコン―――
「はい、どうぞ」
「失礼する。おっ、ロイ殿は随分と酔いに耐性があるようだ。初めての船旅と聞いているが素晴らしい。ちょっと時間を貰っても良いかな?」
「はい。襲撃を受けた件と万屋の件ですか?」
「はははは、その通りだ。本来これほどの事態であれば船長が直接話すべき案件だけど、今は忙しいから俺が代わりに話しをさせてもらう為に来た」
「そうですか。何か俺にできる事があれば言って下さい」
「いやいや・・・正直に言うと、聞こえていたと思うが第一種状態にまでなると命を覚悟するレベルなのだが、誰一人として欠ける事なく設備も無事。コレは有り得ない状態だと言って良い。その朗報をもたらしてくれたのは万屋・・・つまりは万屋に対処を願ったロイ殿のおかげだ」
思った以上に危険な状態だったのだと理解したロイは、迷わずにハートクィーンを対処に向かわせて良かったと安堵していた。
「一応確認ですけど、誰も怪我をしていないのですよね?場合によっては再び願う事も出来ますけど?」
「いや、本当に大丈夫だ。俺も信じられないがな。それでロイ殿が直接万屋に対して行動して頂けた事実が分かったので、俺の仕事は正直終わりなんだよな。そうだ!もう一つあった。あの見た事も無い様な生物が突然海中に消え去ったのだが、その後はどうなったのか教えてもらえるだろうか?今後も警戒する必要があるのかが気になっているからな」
本当は全く問題ないばかりか操作されていた存在の為に開放して操作元に報復する様に対処したと伝えたいのだが、そこまで伝えては万屋と常に意思疎通を行えると思われる事や操作に関しての情報を求められるので曖昧にすることにした。
「そこは良く分かりませんが万屋には襲来している海洋生物にしっかりと対処するようにお願いしましたので、同じ個体は来ないと思います。ですが運良く直に万屋が願いを聞き入れてくれて助かりましたよ」
暗に今後何かがあった際に全てを万屋に押し付ける事は出来ないと告げているロイだが、元からそのようなつもりは一切なかった船員なので裏の意図など把握できずに笑い飛ばしていた。
「ははは、その通りだな。今回は運が良かった。最悪は全員揃って餌になっていた所だ!」




