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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
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(279)異大陸へ⑦

「ハ、ハートクィーン・・・申し訳ないけどさ?少しだけ消化を速めてもらいたいのと、事前に気持ち悪くなるのを抑えておきたいんだ。できる?」


 収納魔法からカードを取り出し、ハートクィーンを顕現したロイは少しだけ不安そうに問いかけている。


 ここで無理と言われては地獄が待っているかもしれないと思ったので仕方がないのだが、常識が破壊しているカードにしてみればその程度は造作も無い。


「もちろんです、ご主人様。このハートクィーンにお任せください!」


 一瞬で全ての作業を終えているのだが、少しでも長くロイと共に居たいので敢えて未だに魔法を行使しているふりをしているハートクィーン。


 その間も揺れは大きくなり続けているのでベッドや棚はその辺りを見越してしっかりと固定しているおかげで何も被害はないが、ロイが持ち込んだ荷物の一部は既に床に落下している。


「ちょっと・・・これって大丈夫なのか確認してくれる?」


 癒しが最も得意であるハートの部隊であっても当然の様に戦闘能力も持ち合わせているので、そのまま顕現しているハートクィーンに指示を出すロイ。


 本当はもう少し傍にいたかったのだがロイに言われては断れないので、素直に従い部屋から消えて行くハートクィーン。


 足元のスペードキングは初めての船旅である事や一度甲板にロイが出た際に無限に広がる海を自らも認識し、この全てを常時監視するのは不可能だと思いロイ周辺を重点的に注視している。


 同僚がそれ以外を調べに行ってくれた事は有難いので、その報告をロイと共に待っている。


「お待たせいたしました。どうやら大きな海洋生物がこちらに向かっているようで、その余波でしょうか?波が高くなっているとの事でした」


「そっか・・・って、大丈夫なの?その海洋生物ってこの船を狙っているのでしょ?危なくないかな?」


「船長の指示で迎撃態勢が整えられておりますので特に問題はないと思いますが・・・大変申し訳ありません。海洋生物の姿は時折把握できるのですが、鑑定を行うにも対象が海中に直に潜ってしまい他の生物の鑑定結果と被るので、正確な鑑定が出来ませんでした。ですが、その全てが等しく雑魚である事は間違いありません!」


 これはカードの者達基準の判断だが、このような別格の存在でも足場が非常に悪い中で初めて見る海の中を高速で動く個体だけを正確に鑑定する事は出来なかったようだ。


 慣れればすぐに改善するのだろうが、どれほど力が有っても初めての環境であれば十全に使いこなせないのは世の常でこの部分だけは常識の範囲内に収まっていた。

 

「そっか・・・雑魚なら大丈夫だね。ハートクィーンのおかげでお腹の苦しさもないし酔う事も無いから安心できたよ。ありがとう!」


 ロイも雑魚であったと言う説明の枕詞に“カードの者基準で”が隠れている事を失念し、そのまま素直に理解して再びベッドに横になる。


 未だ揺れは激しいままだが特に気にならないので、ベッドの上にいても落ちるほどに移動させられる状態を楽しむ余裕すらあった。


 そこに再び船長の声が響く。


「第二種状態!」


「ん?二種?さっきより数字が小さくなっているよね?コレって、何を意味するの?」


「では、今一度調査してまいります」


 未だこの場に留まっていたハートクィーンが再び部屋から消え、直に戻ってくる。


「お待たせいたしました。どうやら数字が小さくなる程危険度が高い状態に置かれているようで、段階は1から10まであるようです」


「そう・・・って、危険度が上から二番目?それって不味くない?襲って来る存在って雑魚じゃなかったの?初の船旅が転覆なんてシャレにならないんだけど?」


 揺れて船が若干きしむ音、風の音、波の音と共に、確かに意識をすれば船員たちが慌しく叫んでいる声や何らかの攻撃音も聞こえているロイ。


 非常に焦っている姿とは対照的に、問いかけられたハートクィーンは極めて冷静だ。


「念のために再度鑑定を実施してまいりました。姿は足が何本もある軟体動物のようですが、やはり雑魚でした」


 この時点で、既に足場の悪さや海中に逃げられても個体を識別して鑑定できる技術を習得しているハートクィーン。


 その間にも揺れは激しくなるばかりで、甲板にいる人々は最悪海に落ちてしまうのではないかと不安になったロイはこう告げた。


「ハートクィーン!その海洋生物を大人しくさせる事は出来る?」


「もちろんです、ご主人様」


「そっか。じゃあ初の船旅を楽しむためにも、ちょっとお願いするよ」


「承知いたしました、ご主人様・・・これは万屋として動いても宜しいのでしょうか?」


 少し間があったのはスペードキングからカード状態のダイヤキングに情報が行き、そこから逆走する様にハートクィーンに指示があったからだ。


「そうだね。間違いなく俺と万屋の関係は知られているだろうから、その線で行こうか?」


 ロイとしてはこれからの長旅で今後も何があるのか分からないので、知らぬ存ぜぬと嘘をつき続ける事が負担だと思い了解していた。


「では、早速対処してまいります。少々お待ちください!」


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