(278)異大陸へ⑥
この船に乗っているロイ以外は異大陸の人物なのである程度船旅を経験しており、ロイが甲板ではしゃいでいるのを温かい目で見守っている。
過去に自分も初めて船に乗った時にはそうだったな・・・と思っているのだが、当然続きがある。
海が荒れたり外敵が現れたりした場合には相当船が揺れるので酔ってしまう事が殆どであり、あの笑顔もそうなった場合には直に苦しみの表情に変わるのだろうなとも考えている。
出向時に船長が全員に伝えていた通りに穏やかな状態が続いているのだが、これまた船長が言っていた通りに海は状況が即変化する事が標準と言って良いのでロイ以外は経験からか全員油断していない。
そろそろ風が冷たくなってきたのを見計らい、船員の一人がロイに声をかける。
「ロイ殿。そろそろ中に入った方が良いですよ?日も落ち始めていますし風も冷えているので、体調が悪化するかもしれません。それと間もなく夕食の時間ですからね。海の幸、楽しみにしていてください!」
異大陸のとある国家の第一王子と懇意にしている辺境伯の紹介なので、船員は漏れなくロイに好意的だ。
つまりこの船も含めて第一王子派と言えるのだが、船長や船員も政治に関する話しはロイにしてはならないと言われているので何も口にしない。
「ありがとうございます。正直本当に気持ちが良くて、食事も楽しみです!」
笑顔で指示に従い甲板から消えて行くロイを見送っている船員は、満腹になった状態で揺れが来た際は最悪になる・・・とは伝えずに笑顔のままだ。
「ロイ殿はどっちに転ぶと思う?」
これだけで熟練の船員はロイが船酔いするか否かの事を言っているのは分かるので、隣にいる同僚から聞かれて素直に思った事を答える。
「正直あの様子を見るだけでは相当酔うと思うが・・・万屋の話しを聞いてしまうと平然としている可能性が高いな」
船員にとっては変化が無いレベルだが、風が少し強くなっているのでこの船の揺れも若干大きくなっている。
足場が不安定な状態でしっかりと立っていられる屈強な船員なのだが、ロイはカードの力は別格ながらも当人は極めて弱いので既に広い廊下を真っすぐ進めていない。
「アレ?揺れている・・・のかな?」
平衡感覚がおかしくなっていると感じているので、その後は船員の予想通りに何となく気持ち悪くなり始める。
「うっ、ちょっと気持ち悪い・・・」
部屋に戻った頃には顔色が悪くなっていたので、直にハート部隊を召喚して対処してもらう。
たかが船酔いに聖魔法を行使してしまうカードの者もおかしいが、それが標準だと思い始めているロイもおかしい。
「ありがとう。すっきりした!」
「暫く魔法の効果は続きますので、また何か異常を感じましたら是非ともこの私、ハートクィーンをお呼び下さい!」
カードの中でも抜きん出た力を持つキング、クィーン、ジャックの内一体を呼び出していたので、言われている通りに相当な時間聖魔法の効果は継続しているだろう。
―――コンコン―――
「はーい」
「失礼しますロイ殿。お食事の準備が整いましたが、食堂で食べても良いですしこちらに運ぶことも可能です。どちらに致しますか?」
「ありがとうございます。折角だから、食堂に行きます!」
部屋に来た船員は予想よりも早く船が揺れ始めたのでロイが既に酔っているだろうと思っていたのだが、まるで意に介していないので驚いていた。
「わ、分かりました。ではこちらにどうぞ」
食堂に行き他の船員が大量の食事を食べているのを驚きの目で見ながらも自分も食事をし、初めての味わいに感動しているロイ。
「凄い・・・この歯ごたえ、コレが海の幸かぁ」
船乗りにしてみれば当たり前の食事になっているのだが、ロイのこの言葉を聞いて何故か嬉しくなり近くにいる面々は自分の皿に山盛りになっている食事を多少強引にロイに渡していた。
「ウップ・・・苦しい・・・」
善意を断れないロイなのでなすがままにされた結果、自室のベッドの上で相当膨らんだお腹を摩りながら横になっている。
強制的に中身をどこかに転移させる事もカードの力を使えばできるのだが、それでは折角の善意を無駄にすると思っているのか必死に耐えていると再び船長の声が聞こえはしたが、その言葉が何を意味するのか一切理解できなかった。
「第三種状態!」
本当にこの一言だけだったので、拡声の道具が故障したのか操作ミスによって船長と誰かが会話している一部分が伝達されたのかと思っていた。
直後に船が緩やかながらも大きく揺れ始めた為に、この状態で再びあの気持ち悪さが襲い掛かってしまうと耐えきれる自信が無いので事前対策として再びハートクィーンを呼び出すロイ。




