(276)異大陸へ④
ロイが異大陸に移動する前、バミュータとシルハは紹介された仕事を始めるとともに新たな宿での生活を行い、特に問題ない事を確認できた状態でロイと食事をしている。
「もう明日か、寂しくなるな。向こうで安全は・・・ロイに限れば大丈夫だろうが、一応気を付けるんだぞ?」
「そうですね。でも、また会えますよね?その時には楽しいお話しを沢山聞かせてくださいね?ロイ様!」
二人やハイス子爵家には異大陸に向かうと告げており、実はこの数日の間ロイはシルハやバミュータの辺境伯領での仕事や生活ではなくリーン襲来に関して全ての意識が向いていた。
予想に反してカードを通して得た情報では心配する声は聞こえたものの、以前のように突撃する程の雰囲気ではないと教えられて肩の力が抜けていたロイ。
暫く会えないのは間違いないので豪華な食事をしながら未来について明るく語っている三人だが、ロイは少々方向性の異なる心配をしており一方のバミュータとシルハは本当に今がある事に感謝し、最大の貢献者であるロイの明るい未来を心から願っている。
少しでも安全に楽しく異大陸で活動できるように、バミュータがロイから聞いた異大陸の情報を踏まえて考えた結果を小声で伝えている。
異大陸と言っても国の騒動に係わる話しであるならば、他言無用である事は言われず共理解しているからだ。
「派閥・・・ちょっと面倒な話しになるが、一般的な話しをすると今回の伝手だからと言って安易に第一王子派になるのは危険だぞ?」
バミュータは暗躍に関する知識も持ち合わせている為に、当人が興味はないと宣言しても巻き込まれる可能性が高いと思っているので真剣にアドバイスをしている。
「その国や地域によって正義が異なるからな。綺麗ごとだけでは国を治められないのも事実。一時の正義感で国全体が傾く可能性もある」
王族としての生活は有っても国政に係わる事の無かったロイなので、バミュータの話しは納得できる部分が多いと感心している。
「ロイであれば大きな問題にはならないだろうが、何かを判断するにも多方面の情報から判断するんだぞ?優しくされたからって、ヒョイヒョイついて行くなよ?」
有難い話しを聞きながらも楽しい食事が終わり、一人部屋に戻ったロイは冷静にこの国での出来事を思い出していた。
バミュータが言っていた通りに国の騒動に首を突っ込む際には慎重な判断が必要になり、今の自分の力であれば過大評価ではなく国一つ強引に手に入れる事も可能なので過剰とも言える配慮が必要だと思っている。
そもそも王族に魔獣を平然と送り付ける様な配下が多数存在しているので寧ろ配下の暴走に関していつも以上の監視が必要だし、国の騒動と言えば配下の者達が起こしている事が殆どではなかろうか・・・と、何故か反省していた。
その後気持ちを切り替え、異大陸に向かった際の懸念点を確認している。
「ダイヤキング。異大陸に行ってもこの国の商会や父さん母さんを含めた護衛は大丈夫だよね?」
異大陸と言うくらいなのでこの大陸からは距離が離れており、今いる辺境伯領とは比較にならない。
それほどの距離でカードの者達の顕現を維持できるのか、経験が無いので不安になっているロイ。
「恐らくとしか言えませんが大丈夫でしょう。我が主と顕現している存在から距離があっても魔力残量に変化は見られませんでした。船での移動中も慎重に観察しますし、過剰な魔力減少が見られた場合には商会に複数いるカードを徐々に戻します」
このような話しは非常に真剣に聞いてくれる上に適切な回答をくれるので、時には助かっているなと思いつつ眠りについたロイ。
本来ダイヤキングを含めたカードの者達からしてみれば、ロイの安全を確保する為に異大陸の情報を仕入れたい所だが・・・異大陸と言っても広く距離が相当離れているので、正確な目的地が分からない上にロイの負担になる可能性もあって自重していた。
翌朝、既に宿泊している宿が異なるバミュータとシルハに対しては昨日の内にしっかりと別れを告げていたので、仕事を休ませるわけには行かないと見送りを断っていたロイは一人で船場に向かう。
「うわっ、でっか!想像以上の大きさだよ!」
細道を抜けてロイの視界に飛び込んできたのは巨大な船であり、乗員の殆どがオッドアイで透き通る白髪の為にこの船が目的の船だと把握した。
情報を渡す前にロイが迷わずこの船に向かっているので、足元のスペードキングは流石はロイだと思い静観している。
「あの・・・おはようございます。辺境伯の紹介で同乗させて頂く事になったロイです」
何となく慌しい現場を取り仕切っている存在に近づいて書状を提示しながら挨拶しているロイ。
「ん?あぁ、確かに聞いている。貴殿がロイ殿か。少々長旅になるのだが・・・随分と荷物が少ないな?何か道具を持っているのかな?」
事前の情報通りに、異大陸では魔法ではなく道具に頼る事が多いのがこの会話からも見て取れる。
収納魔法はこの国でも非常に珍しく管理下に置かれる能力な上、ロイの場合は公に知られている魔法とは異なって一般的な品を何も収納できない事から曖昧に返事をする。
「あ、あはははは、そうですかね?」
何故疑問形なのか良くわからないと思いながらも、確かに見た目やこの短い時間の態度から国を掻き乱すような存在には見えないので船内に案内する為に動く男性。
「おい、これを処理しておいてくれ。ではロイ殿、どうぞ」




