(275)異大陸へ③
その後も辺境伯の部屋で情報を仕入れていたハートクィーンは、辺境伯が準備している各書状が整うのを把握して最後の質問を投げる。
「ある程度異大陸の状況に関して理解する事が出来ました。ありがとうございます。最後の質問になりますがこちらから異大陸に向かいたい場合には、交易時に使用している船に乗せて頂けるのでしょうか?」
「さっきも言ったが政治的に安定しているとは言えないので、来訪者の危険がある為に基本的にはお断りしている」
「そこは自己責任であれば如何ですか?」
これほどの存在が推してくるのであれば問題はないのか?と思っているのだが、一方で逆に来訪者が何かしらの騒動に巻き込まれた場合、逆恨みから攻撃されてしまうと目も当てられないと悩む。
「すべては自己責任。つまり何が起きても異大陸の伯爵にご迷惑はおかけしません。ここを確約すれば如何でしょうか?」
そうは言っても口約束でしかなく、仮に書面で契約しても自分達の持っている力では太刀打ちできない可能性が高く無意味だと思っているので黙ってしまう。
「万屋として誰かを送りたいのだな?であれば宿屋給金程度では借りは返せていないので、この私が保証人になろう。これでどうだ?」
辺境伯が手に書状を持って席に座り、異大陸の護衛に対して提案する。
「分かりました。貴方がそこまで言うのであれば信頼できる。だが、彼方で起きた事は自己責任。正直自分の主は無関係だ。そこだけは再度確認しておきたい」
「承知しました。辺境伯もご配慮有難うございます」
「いや、これで借りを返せたと思えば安いからな。正直俺の想像では異大陸に向かう希望を出しているのはロイ殿とみているが、そこは教えてもらえるか?」
保証人になっている以上詳細を知りたい・・・順番が逆になっているのだが、当初からロイの話しをしていると思っていた辺境伯なので確認の意味で聞いている。
一方でハートクィーンとしては特段隠す要素は何一つないので肯定する。
「仰る通りです」
この言葉を聞いて露骨に安堵している辺境伯と、その様子を見て害のない存在が祖国に向かうと判断してこちらも安堵している護衛。
「ではあまり長居してもご迷惑でしょうから、これで失礼させて頂きます。出航日につきましては私の方で調査できますので、その際には宜しくお願い致します」
不法侵入の時点で迷惑だったのだがそのような事を言えるわけも無く、いつの間にか書状を持って消えて行くハートクィーンを黙って見送る二人。
やがて完全に姿が消えると護衛の男は辺境伯と対峙する様に座り直す。
「ロイ・・・と言った存在は、絶対に自分の主や第一王子に害がないと判断して良いか?仮に他の派閥に助力をするようであれば看過できないが?」
「あぁ、そこは大丈夫だ。ロイ殿も元王族なのだが、あの王族の中では突然変異と言っても良い位に悪い話しは聞こえてこない。万屋が言っていた通りに王位継承絡みには興味が無いので首を突っ込む事はないだろう。だからこそ迷わずに保証人を宣言出来たのだ」
「逆に言えばこちらの陣営に引き込むのも至難の業・・・か。だが、誰が向かうか確定していない段階で保証人の宣言をしていたようだが?」
「そ、そこは・・・間違いなくロイ殿が向かうと確信していたからな。事実その通りだっただろう?」
多少呆れている護衛だが、結果は言われている通りなので話しはロイとその後ろにいる万屋に移行していた。
一方この部屋から悠々と離脱しているハートクィーンは、思わぬ収穫に頬を緩めながらある程度周囲を確認した上で直接カードに戻っている。
部屋から直接カードに戻らなかったのは、一応今後バミュータやシルハがこの屋敷に頻繁に来る可能性があるので過剰に周囲の安全を確認していたからだ。
その日の夜・・・食事の後で話しがあるとロイに言われ、一室に集まっているバミュータとシルハ。
当然のようにロイの対面にシルハとバミュータが座っている中で、ロイは辺境伯が準備した書状を取り出す。
「えっと、コレはこの地を治めている辺境伯からの推薦状・・・かな?シルハさんはあの海辺のお店で働けて、バミュータさんは辺境伯を含めた人たちの相談を受ける仕事をしながらここに記載されている宿に泊まれます。もちろん給金も出ますよ?」
「「え??」」
確かに二人でどこかに根を張って穏やかに生活したい希望があったのだが、突然その希望が叶うと言われているので面食らっているバミュータとシルハ。
やはりバミュータが即全てを理解したようで、未だ呆けているシルハをよそにスクッと立ち上がってロイの手を両手で握る。
「ロイ・・・本当にありがとう。感謝しかない。俺は、俺達はこの地で頑張るからな。何かあったら、また会いに来てくれ!」
「こちらこそありがとうございます。今後余計な邪魔は絶対に入らないので、是非ともシルハさんと幸せに過ごしてください。俺はもう少ししたら新たな旅に出るので、それまでは宜しくお願いしますね?」
「本当にありがとう。まさか俺がこんな生活が出来るようになるなんて夢にも思わなかった。このチャンスを最大限に活かして、ロイの顔に泥を塗らない様に頑張るからな!絶対にまた会おうな!」
「あはは、ちょっと照れ臭いですね。それにまだ数日は居ますから。じゃぁ、この書状を詳しく確認して、問題があるようであれば教えてくださいね」




