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なんともなさ気にいうけれど


「もう目を開けてもいいぞ」


そう言われて目を開くと、まつ毛から雫が落ちる。


冷たい水が足の感覚を奪う。

水底さえも見える澄んだ川に、魚影が見えた。

泳いでいる魚の色さえも分かることに、来縁は驚く。


「きれい……」


寒さも忘れて、ひととき目を奪われていると奏に引っ張られた。


「いつまで入っているつもりだ。凍え死にたいのか」


無理矢理入らせたのは奏だろうに、と来縁は悪態をつきたかった。

が、自分でも思うより冷えていたのか、唇が震えるだけだ。


言わんこっちゃないと言いたげに、奏は深いため息をついた。

無造作に右の手のひらを開く。ぼ、と何かの破裂するような音に来縁は身構えた。


「温かい……?」


奏の開いた右の手のひらに収まる青白い炎。小さいながらも冷えた体に染みる。

気づくと奏の周りにいくつ浮遊している。寄り添う姿は、まるで使い魔のようだ。


「これですぐに服も乾く」


はぁ、と奏は力なく河原に腰を下ろす。

目を閉じて天を仰ぐ姿に、疲れの色が見えた。

無理もない、と来縁は思った。


ここまで、一人で来縁に怪我をさせずに来たのだ。

きっと、来縁だけだったら今ここにいることすら叶わなかった。


考えたくもないが、今頃と思わずにはいられない。


「ありがとう、奏」


「んぁ?  別に、感謝されるほどのことじゃない」


その体勢のまま、なんともなさ気に奏は答えた。

それでも、来縁は感謝せずにはいられない。


「ねぇ、私になにか出来ることない?  お礼がしたいの」


「礼……ねぇ…………」


奏は考える素振りを見せて、ぽつりとつぶやく。


「ここから……出たい」


それは耳を済ませていないと、聞き逃してしまいそうな小さな声だった。


「それは、どういうこと?」


何気ない一言に、奏の全てが詰まっている気がした。

きっと、この機会を逃したらもう教えてくれない予感がする。


「礼、をしたいって言うならさ、俺をここから出してくれよ」


開かれた奏の瞳は、伽藍洞で真っ黒だ。あまりの暗さに、来縁は息を呑んだ。

問いかけには答えず、ただただ望みを口にする奏になんて返したらいいのか分から無い。


けれど。


「それが、奏の望みなのね?」





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