それを信じろと
そこにいたのは、夜空のような蒼い髪をした青年だった。
歳は来縁と同じくらいそうだが、肌が日に焼けていて野生児を思わせる。
「なっ…………!?」
目が合うなり、青年は驚いたように目を見開いた。
驚きの他に、戸惑いが見え来縁は首を傾げた。
この村で出会う人は皆、来縁を見て一様に驚くから。
(どうなってるの、この村……)
けれど、それは来縁も一緒だった。
彼を見た瞬間、目に涙が浮かぶ。何故かは分からなかったが、やっと会えたそう思った。
その喜びで胸が締め付けられるほど苦しかった。
(知らない人のはずなのに……)
この村といい、この青年といい来たことのない場所、会ったこともない人だ。なのにどうして息が詰まるほど、苦しいのだろう。
そばにいればいるほど気持ちが膨れ上がる。
でも、それも不思議と怖くなかった。
まるで自分じゃない誰かが喜んでいるような。
声も出さず、ぼろぼろと涙が溢れながら来縁は体を離した。
「ご、ごめんなさい、大丈夫」
抱きとめられた腕から抜け出て、青年を見た。
来縁より背丈が高い。自然と視線は上を向く。
葉っぱがつき泥で汚れた服から、この森で何かしていたのだと想像がついた。
この村の住人の一人、だろうか。
何を言うべきか来縁が迷っていると、青年が先に口を開く。
「もう一度聞く、何しにここへ来た」
青年は少し警戒した様子で、来縁から距離を取る。
来縁はそれ以上、彼を刺激しないようにその場で口を開いた。
「私の名前は、森 来縁。どうしてか……ここに引き寄せられて……」
素直にそう答えると、さらに青年は怪訝そうに眉をひそめた。
その気持ちは、来縁にも分かる。見ず知らずのこの村出身ではない人間が、引き寄せられて来たなんて答えたら誰だってそう思う。
訳が分からない不審者が来たと警戒するに決まっている。
けれどそう答えるしかなかった。
この不思議な気持ちを、どうしてか目の前の彼にはまっすぐ伝えなければいけない気がした。
嘘をつきたくなかった。
「…………それを信じろと言うんだな?」
少しでも本気だと分かってほしくて、来縁は目を逸らさずに頷いた。隠すことなど何もない。
しばらくすると、彼は一つわかりやすくため息をついた。
「分かった」
なかば呆れながら、納得してくれたらしい。
彼は頭をガシガシ掻きながら、来縁に一歩近づいて来た。
「今は、そういうことにしておいてやる」




