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燃える赤


「本当に、行けるのか」


奏は確かめるように言う。

本当に行けるのか、と心のなかで葛藤しているのが分かった。


「行けるよ。ただ……信じてもらうしかないんだけど……」


声が聞こえるから大丈夫、だなんて言っても信じてもらえないだろう。

恐らく、この声は来縁しか聞こえない。

自分にしか聞こえないものを、他人に分かってもらうのは難しい。


うーん、と頭を悩ませていると奏はそうか、と短く答えた。


「そこまで言うなら信じる。俺も……予感でしかないが信じてもいい気がしてる」


明確には言えないがな、と奏は笑った。

今までない、肩の力が抜けたような穏やかさだ。

お互いが運命めいた何かを感じ取っていた。


「うん、じゃあ行こっか」


来縁は奏と手を繋ぎ、縄へと近づく。

奏がぎゅ、と繋がれた来縁の手を強く握る。


来縁はその手に応えるように、手を強く握り返した。

大丈夫、きっと大丈夫、と伝えるために。


近づいた縄を、来縁はゆっくりとまたぐ。

縄の向こうにいる奏での顔に、緊張感が走る。


「………………」


痛い思いをまたするかも知れない恐怖を飲み込んだのか、一歩、また一歩と縄をくぐった。


「……縄の向こうに、行けた……」


結界に弾かれず、奏の体に傷一つなさそうだ。

隠しきれない奏の嬉しそうな声に、来縁も笑みをこぼした。


「俺は、自由だ……」


天を仰ぐ奏のこれまでを、来縁は想像した。

どれだけ長い間を、一人隔たれた森で過ごしていたのだろう。

それはどれほどの、孤独を募らせるのか想像しきれない。


「大丈夫、もう……」


一人じゃなくなるよ、と口を開きかけた──その時。


「それは許されません」


自由になれた喜びを打ち消す、冷たい声が聞こえた。来縁は慌てて見上げると燃えているような赤い髪が目に飛び込んでくる。


誰、と問い詰めるまもなくその影は来縁たちの下へ落ちてきた。

まるで火の塊が襲いかかってくるようだ。


一陣の風が来縁たちを襲う。

木の葉が荒れ狂い、思わず来縁は目を閉じる。

瞬間、腹部に激痛が走る。声すらも出なかった。


「来縁……!」


うまく息が出来ない中、奏の叫び声が聞こえた。

経験したことのない痛みに、来縁はうずくまった。


(…………か…………なで)


その声に応えられない。


「他人を心配するとは、ずいぶん余裕ですね」


「お前は……っぐ…………!?」


風の音が一瞬にして止んだ。

涙が滲む目を、来縁は必死に開けた。


「奏……!」


燃えるような赤が、奏の背中を踏みつけていた。

尊厳もなく、ただ地面を踏みつけるように。奏の顔が苦渋に歪む。


「やめ……な……さい!!!」


目の前が、怒りで真っ黒に塗りつぶされる。

今は、自分のことなんてどうだっていい。踏みつけられるなんて、冗談じゃない。


来縁は怒りに飲み込まれながら、燃えるような赤に飛びかかった。






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