白い封筒の意味
どうにかしてでも燃える赤を奏の上から、どかしたかった。
駆け出して、体当たりを食らわすそれしか出来なかったとしても。
「無駄なことを。人間ごとき、私に叶う訳ありませんよ」
ぐ、と息を呑む強い頬の衝撃に、目の前がチカチカと眩む。
むせ返るような湿った土の匂い。気づいたときには、来縁は地面に倒れ込んでいた。
つ、と鼻血が滴り落ちる。
敵わないと分かっていても、来縁は再び立ち上がろうとした。
「……見上げた根性ですね。でも、彼をここから出した罪は大きいですよ」
分かりますか、と奏を踏みつけたまま軽口のように彼女は言った。
「知らな……い……」
罪とは、奏を森から出したことだろうか。
あんなにも、外に出たがっていたのに。
誰にだって自由を謳歌する権利は有るのに。
「ならば身を持って知ってもらうまでって……ん?」
何かに気づいたらしい彼女は、奏から足をのけた。
枯れ葉を踏みしめる音が来縁の前で止まる。 ゆっくりと手が伸びてきて、咄嗟に来縁は頭を守った。
かさ、っと耳元で音がする。
「これは…………!」
彼女が持っていたのは、来縁に送られてきた白い封筒だった。今はもう泥だらけに汚れてしまっている。
その白い封筒を見て、あからさまに彼女は手を震わせて動揺していた。
「これは……まずいことになりました……」
このままでは、とまるで叱られる前の子どものように怯えきった表情をしていた。
しばらく沈黙が落ち、やがて息を長く吐く。
「来縁様だったのですね。こんなところにいるなんて思いもしませんでした」
きれいな所作で腰を一度深く折る。
謝られていると言う事実に戸惑う。なぜ、急に……。
混乱する来縁を見透かすように、彼女は頭を上げてこう言った。
「初めまして、私は、矢切様の遣いであります、朱架と申します。ご無礼をお許しください」
これでもか、と優雅な動きで朱架と名乗る。
派手な見た目とその動きはどうも見合っていないような気がする。
けれど、朱架は何事もなかったかのようにポケットからハンカチを取り出す。
すっと差し出されたそれに、来縁はたじろいだ。
「どうぞ。鼻を押さえてください」
使っていいのだろうかと迷った。
朱架はしびれを切らしたのか、無理矢理手に握らせてくるとそのまま鼻に押し当ててくる。
「後でお咎めは受けさせていただきます。矢切様にもそうお伝えいたしますので」
そう言うと、もう一度朱架は深く頭を下げた。
本位が見えない。謝っているけれど、どこか事務的で無機質だとそう思ってしまったから。




