歓喜の中の叱咤
れから約一時間後、アルはリストランテの居城に一人で姿を見せた
ゆっくりと歩いて近づいてくる元【リストランテの悪魔】に城内の者達の緊張感が高まる
その強さをイヤというほど知っているリストランテ兵は動揺するが
事前の通達通り急いで〈アルフレッド・バーキュリー来襲〉の合図である狼煙をあげた。
城壁の上から騎士団長と思われる男が身を乗り出し下にいるアルに向かって大声で警告する。
「我が王国の裏切り者アルフレッド・バーキュリーに告げる
それ以上近づいたら戦闘の意志ありと見てこちらにも応戦の用意がある
あと三分もしない内にチャイルドシリーズの五人がここに駆けつけるだろう
そうなればお前は終わりだ、死にたくなければさっさと尻尾を巻いて逃げるがいい‼︎」
場所的なこともあってアルに向かって上から目線で警告する騎士団長
それを聞いたアルは大きく息を吸い込むと城内にまで響き渡るほどの大声で告げた。
「チャイルドシリーズの五人は今さっき俺が全員倒した
マウレラ湖のほとりにあいつらの死体を並べて置いたから後で確認してみろ
そしてリストランテ国王であるフリードリヒ陛下に告げる
ベルドルア国王の即時解放とリストランテの連合への加入
その二つの条件を受け入れないのであれば俺がこの手でリストランテを滅ぼしてやる、以上だ‼︎」
言いたい事を告げたアルはそのまま背中を向け歩き始める
予想もしていなかった展開に城内の兵達は慌てふためき混乱していたがそんな事を機にすることもなくアルはその場を立ち去った。
アルが連合側へと帰ってくると各国の王達が満面の笑みを浮かべ出迎えた
どうやらアルがチャイルドシリーズの五人を倒したという事実をいち早く察知したようである。
「ちっ、情報が早いな……」
どことなく浮かない顔のアルとは対照的に連合側の人間達はまるでお祭り騒ぎのようなはしゃぎっぷり
昨日までのお通夜のような空気はどこかに吹き飛び誰もが喜びを全身で表していた。
「良かった、これで世界は平和になる」
「アル殿のおかげで人々は幸せになれます」
「ありがとう、君は世界を救った英雄だ‼︎」
誰もがアルを讃え感謝の言葉を口にする、中には涙を流して喜んでいる者すらいた
だが皆がアルを讃え感謝の言葉を口にするほどアル自身はモヤモヤが溜まっていた。
〈止めろ、俺はそんな立派な事をしたわけじゃない、自らの意志で人を殺したのだ、俺の分身のようなアイツらを……
必死に命乞いしてくる女ですら殺したんだ、俺を褒めるな、感謝の言葉など不要だ、気持ち悪い
いっそ悪魔だ化け物だと罵ってくれた方がどれだけ楽か……
そもそも俺は世界の為とか人類の未来の為に戦ったわけじゃない、頼むから止めてくれ……〉
喜んでいる周りの人間を見て言葉にこそしなかったがアルの心の中は不快感と嫌悪感で一杯になっていた
早くこの場から離れたい……そう思っていた時、アルの目の前にサーシャが姿を見せた。
「さあ、サーシャ様からもアル殿にねぎらいの言葉を」
バルダークがエスコートするような形でサーシャを連れてきた
アルとサーシャの関係は誰もが知っている事なのでサーシャがアルにどんな言葉をかけるのか
興味津々といった様子でことの成り行きを見守っていた
だが他の者達とは違いサーシャは無感情な表情を浮かべアルの方をジッと見ている
何故か居た堪れなくなったアルは思わず視線を逸らす、するとサーシャはゆっくりとアルに近づき静かな口調で話しかけた。
「何をやっているのよ、アンタは……」
期待していた言葉とは違った為、周りの人間達は一瞬戸惑う、アルの方も何も答えない
しかしそんな空気を読むこともなくサーシャは話を続けた。
「聞いているでしょう?あなたは何をやっているのと聞いているの、答えなさいアル」
「お前に黙ってやった事を怒っているのか?でも話していたら反対しただろうが」
「当たり前じゃない‼︎」
突然声を荒げて叫ぶサーシャ、周りの人間は呆気に取られているがアルだけは予想範囲内だったのか、すぐさま言葉を返した。
「アイツらを倒さなければ世界はじいちゃんの思い通りになってしまう、それにお前の父親だって……」
「そんな事を言っているんじゃないのよ‼︎相手はあなたより強かったのでしょう?命は大切にしなさいっていつも言っているじゃない……」
言葉を詰まらせサーシャの感情が溢れてくる、アルの心は激しく揺れた。
「確かにアイツらは五人そろえば俺より強い、だが勝算はあった
賭けではあったが現に俺が勝ったのだからいいじゃねーか
命を大切にというがアイツらは生かしておけば今後大勢の人間を殺すだろう
奴らの命まで大切にしていたら世界の平和どころか……」
その瞬間、アルの言葉を遮るようにサーシャが叫ぶ。
「アンタの命の事よ‼︎」
真っ直ぐなサーシャの目に気圧されてたじろぐアル、思わず視線を逸らしバツが悪そうに答えた。
「べ、別に俺がいなくなっても連合には何の損害もないだろうが、俺が死んだところで特に悲しむ人間もいないし……」
次の瞬間、パチーンという乾いた音が会場に響き渡る、サーシャがアルの頬を思い切り平手打ちしたのである
アルは驚きのあまりサーシャを見つめると彼女は唇を震わせ目に涙を溜めながらアルを睨みつけていた。
「二度とそんなこと言うな、馬鹿‼︎」
罵倒とも取れる言葉を残してサーシャは足早に立ち去った、周りの人間は呆気に取られて言葉も出ない
サーシャの背中をジッと見ながら茫然と立ちすくむアルにリサが近づいてきてそっと言葉をかける。
「気を悪くしないでくださいねアル様、姫様も本当は嬉しいのです
でも貴方のことを本当に心配しての言動なのです、わかってあげてください」
「ああ、そのぐらいわかっている……」
アルは独り言のように呟いた。他の人間からいくら褒め称えられても気持ち悪かっただけだったのだが
アルにとってはサーシャの言葉だけが何故か嬉しかった。
翌日、リストランテ側から〈連合への加入を正式に希望する〉という返答が来る
予想していたとはいえこの知らせに歓喜する人々、事実上これで世界規模の戦争は撲滅されたと言ってもいい
この日は【平和の日】として歴史に刻まれ国民の休日として未来永劫称えられることになる。
サーシャの父親であるベルドルア国王も解放され数ヶ月ぶりに親子の再会を果たす
サーシャが父親に抱きつき涙ながらに喜ぶ姿は人々に感動を与えた
そんな光景を一人遠目から見つめるアル、その表情は今まで見たことのない穏やかなモノだった。




