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戦争の終結と新たなる旅立ち

 この日を記念した平和式典では最大の功績者であるサーシャとアルに栄誉と賛辞と送られる予定だったのだが


アルはそれを頑なに拒否した。バルダークやゴルドバンの必死の説得にも耳を貸さず最後には


〈そこまで無理強いするのならば暴れるぞ〉と言うアルの態度に両者も渋々諦めた


結局サーシャだけが式典で栄誉と賞賛を受けることとなり世界を救った平和の象徴として歴史に名を刻むことになった。


そんな歴史的な英雄の姿を一眼見ようと式典には世界中から人が集まって来る


人々は歓喜の声をあげ誰もがサーシャを讃える、連合側はサーシャの肖像画と銅像の建設


そして記念金貨の製造を発表し新たなる観光名所として大々的に宣伝し商魂たくましいところを見せつけた


だがこのお祭り騒ぎの中でアルは最後まで人々の前に姿を見せることはなかった。



 世界中がお祭り騒ぎで盛り上がった式典の翌日


まだ夜も空けきっていない中で一人こっそりと部屋を出ていく少年の姿があった、アルである。


薄汚れたフードを被り小さい袋を肩から下げていてサーシャと初めて会った時の旅の格好をしていた。


まだ日も登りきっていない薄暗い朝、霧もやがかかっていて少し肌寒い中で裏門から出て行こうとするアル


この日ばかりは当番であるはずの門番も一人しかおらずその門番も昨日の騒ぎで油断しているのか壁にもたれかかりながら眠りこけていた。


その前を静かに通り過ぎるアルだったがしばらくすると目の前に一人の人間が視界に入ってくる


壁に背を預けながらこちらをジッと見つめている人物、それはサーシャであった。


「こんなことだろうと思ったわ」


 アルの行動を見透かしたかのように優しく微笑みかける。


「どうしてお前がここにいる?」


 少し驚いたものの表情には出さず冷静に質問をぶつけるアル。


「私に黙って出ていくつもり?」


「ああ、もう俺の役目は終わった、俺みたいなのが居ても疎まれるだけだろうしな


連合に俺が居座っているとじいちゃんも気まずいだろうし」


 まるで日常会話のように語るアルの言葉にサーシャは目を閉じ嬉しそうに小さく頷いた。


「で、俺の質問には答えてくれるのか?なぜお前がここにいる、もしかして俺の見送りにでもきてくれたのか?」


 サーシャは目を閉じたままゆっくりと首を振った。


「違うわよ、私もアンタについて行こうかと思ってさ」


 まるでそれが当然とばかりに明るく言い放ったサーシャだったが


アルは驚きのあまり手に持っていた荷物をボトリと地面に落とし口を開けたまま呆然としてしまった。


「ちょっ、おまっ、何を言っているんだ⁉︎」


「何って、聞いた通りよ、またアンタと一緒に旅をするつもりだと言ったのよ」


 珍しく動揺するアルだったが大きく息を吐きすぐに気を取り直した。


「馬鹿なことを言っているんじゃない、お前は平和の象徴、世界の英雄だろうが⁉︎


俺と違ってお前はこれからの連合にも必要な人間だ、それが旅に出るとか……ふざけているのか」


「別にふざけてなどいないわ、アンタと同じよ、もう連合に私は必要ない


ベルドルアの事はお父様がいるし連合の事はみんなで話し合えばいいだけの事


そもそもよくわからないうちに英雄に祭り上げられちゃったからこっちも困っているのよ


それになまじ英雄とか持ち上げられてしまうと逆に私の意見を否定しづらくなってしまうでしょ?それではダメなのよ」


 しみじみと語るサーシャの言葉には説得力と重みがあった。


「確かに、じいちゃんの代わりにサーシャが絶対権力者になってしまったら本末転倒だものな


でもいいのか、突然いなくなってしまっても?」


「お父様には許可をとっているわ、私は今回の件でいかに自分が世間知らずか思い知った


だから自分の見聞を広めるために旅に出る事にしたの、他の人には何も言っていないけれどね」


 フフッといたずらっぽく笑うサーシャはとても眩しく見えた。


「しかし今までと違ってお前は世界的な有名人になってしまったからな


危険度はこれまでの比じゃないぞ、それでもいいのか?」


 するとサーシャは体をくの字に曲げアルの顔を覗き込んだ。


「その時は今まで通りアルが私をもまってくれるのでしょう?」


 イタズラっぽく笑う彼女に思わず見惚れるアル


また一緒に旅ができる事に嬉しさを感じつつもどこか釈然とせず無言のままジト目でサーシャを見つめた。


「何よ、何か言いたいわけ?」


「別に……守ってやるのは別に構わないけれどよ、俺はこの前の事を忘れたわけじゃないぞ」


 この前の事とはサーシャがアルの頬を思いっきり引っ叩いた事である


ここのところ忙しかったサーシャはアルとまともに話すのはあれ以来だった事を思い出した。


「あ、そういえばそんなこともあったわね、でもあれはアンタが……


いや、いきなり引っ叩いたことは悪かったわ、御免なさい、もしかして怒っているの?」


「いや、引っ叩かれた事に対しては怒ってない」


 その言い方が何か引っかかり再び問いかける。


「何、その含みのある言い方は?」


「引っ叩かれた事には全然怒ってはいない、だが馬鹿って言われたからな……」


「そんな事を気にしていたの?あんなの言葉のアヤじゃない、じゃあ行くわよ、レッツゴー‼︎」


 納得できないアルを尻目にサーシャが意気揚々に歩き始めた、その背中を見て大きくため息をつく。


「ハア、全く……」


 ついていくように歩き始めたアルだったが前をいくサーシャが突然ピタリと止まり振り向いた。


「で、どこに行くのだっけ?」


 あっけらかんと言い放つサーシャにアルは再びため息をついた。


「サーシャ、お前、そんな事も決めずに歩き始めたのか?」


「だって前回と違って〈ここに行きたい〉という具体的な目標があるわけじゃないもの


今回は色々な世界を見て回って見聞を広めることが目的なのだからね」


「なんだそのフワッとした感じの目標は?」


「いいじゃない別に、男が細かいことを気にしないの。それで、アルはどこに行くつもりだったのよ?」


「俺か?俺はゲルゼアの旧首都のあった辺りに行こうと思っている、そこに父上がいるという情報を聞いたからな」


 アルは空を見上げながら遠い目で語る。


「そういえばアルのお父さんはあの有名な魔道士の・ベルハルト・バーキュリーだったわね、お父さんに会いに行くんだ?」


「ああ、旅に出る時父上から言われたんだ、世界を見てこい、信頼できる仲間を作れ


そして好きな女ができたら報告しろって、だから報告しに行く」


「えっ、アンタ好きな人ができたの!?」


 サーシャはアルの意外な言葉に驚くがすぐに何かに気が付いたのかニヤニヤとしながらアルの顔を覗き込む。


「わかったわ、リサでしょう?あの子かわいいからね、でもリサは私の妹みたいなものだから泣かせる男はダメよ


どうしてもというのならば私が仲を取り持ってやっても……」


 機嫌よく話を続けるサーシャだったがアルはそんな彼女をジッと見つめ話を遮るように口を開く。


「お前だよ」


「は?」


「だから、俺が好きなのはお前だ」


 まるで仕事の連絡をするかのような感情のこもらない口調で淡々と告げた。


「へっ、私?嘘」


「嘘じゃねーよ、大体そんな嘘ついてどうするんだ」


 平然とした態度で愛の告白ともとれる言葉を口にするアル


それとは対照的に明らかに動揺しているサーシャ、視線をそらしほほを赤らめながら急にソワソワとし始めた。


「へえ~そ、そうなんだ~、アンタ、わ、私のことが好きなんだ~、ふ~ん」


 サーシャの言葉にまるで無反応のアル、しばらく無言のまま歩く二人だったが沈黙を破るようにサーシャが口を開いた。


「じゃ、じゃあさ……アルは私の事をど、どれぐらい好きなのか言ってみなさいよ」


 顔を背け精一杯平常を装いながら語りかけるサーシャだったが、アルは思わず顔をしかめる。


「何だそれは?好きの大きさを測る方法とか単位とかそんなモノ無いだろうが


全然意味わかんねーぞ、何でそんな事を聞くんだ!?」


 露骨に面倒くさそうな顔を見せられたサーシャは顔をそむけたまま唇を尖らせる。


「だって……私、男の子に〈好きだ〉とか言われたの初めてなんだもん、少しくらい聞いたっていいじゃない」


 サーシャは平静を装いながらも耳まで赤くして照れているがアルはそんな彼女に辛辣な言葉をかけた。


「何だ、お前案外モテないのだな?」


 その言葉が看過できなかったのか、鬼の形相でクルリと振り向きアルを睨みつける。


「大きなお世話よ‼政務で忙しくて男の人と知り合う暇もなかったのよ


それに私はこれでも〈ベルドルアの宝石〉とか言われていたのよ


私だってもう少し大人になればお母様のような美人になってモテモテになるのだから‼」


 声を荒げながらまくしたてるサーシャをアルはジト目で見つめる。


「あのなあ……前にも言ったがお前がどう呼ばれているか?とか将来どうか?とか関係ないのだよ


論点は今のサーシャがモテていないという事実だろ?」


 正論をぶつけられぐうの音も出ないサーシャ。


「うぐっ、年下のくせに生意気なのよアンタは、そもそもどうして告白してきた方のアンタがそんなに冷静なのよ!?


こっちはドギマギしているのに‼」


「知らねーよ、そっちが勝手にドギマギしているだけだろうが。


全くしょうがねーな、どのくらい好きか?とかどう答えればいいのだよ……」


 頭を掻きながら珍しく困惑しているアル。


「別に何でもいいのよ、自分の言葉で誠心誠意伝えれば、例えそれが拙い言葉だったとしても相手には伝わるわ


女の子はそういうのがうれしいのよ」


 目を閉じジッと考えているアルを優しく見つめるサーシャ。


「わかった、自分の言葉で伝えればいいのだな。そうだな……


サーシャとならば繁殖行為をして子孫繁栄を目指してもいいかな」


 あまりの予想外の返答にサーシャはさらに顔を赤くし激しく動揺した。


「あ、あ、アンタ、な、な、な何を言っているのよ!?繁殖行為をして子孫繁栄!?それって私と結婚して子供を作るってこと!?」


「ああ、そうだが」


「そうだが、じゃないわよ‼何を冷静に語っているのよ‼物事には順序ってものがあるじゃない


いきなりけ、け、け、結婚とか、こ、こ、子作りとかぶっ飛びすぎよ‼」


「さっきは〈何でもいい〉とか言っていたじゃねーか」


「何でもいいの意味が違うわよ‼交際もしていない相手に〈子作りしましょう〉とか頭おかしいのじゃないの!?」


「そんな事はないだろう、サーシャだって以前に連合の話し合いで


〈国民には一杯子供を産んでもらうのです〉とか言っていたじゃねーか」


「国家の繁栄と乙女の恋愛を同列に語るな‼」


「お前言っていることが滅茶苦茶だぞ、知っているか?そういうのをダブルスタンダードって言うのだぞ」


「滅茶苦茶なのはアンタよ‼見聞を広げる前にまずはアルに正しい男女の常識ってものを教えてあげないといけないようね」


「お前が男女の何を知っているというのだ?少なくともサーシャよりは俺の方がマシだろ」


「どの口がそんな事を言っているのよ‼」


 先ほどまでの奥ゆかしい態度はどこへやら、息を切らしながら興奮気味に声を荒げるサーシャ。


「さっきから何をそんなに興奮しているのだ?もしかして発情したのか?」


「そんな訳ないでしょうが、馬鹿‼」


「ちょっ、お前また馬鹿って言いやがったな」


「アンタが馬鹿な事ばかり言うからでしょうが‼大体アルは……」


 二人の言い争いが明るくなってきた空に響き渡る


地平線に向かってどこまでも続いている道は二人の人生を暗示しているかのようであった。


この話を書くきっかけは〈少年と少女が旅をする話が書きたいな……〉というふわっとした感じで書き始めた物語です。途中、小難しい話や残酷なシーンも多く、読んでくれる人を選ぶ話だと思いますが懲りずに最後まで付き合ってくれた読者の方に感謝です。私的にもアルのような性格の登場人物を書いた事は殆どなく少し新鮮な気持ちで書けました、書いていてアルとサーシャの掛け合いが本当に楽しく感じ自分としては満足しています。

頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

また次作もアップしていますのでもし良かったら読んでください。

https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2609953/

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