何の為に戦う
「いや、来ないで……死にたくない……」
そんな彼女の様子を見てアルファは唇を噛み締めた。
「ちくしょう、ダメか……おいアルフレッド‼︎俺がお前の相手をしてやる、イプシロンには手を出すな‼︎」
彼女を守ろうとアルの背中を必死で追いかけるアルファ、その直後アルが急にピタリと止まって振り向きざまにアルファの腹にパンチを放った。
まるで巨大な流木にでも当たったかのように吹き飛ぶアルファ、砂煙をあげながら派手に地面を転がるアルファの体
その姿をイプシロンは呆然と見ていた。
「うぐっ、最初から俺が狙いか……」
地面にうずくまりながら悔しさを滲ませるアルファ、アルの渾身の拳を受け立ち上がることもできないでいた。
「どいつもこいつも同じ手に引っかかりやがって……」
ゆっくりと近づきながら感情のない視線でアルファを見下ろすアル、その目にはすでに余裕すら感じられた。
「俺の渾身の拳を受けても致命傷を与えられないとは、やっぱお前は他の連中より強いようだな
だが致命傷でなくとも戦闘不能になってしまえばどっちにしても同じというわけだ、終わりだ」
先ほどまでとは違い挑発的な言葉ではなく淡々と事務的な言葉をぶつけるアル
アルファも何とか立ちあがろうとしたが体が言うことを聞かない、悔しさを滲ませながら吐き捨てるように言葉を発した。
「どうしてだ……一対一ならともかく、五人がかりならば俺たちの方が強いはずだ……どうして俺たちが負けた?」
アルファは自分達の敗北がどうしても納得できず地面からアルを見上げながら質問をぶつけた。
「最後だから教えてやる、お前らが負けた原因はあいつだ」
アルが指差したのは恐怖に怯えへたり込んでいるイプシロンであった。
「わ、私が?……私のせいで負けたの?」
自分が敗因と聞かされ唖然とするイプシロン。
「どういう事だ、彼女がどうして敗因になるのだ?」
「まだわからないのか?お前らは徹底して数的優位を保とうとした
だがあの女は数的優位にはならない、むしろ味方の足を引っ張る存在なんだよ」
「なぜ彼女が?」
どうしても納得できないアルファは再び問いかける。
「あいつが女だからだ、女は理性より感情を優先する、俺も最近知ったことだけれどな。
特に戦闘のため強制的に人格をいじられたお前らは感情の起伏が激しい
だからあいつは戦闘となればとことん残忍になれるしハイにもなれる
だがその感情がマイナスの方へと向かってしまえばそれは足手まといにしかならない、あの怯えようを見ればわかるだろうが」
目の前で仲間を殺されそれが自分のせいだと聞かされたイプシロンは言葉を失い呆然としていた。
「止めろ、それ以上俺の彼女を蔑むのならば許しはしないぞ‼︎」
アルファは精一杯の虚勢でアルを睨みつける、だがアルは無情にも話を続けた。
「今日の戦いを思い出してみろ、全てあいつが足を引っ張っているんだよ
そして一番の原因はお前らが全員あの女に気があるということだ」
「は?」
何を言っているのかわからないイプシロンは素っ頓狂な声をあげる
だが思い当たる節のあるアルファは思わず視線を逸らした。
「野郎四人の中に女一人ぶち込めばこうなるのも自明の理だわな
どいつもこいつもあの女を守ろうと必死になりやがって、みっともない……
まあ俺も女の為に戦っているのだからお前らのことは言えないけれどな……」
ようやく何かに気づいたアルファが驚きの声をあげる。
「じゃあまさか……最初から……」
「ようやく気がついたか、そうだ、最初の湖の時点であの女を殺そうと思えば殺せた、だがあえて残したんだ
あいつを生かしておくほうが後々お前らの足を引っ張ってくれるからな
【男は女で身を滅ぼす】ってのはリストランテの諺だったか?女っていうのは本当に怖いぜ」
何故かしみじみと語るアル、しかしアルがふと視線を逸らした瞬間、跳ね起きるように飛び起きたアルファが渾身の拳を放った。
「死ね‼︎」
だがその拳がアルに届くことはなかった、アルファの渾身の拳を難なく交わしたアルは再びアルファの腹にパンチを喰らわせる。
「ぐえっ‼︎」
最後の攻撃に全てをかけていたアルファにはもう反撃する力も気力もなかった。
「どうして……」
絞り出すように問いかけるアルファを悲しい目で見つめるアル。
「お前が何かを狙っていたのはわかっていた、だからわざと隙を作って攻撃を誘ったんだよ」
全てにおいて負けたアルファは全身の力が抜けもたれかかるようにアルに身を預けた。
「完敗だ……どうしてこれほどまでの差が出たのだ?スペック以上の力の差があった……どうして……」
「まあ、経験の差かな?俺にもよくわからん」
「何だよ、それ……」
アルファは崩れ落ちるように倒れた、アルは最後の仕上げとばかりにイプシロンに狙いを定める。
「いやよ、来ないで、お願い……」
今のイプシロンはそこらにいる人間の女性と大差なかった、完全に怯え立ち上がることもできずにいる
アルがイプシロンの方へと歩き始めようとした時、アルの足を掴む者がいた、アルファである。
「離せ」
「頼む……彼女だけは殺さないでやってくれ……俺がこんな事を頼むのはお門違いだとわかっている、でもお願いだ、彼女だけは……」
もはや力を込めることもできない体で必死にしがみつき彼女の命乞いをするアルファ、だがアルはまるで連絡事項でも告げるように答える。
「ダメだ、お前らは何人殺してきたと思っているんだ、そして命乞いをしてきた人間をどれだけ殺してきた
お前らを生かしておけばこの先どれだけの人間を殺すか……」
「もう殺さない、彼女には殺させないから頼む、せめて彼女だけでも殺さないでくれ
お前だって女のために戦っているのだろう?だったら……」
すがるように訴えかけるアルファ、だがアルは目を閉じゆっくりと首を振った。
「戦いとは殺し殺されることだ、自分は相手を殺す気でいたのに負けたら殺さないでくれでは道理が通らない
お前らはそんなことも知らずに戦ってきたのか?」
アルの無情な返答に顔を歪めるアルファ。
「貴様だって俺たち以上に殺してきたのだろうが‼︎」
「ああ、そうだ、だから俺もロクな死に方はしないだろう、すぐにお前らのいる地獄に行く、少しだけ待っていろ」
そう告げるとその拳を振り下ろした。アルファを倒しゆっくりとイプシロンに近づくアル。
「止めて……イヤ、死にたくないの……まだやりたいことが一杯あるのよ……」
「無駄だ、諦めろ。お前らは急速な育成の反動で人格的に壊れてしまっている、野放しにすればこれからも必ず多くの人を殺す」
「もう殺さないから……誰も殺さないから……許して」
「無理だ、父上がチャイルドシリーズに反対したのは感情が制御できなくなるからだ
お前らは将来じいちゃんの命令を無視して人を殺しまくる、そう作られているんだ、ある意味お前らも被害者かもな……」
アルはそう言って拳を振り上げる。
「止めて、イヤ……死にたくな……」
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