狩る者と狩られる者
ァルは猛スピードで逃げていた、砂煙をあげ落ち葉が舞い上がるほど猛烈な勢いで疾走していた
だがそれに離される事なくピタリと追っているベータ、鬼の形相を浮かべ仲間の復讐に燃える姿はまさに修羅の如しであった。
「待ちやがれ、この卑怯者が‼︎」
逃げるアルと追うベータ、生物として限界以上の速度で走る二人は外道と呼ばれる魔道の結晶の証でもあった
徐々にアルとベータの差が詰まってくる、後少し、もう少しであるの背中に手が届きそうになりベータの口元が思わず緩む。
「追いついたぜ、ガンマの仇をとらせてもらうぞ‼︎」
ベータが前を走るアルの肩に手をかけようとした時、肩越しに振り向いたアルがニヤリと笑った。
その瞬間、これがあるの罠だと気づいたベータであったがもう時すでに遅買ったのである。
「じゃあお望み通り正々堂々と戦ってやんよ‼︎」
突然反転し体制を低く構えて戦闘体制をとるアル、ベータは追いつくことだけに頭が一杯になっていたため
反応が僅かに遅れた、その遅れを見逃すアルではない、次の瞬間アルの拳がベータの腹にめり込んだ。
「ぐえっ‼︎」
体をくの字に曲げて地面に倒れ込むベータ
アルのパンチの影響で呼吸もままならなベータは腹を抑えながら胃液を吐き出しヒューヒューという呼吸音を出しながら悶えていた。
「どうした?俺をぶち殺すんじゃなかったのか?」
ニヤニヤと笑いながら倒れているベータを見下ろし、挑発するアル。
「う、うるせえ……今……お前をぶっ飛ばして……」
アルは強がるベータに容赦なく打撃を加えた、無抵抗のままボコられるベータの顔は腫れ上がりところどころが青く変色していた。
一方的にボコボコにされたベータは指一本動かすことができないでいた
グッタリと地面に横たわるベータの髪の毛を掴み力任せにひきづり上げるアル。
「おーい、生きているか?」
「うるへー……どうひて……どうひて俺を……殺さにゃい……」
もはや会話もままならないベータの問いかけに静かに答えるアル。
「殺してしまったら餌にならねーだろうが、餌ってのは生きていてこそ価値があるのだからな」
ベータからの反応はなかった、殺さないように手加減され指一本動かせない状態まで一方的にボコられた挙句
餌として使われると聞かされたベータは声のないまま悔し涙を流した、そんな彼の姿を見て目を閉じるアル。
「まあ悪いとは思っているぜ、だが今回はこっちも負けられない戦いだからな勝つ為にはどんな手も使うって決めたんだ
どうせ俺もお前も死んだら地獄行きだ、もしもそこで会ったら々堂々と戦ってやんよ」
最後にベータの腹にパンチを入れ強制的に会話を終了したアル、その顔は少し寂しげであった。
アルファ達三人は二人を追っていた。
「こっちから二人の匂いがするわ、近いわよ‼︎」
イプシロンの言葉にアルファとデルタも気を引き締める
それからしばらく進むと大木を背にグッタリと座り込んでいるベータの姿が見えた。
「ベータ‼︎」
イプシロンが声をかけるが反応はない。
「死んでいるのか?」
デルタの疑問にアルファが首を振る。
「いや、重症だが生きている、どうして殺されなかったかは不思議だが」
「そうよ、ベータは生きているわ、死人は独特の匂いがするからわかるもの‼︎待っていてベータ、今助けるわ‼︎」
嬉しそうにベータに駆け寄ろうとするイプシロン。
「ちょっと待て、イプシロン、罠かもしれん」
何とか引き止めようとするが聞く耳を持たないイプシロンはベータに近づいていく。
「ちっ、仕方がないか」
アルファもイプシロンに続く、罠だとしても彼女を一人にはできないからだ
ベータの周りに罠がないか警戒を強めるアルファ、だがデルタだけはベータの近づく事をためらっていた。
「この状態でベータを生かしておくのはおかしい、奴の狙いは何だ?」
アルの狙いを読もうと冷静に考え込むデルタ、そうしているうちにイプシロンがベータのいる所に到着し声をかける。
「大丈夫、ベータ?ちゃんと生きているわよね⁉︎」
涙ながらに問いかけるイプシロン、目の前のベータは見るも無惨な姿に成り果てていた
顔は腫れ上がり身体中は青あざだらけ、常人ならば死んでいたであろうと思われた
生態兵器としての強靭な体を持っているからこそ何とか生命を維持しており
かろうじて生きているという言葉がピッタリ合っている状態であった。
イプシロンの声が聞こえたのか、ベータの唇がかすかに動いた。
「えっ、何?何が言いたいの?」
ベータの顔に耳を近づけなんとか聞き取ろうとするイプシロン、ベータは蚊の鳴くような声で絞り出すように告げた。
「にげ……ろ……わな……だ……早く……イプシ……」
罠だと聞かされ慌てて周りを見渡すイプシロン、その反応を見てデルタが何かに気がついた。
「まさか奴の狙いは⁉︎」
デルタが言葉を発した瞬間、デルタの後ろの地面が盛り上がりそこから鋭く伸びてきた右手がデルタの胸を貫いた。
「ガハッ‼︎」
後ろから胸を貫かれ一瞬で目の前が真っ暗になるデルタ。
「ベータを餌に……私を狙ったのか……」
糸の切れた操り人形のように力なくその場に崩れ落ちるデルタ。
「まあな、ベータの野郎を生かして置いておけば、少し頭の回る奴ならば罠だと気がつく
だが女って奴はまずは感情で動くからな、必ず近づいて行くと思っていた
アルファの野郎も自分の女を罠にかけるわけにはいかないから警戒しながらも必ず女についていく
慎重さが売りのお前さんはベータの周りに罠があると睨んで少し離れた位置で様子を見ていると読んでいたんだ
まさかここまで思い通りになるとは思わなかったがな」
デルタの胸を貫いた腕を引き抜きその血をペロリとなめるアル、足元には血の海が広がりデルタはすでに絶命していた。
「にげ……ろ……イプシ……ロン」
ベータは精一杯の声で逃げろと伝える、だが次々と殺されていく仲間を見てイプシロンの体はガタガタと震え始めた。
「何でこうなるのよ……私たちの方が強いはずなのに……」
アルは全身真っ赤な返り血を浴びながらゆっくりと近づいて行く。
「来ないで、こっちに来ないでよ……」
イプシロンは腰が抜けたかのようにその場に座り込んでしまいもはや戦闘意欲をなくしている
アルファは素早くアルの後ろに回り込むとイプシロンに向かって大声で叫んだ。
「立てイプシロン‼︎まだ数的優位は変わりない、奴は連戦で疲れているはずだ、俺とお前で挟み撃ちにすれば……」
だが次の瞬間、アルはアルファに背を向けたままイプシロンの方へと走り出したのである、アルの後を追うようにアルファも走り出した。
「応戦しろイプシロン‼︎俺が後ろから攻撃する、お前が応戦してくれれば俺は……」
アルファの必死の訴えもイプシロンの耳には届かなかった、腰を抜かしたままガタガタと震え立ち上がれずにいたのである。
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