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悪魔の強襲

翌日チャイルドシリーズの五人は指定場所であるスワリロ湿地に向けて歩いていた。


「ねえアルファ、私達が果し状の場所へと向かって城を開けた隙に奴が城を襲うとか無いの?」


「ああ、それは大丈夫だ、奴が城の方に現れたら狼煙を上げるように手配をしてある


城からスワリロ湿地まで約20キロだからな、俺たちが全力で走れば三分で城まで戻れる


いくら城の兵がボンクラ揃いとはいえ俺たちが帰ってくる三分ぐらいは持ち堪えられるだろう」


 説明を聞いたイプシロンは〈アルファ凄い〉というリアクションを見せ嬉しそうに微笑む


その反応にドヤ顔を決め込むアルファ、そこに待ったをかけるようにデルタが話に入ってくる。


「奴がその程度の浅知恵しかないのであればこちらとしても助かるのですが


まあどちらにしてもスワリロ湿地に誘い込めば勝てると思っている時点で我々が負ける要素はありませんけれどね」


 得意げにメガネをクイっと上げる仕草を見せるデルタ、だがイプシロンは完全無視でずっとアルファの方を見ていた。


「何にしても今日こそ奴をぶちのめせるのだから楽しみだぜ、今からワクワクが止まらないぜ」


「いくら我々有利だとはいえ油断は大敵だ、気を引き締めていけよ、ベータ」


「わかっているよ、いつも慎重だな、ガンマは、そんなに心配しなくても大丈夫だぜ、何なら俺一人でも奴をぶっ飛ばしてやるからよ」


 腕をぶんぶんと振り回しながら早く戦いたくて仕方がない様子のベータ


忠告も全く意味がなかった事を知りため息をつくガンマ


二人のやりとりを見て呆れるデルタとイプシロン


いつもと同じやりとりであり見慣れた光景であったがアルファはそんな仲間の様子を鼻で笑う


立場上口にこそ出さないが〈いざとなったら俺一人で奴を倒す〉と思っていたのはアルファも同じだからであり


イプシロンを除く他のメンバーは自分の操る駒の一つとしか考えていないのだ


もっといえばアルを倒せるのであればイプシロン以外は死んでも構わないとすら思っていた。



 五人はスワリロ湿地に向かう途中、マウレラ湖という湖の湖畔を歩いていた


この湖は別名【美聖泉】と呼ばれ〈女神が生まれた場所〉という伝説が残っている場所である。


透明度の高い水に鳥のさえずる声、優しい風が木々を揺らし木の間から光が差す光景は何とも幻想的で息が止まるほど美しい。


ここは美しい景色や珍しい動物や鳥が生息しているので普段は保護地区に指定されており一般人が立ち入ることはできない


だが城からスワリロ湿地に向かうにはここを通るのが一番早い為、彼らは当然のように立ち入っていた


そもそもチャイルドシリーズに注意できる者などいない為、何も気にすることもなく最短であるこの道を進んでいたのだ。


「綺麗ね……」


 周りの景色に思わずうっとりとするイプシロン、彼女の美しい黒髪が木漏れ日を浴びてキラキラと反射する


その光景はまるで一枚の絵画のようだった、それを優しい目で見つめるメンバー達。


「本当に綺麗ね、普段は人が立ち入ることがないからこんなに綺麗なのかしら」


 両手を広げ嬉しそうに笑うイプシロン、そのまま湖の方に駆け出すと楽しそうに湖を覗き込んだ。


「水も綺麗ね、魚とかいるのかしら」


 髪をかき揚げ嬉しそうに水の中を覗き込むイプシロン


だが次の瞬間今まで優しかった彼女の表情が驚愕のモノへと変わった


その理由は水の中にいた人間と目があったからである


驚きのあまり硬直して言葉も出ないイプシロン、水の中にいたのはもちろんアルである


獲物を狙うハンターのように冷徹な目で水の中からイプシロンを見つめていた。


「イプシロン、早くそこから離れろ‼︎」


 真っ先に異変に気づいたのはガンマだった、しかし次の瞬間水の中からヌッと右腕が出てきてイプシロンの右足を掴む


恐怖で言葉も出ないイプシロン、急いで彼女を助けるために湖に足を踏み入れるガンマ、その時ようやく他のメンバーも異変に気がついた。


「何で?何でこんなところにいるのよ……」


 自分の右足を掴んでいる手を必死で振り解こうとするがびくともしない、顔が恐怖で引き攣るイプシロン。


「その手を離せ‼︎」


 アルとイプシロンの間に割り込むようにガンマが飛び込んだ、その瞬間


突然水面が盛り上がりアルが一気にその姿を表す、激しく波打つ水面と方々に飛び散る水滴


静かだった湖畔が一気に騒がしくなり鳥達が一斉に逃げ出す


バシャーンという大きな音と共に大量の水飛沫をあげて姿を見せたアルは目をぎらつかせながら既に戦闘態勢に入っていた。


「死ねや、このアマ‼」


 右手を振り上げ残虐に笑うアル、イプシロンは意表をつかれ全く反応できていない。


「止めろ‼︎」


 ガンマが庇うようにイプシロンの前に立ち塞がった、その瞬間、アルの顔が、満面の笑みに変わったのだ。


〈バシュ‼︎〉という鈍い音を立ててアルの右手が体を貫いた、だが貫いた相手はイプシロンではなくガンマの胴体であった。


「へっ?」


 何が起こったのかわからないイプシロンは唖然としている、目の目には胸を貫かれ膝を落とすガンマの姿があった。


「ガハッ」


 口から大量の血を吐き出しその場に膝から崩れ落ちるガンマ。


「まさか……最初から私が狙いだったのか……」


 絞り出すようなガンマの声にアルはニヤリと笑みを浮かべる。


「まあな、お前が一番厄介だからな、水中ならば熱も匂いも誤魔化せるが動いた瞬間音だけは発生してしまうからな


お前が一番最初に気がつくと思っていたぜ、計算通りだ」


 貫いていた右手を一気に引き抜くアル、ガンマの体から噴水のように血が噴き出しアルとイプシロンの体に大量の返り血がかかる。


「早く……みんなの元へ……行け、イプシロン……」


 イプシロンに言葉を残し前のめりに倒れ込むガンマ、うつぶせのまま顔を半分水に浸し全く動かなくなったガンマを無慈悲に踏みつけるアル


大量の返り血を浴び残虐的な笑みを浮かべるその姿はまさに悪魔のようであった。


「大丈夫かイプシロン‼︎」


 アルファをはじめとするメンバー達がようやくイプシロンを守るようにとり囲む


アルはすでに後方にジャンプしていて彼らと距離をとっていた。


「テメエ、卑怯だぞ‼︎決戦の場所はスワリロ湿地じゃなかったのかよ‼︎」


 メンバーの中でも一際激怒していたのはベータである、顔を真っ赤にし怒りでブルブルと震えていた。


「戦いに卑怯もクソもあるか、騙される方が間抜けなんだよバーカ


そもそもお前ら五人がかりで俺一人をボコろうとしているじゃねーか、それを卑怯だと思わないのか?一緒じゃないと怖くて戦えない臆病者が」


 怒り心頭のベータに向かって挑発的な言葉を投げかけるアル。


「ふざけんな、ぶち殺してやる‼︎」


 ムキになってアルに向かっていくベータ。


「待て、これは奴の手だ、挑発に乗るな‼︎」


 アルファの静止も聞かずアルに向かっていくベータ、完全に頭に血が昇ってアルファの声が耳に入っていない様子である


その時アルがアルファ達に向かって何か球体状の物を投げた。


「な、何だ?」


 アルの投げた球は空中で弾けると白い煙の様なモノを辺りに撒き散らす。


「何だこれは、剣幕か?」


 アルファは煙の正体がわからず眉を細めると、すかさずデルタが答える。


「これはスモーク弾と同じ成分だ、煙幕の中に催涙ガスも含まれているから近寄るな、一分もすれば霧散して晴れるはずだ‼︎」


 三人は忸怩たる思いで煙幕が晴れるのを待った、たった一分が何時間にも感じられイライラしながら待つ


ようやく煙幕が晴れたらそこにはアルの姿もベータの姿もなかった。


「あのバカ、あれほど言ったのに奴を追ったのか……」


「彼の熱探知は煙幕でも防げませんからね、ベータはまんまと誘き出されたというわけです」


「じゃあ早く助けに行かないと、ベータもガンマみたいにやられちゃうよ‼︎」


 慌ててベータの後を追おうとするイプシロンの手を掴み引き止めるアルファ。


「どうして止めるのよ‼︎」


 目の前で仲間の死を見せられたイプシロンは既に涙目になっていた、そんな彼女を諭すように言葉をかけるアルファ。


「慌てて追っても奴の思うツボだ、俺たちが今できることは数的優位を絶対に崩さない事だ、俺たちは固まって慎重に奴等を追う、わかったな」


「でも、ベータまで死んじゃったら……」


 涙を流しながら訴えるように言葉を発するイプシロン、アルファは彼女の両肩を掴み静かに説得する。


「ベータの奴だって強いんだ、さすがに一対一では分が悪いかもしれないが一方的にやられるようなことは無い


俺たちが追いつくぐらいまでは粘っているはずさ」


 涙を抑え小さく頷くイプシロン、アルファは彼女の肩をポンと叩きアルとベータが向かったと思えわれる方向へと視線を向けた。


「南西の方向に逃げた形跡がある、早く追うぞ、追跡には君の嗅覚が頼りだからな」


 イプシロンはゴシゴシと涙を拭いて今度は大きく頷いた


腕で乱暴に拭いたのでメイクが少し落ちて黒くなってしまっていたがそんなことを気にしている様子はない


アルファとデルタは顔を見合わせるとそのまま二人の跡を追った。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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