勝利の為の分析
「普段の素行は大事だな、まあ奴らは短時間で急遽作られた生態魔道兵器だからな
感情のコントロールもままならないし性格も戦闘用に調整されているから感情が不安定な上にやたら好戦的なはずだ
いわば情緒不安定な子供に興奮剤を投与しているようなモノだからな、それに付き合わされる周りの人間はたまったものじゃないだろう」
アルはそう言いながら次の資料に目を通していた。
「これがベータとかいう奴の資料か、あの金髪ツリ目野郎だな……メンバー内で一番好戦的で粗暴
とにかくキレやすく感情の起伏が激しいか、まあこの前会った時もそんな感じだったからな」
アルがベータに関する資料のいくつか目を通していたが一枚の報告書を見てニヤリと笑った。
「ベータの奴がどんな役割か、わかったぜ」
アルの持っている資料を二人がのぞき込むとそこにはベータが起こした数々の問題行動が書かれていた。
「確かにとんでもない奴らの様だな、些細な事で理不尽な暴力と暴言を繰り返し回りの人間に当たり散らすとか、常軌を逸しているとしか思えん」
「まあな、特に注目すべき点はここだ」
アルは報告書に書かれている二つの項目を指さす。
「これは……〈浴槽の湯が熱すぎると暴力をふるう〉、〈食事のスープがぬるすぎるとキレる〉とあるが、これがどうかしたのか?」
「ああ、これはベータの奴が〈熱〉の担当だとわかるデータだ」
「熱だと?それはどういうことだ?」
不可解な答えに思わず首をかしげるゴドルバン、それに応えるようにアルが静かに説明を始めた。
「そうだな……例えば蛇などの爬虫類は目がほとんど見えない代わりに熱で相手を感知する機能がある
それと同じような能力を奴は持っているというわけだ
例として物陰に隠れて不意を突こうとしても先に熱で探知されバレバレだという事になる
だから奴はわずかな熱の変化にも敏感なのだろう」
淡々と説明するアルだったがあまりの事実に驚愕するバルダークとゴドルバン
そんな二人の様子を気にすることもなく一心不乱に報告書に目を通していたアルだったが一枚の報告書を見て目つきが変わる。
「普段の奴らは城内では皆バラバラに行動しているのに食事だけは毎回全員で食べる
そしてなぜかデルタだけが先に食事に口をつけるか……
なるほど、あのメガネをかけたインテリ風の男の役目は〈味覚〉つまり毒見だ」
独り言のようにつぶやくアルに対しバルダークがすかさず問いかけた。
「毒見?」
「ああ、俺は毒に対して完全な耐性がある、だが奴らの中で毒に対して完全な耐性を持っているのはデルタだけなのだろう」
アルの説明にどこか納得できないゴドルバンはいぶかし気な表情で質問する。
「それにしても毒見役とは……あまり戦闘向きな能力とは思えぬが?」
「いや、そうでもないぜ、まともに戦っても勝ち目がないのならば
からめ手で攻めるというのは常道だからな、つまりこっそりと毒を使って殺してしまえば手っ取り早いというわけだ」
「暗殺への対応策というわけか!?そこまで考えられていたのか……」
驚きのあまり言葉を失うゴドルバン。
「まあな、相手が戦場で毒を含んだ弓矢とか吹矢、毒ガスを使ってくるかもしれないしな、備えあれば憂いなしという事だ……」
とんでもない事を淡々と語るアルの姿に百戦錬磨の二人ですら思わず息を呑んだ
この目の前の少年がどれほどの修羅場をくぐり抜けてきたかを改めて思い知ったのである。
そんな二人を尻目に資料に次々と目を通すアル、そして一枚の資料に目を止めニヤリと笑った。
「こいつの特性もわかったぜ」
独り言のようにボソリとつぶいやいたアルだったが、その手にしている資料を二人は食いつくように覗き込んだ。
「誰の何がわかったというのだ?」
その資料に書かれていたのはイプシロンの事であった。
〈洋服を何着も持っている、花が好き、宝石が好き、甘い菓子が好き、各国から化粧品や香水を取り寄せさせている〉などであった。
「このデータで何がわかるというのだ?典型的な普通の女子の趣向だと思うのだが……」
バルダークが不思議そうに問いかける。
「全てを見るとそう見えるが〈花が好き〉〈香水が好き〉という点に注目すればわかるだろう?」
含みのあるアルの言い方にゴルドバンがあっと叫んだ。
「匂い、つまり嗅覚か⁉︎」
「その通りだ、このイプシロンという女は鼻が担当だな、それに思った以上にこいつは女だ、これは使えるかも知れない」
意味深な言葉を口にしながら笑みを浮かべるアル、その悪魔的な微笑は一瞬バルダークとゴドルバンの背筋を寒からしめた。
「ということは残りのガンマという大柄の少年が……」
「ああ、聴覚担当、つまり耳だ」
だがそこに書かれている内容を見てアルが険しい表情を浮かべ思わず舌打ちをする。
「ちっ、こいつは厄介だな……」
二人が資料を覗き込むとそこにはこう書かれていた。
〈ガンマという少年は他の四人のような高圧的な態度は無く一般兵や城内の人間に対しても普通に接している
普段は物静かで口数も少なく他メンバー同士が争った際には常に仲裁役としてその場を収めることが多い〉と。
「この少年は他のメンバーとは少し違うようだな」
バルダークが発した言葉に反応するようにアルが拳を強く握りしめる。
「こいつだけは性格を戦闘用に調整されてはいないようだ、まあ全員好戦的では統率が取れないと判断したのだろう
戦闘向きでない性格だからリーダーではないがチームの精神的な支柱であり実質的なリーダーかもしれん
担当も耳だしこいつが一番厄介だ……」
ガンマの資料を見ながら険しい表情で何かを考えているアルにバルダークが一枚の資料を手渡す。
「アル殿、こんな面白い情報がある」
手渡された資料を見てアルはサディスティックな笑みを浮かべた。
「いいじゃねーか、面白い、これは使えるぞ‼︎」
渡したバルダークも満足げに口元を緩める。
「いったいその資料に何が書かれているのだ⁉︎」
気になったゴルドバンがアルの手にしている資料を覗き込むとそこにはこう書かれていた。
〈リーダーのアルファとメンバー内唯一の女性であるイプシロンは付き合っている
おそらく他メンバーもイプシロンに対して好意以上のモノを持っていると思われる〉
このデータを目にしたアルは込み上げてくる笑いを抑えきれないといった様子で語り始めた。
「クックック、ガキどもが一丁前に色気づきやがって。まあ野郎四人の中に女を一人放り込めばこういった問題は起こるよな
結構、結構……さて、これをどうやって利用してやろうか……」
どこか楽しそうにつつぶやくアルの姿に一瞬気圧される二人だったが、気を取り直し質問をぶつける。
「戦うにしてもどうやって奴らを相手にするつもりなのだ?」
「そうだな、細かいところはこれから考えるとしても大まかな戦略は奴らをある場所へと誘い出しそこで一人一人ぶちのめす‼︎」
力強く言い切ったアルの目は決意にも似た何かを感じさせた。
「なるほど、数的不利を覆す為にせめて地の利を得ようという訳か、しかし奴らがそれに乗ってくるかな?」
「確かに、まともに戦えば自分達が有利だというのをわかっている連中が
自分達が不利になるかも知れない場所にわざわざ来るかは疑問だが……」
アルの作戦にやや懐疑的な二人であったが、アルは自信満々であった。
「あいつらは来るさ、絶対にな」
アルの確信に近い言葉に二人がそれ以上反論することはなかった
それから具体的にどう戦うか?という事をゴドルバンとバルダークの助言を取り入れながら話し合った。
「まあ戦術的にはこんなところか」
「作戦通りに行くならば勝ち目はあるが……」
「この戦い方で行くとしてアル殿はどの程度の勝算があると思っている?」
二人の問いかけに目を閉じ考え込む、しばらくして両目を見開きその質問に答えた。
「正直、五分五分……と言いたいところだが客観的に考えてそこまではないな
奴らの行動に関しては推測や憶測の部分が多い、三割もあればいいところだろう」
分の悪い賭けであることは百も承知で戦いに挑む決意をするアル
その姿には迷いや不安は感じられない、そんな決意の姿を見てバルダークが静かに問いかける。
「今更こんな事を聞くのはどうかとも思うが、なぜアル殿はそこまでして我らに加担してくれるのかな?
金や名誉が欲しいわけではないだろう、アル殿の立場を考えれば向こう側に戻ったり逃げ出したりしてもそれを咎めるものなどいない
なのにそこまでして戦う理由は?命を張って得られるものとは何なのか、良ければ聞かせてはくれないかな?」
ゴルドバンも同じ疑問を抱えている様子だった、二人にしてみれば至極当然の疑問であろう
アル自身にも明確に〈これだ〉と言える理想や信念などないのだから
だがアルの頭に浮かんだのはサーシャが声を殺して泣いていたという事実
それがどうしても許せないという感情的な理由だけなのである。
「まあ、何となくだ……」
アルはお茶を濁すようにハッキリとは答えなかった、二人はそれ以上追求することはせず、どこか納得した表情で目を閉じた。
「じゃあ奴らに直接手紙を渡してくれ、できるよな?」
「もちろん、で?手紙にはどう書いておけばいいかな?」
「指定場所と日時、そして表面には〈果たし状〉と書いておいてくれ」
バルダークは小さく頷き早速手配をするよう部下に命じていた
こうしてアルVSチャイルドシリーズの五人という世界の命運をかけた戦いが始まろうとしていた。
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