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戦うための準備

「何かあったのですか、アル様?」


 アルの顔を覗き込むように再びリサが問いかけてくる


だがサーシャは二人に知られたくないから部屋の中で一人声を殺して泣いているのだ


それをここでバラすわけにはいかないと思い精一杯平静を装った。


「いや、何でもない」


「そうですか……」


 リサは特に気にすることもなくあてがわれた自分の部屋へと戻って行った。


 リサと別れた後、アルは足早にあるところへと向かう、それはケルコフ共和国の国王、バルダークのところだった。


「どうなされたアル殿、随分と急いでいる様子だが?」


「バルダーク、アンタに頼みがある。アンタの国の諜報能力を使って至急調べてもらいたい事がある」


 尋常ではないアルの様子を見てバルダークは目を細めた。


「何を調べれば良いのかな?」


「チャイルドシリーズの五人についてどんなことでもいいから調べてくれ


奴らの性格、仲間内での関係性、普段の生活態度、何でもいいとにかく大至急調べて欲しい」


 鬼気迫るアルの言動にやや気圧されるバルダーク。


「リストランテにも我が国の諜報員が潜入しているのでそのぐらいのことならば調べられるとは思うが……


しかしそのような事を調べてどうするつもりかな?」


 調査依頼の意図がわからないバルダークは素直な気持ちで問いかけるとアルは何かを考えながら険しい表情で答えた。


「あいつらはおそらくここ五年以内に生み出された生態魔導兵器だ


だから人格形成を行うための常識や知識なども時間短縮で無理矢理詰め込まれたはず


つまりどこか人格が破綻している可能性が高い、そこを突いてアイツらを倒せないか?と思っただけだ」


 アルと共に会談の場にいたバルダークはその推測に納得できた


あのチャイルドシリーズの五人は見た目の子供っぽさとは裏腹にどこか性格が壊れている印象を受けた


人間は長い年月をかけて色々な人との出会いとさまざまな経験を積み重ねて人格を形成していく


それが無いあの五人は確かに人間としてどこかおかしい、アルはそこに目をつけたのである。


「了解した、至急調べてアル殿に報告しよう」


「ああ頼む、じいちゃんに返事をする期限まで後六日しか無いからな」


 バルダークは力強く頷くと急いで【SINOBI】の者達へ指令を出した。


それから二日が過ぎ連合内ではリストランテから突きつけられた降伏勧告への対応で大騒ぎになっていた


各国の代表が集まり朝から晩まで会議を開き色々な意見を交わすが明確な答えは出せずにいた


そんな時バルダークからアルに〈チャイルドシリーズに関する報告書ができた〉という知らせが届く。


「調査を依頼して二日しか経ってないのに随分と早いな、ゲルコフ王国の諜報能力は本当に優秀なようだ」


 嬉しい誤算とばかりに意気揚々とバルダークの元へと向かうアル、するとそこにはゴドルバンもいた


戦闘のアドバイザーとしてバルダークが呼んだようだ。


「チャイルドシリーズと一戦交える為の会議と聞いたのだがこの三人だけなのか?」


 この場に自分を含めた三人しかいないことを不思議に感じ辺りを見渡すゴルドバン。


「ああ、戦いの素人に来られても役に立たないからな、それよりサーシャには話していないだろうな?」


 確認するようにバルダークの方に鋭い視線を向ける。


「もちろん、サーシャ殿には話していない。それどころかこの事を知っているのは我々三人だけだ


どこから情報が漏れるかわからないからな」


 情報のエキスパートであるバルダークらしい返答にアルが小さく頷いた。


「それで、この大量の資料が全て奴らのデータというわけか……」


 机の上に大量に積まれた紙の山を見てアルは満足そうな表情を浮かべる


ゴドルバンもその資料の多さに戸惑いながらも早速それらの一枚一枚に目を通し始める


だがその表情はすぐに険しいものへと変わった。


「何だ、これは?奴らの好きな食べ物とか、趣味とか余暇の過ごし方とか、こんなモノが何の役に立つというのだ?」


 報告書に書かれている内容が想像していたものと違っていたせいか、ゴルドバンはやや苛立ち混じりの言葉を口にする。


「〈どんな些細なことでもいいからデータを集めて欲しい〉という要望だったのでな、それでどうかな、アル殿?」


 ゴドルバンに指摘されるまでもなくこの報告内容にやや不安を感じていたバルダークはアルの顔を覗き込むように問いかける。


「ああ、いいじゃねーか……アンタの国の諜報機関が大陸一って話は本当だったようだな」


 アルはニヤニヤと満足げな表情を浮かべながら報告書の一枚一枚に目を通す


そんなアルの反応を見て少しホッとしたバルダークだったがゴドルバンはやや不満げな表情を浮かべた。


「このデータにそれほどの意味があるとは思えないが……これらの報告書で一体何がわかったのか教えてくれないか?」


 ゴドルバンが思わず質問をぶつける、戦闘のプロとして相手側の情報が重要な事は重々理解しているのだが


ここに書かれている内容がどう戦闘に役にたつのかさっぱりわからないのである。


「まあ普通の人間にはわからないだろうな、だが俺にだけはわかる事がある、例えばこれだ」


 アルは報告書の中の一枚の紙を取り出し二人に見せつけるように差し出した


バルダークとゴドルバンはすかさずその紙を見つめるが書かれていいる内容を見てますます困惑した。


「こんなデータから何かわかるのか?」


 そこに書かれていたのはリーダーであるアルファの事であった


アルファは景色を見るのが好きで暇な時はずっと空を見ていたり森を見ている事が多いという報告が書かれていたのである。


「これは奴がチャイルドシリーズの〈目〉である事を示している、そしてなぜ奴らが五人いるのか?という理由もわかった」


 バルダークとゴドルバンはお互い顔を見合わせ不思議そうに首を傾げた。


「リーダーであるアルファがチャイルドシリーズの〈目〉とはどういうことだ?」


「奴らが五人いる理由とやらを含めて我々に説明してはくれないかね?」


 二人が食い気味に問いかけるとアルは説明を始めた。


「ああそうだな、まずは俺を含めた生態魔道人間兵器について話すか……


俺たちは母親の体内にいる胎児の時点で術を施される、魔法への絶対耐性や筋力、体力を中心とした肉体的な強化などだな


その中には視力、聴力といった五感を強化する術式も含まれているのだが


この五感の強化というのは口で言うほど簡単じゃ無い、かなり緻密で高度な魔法技術が必要なのだ」


 自分の生誕の秘密を含めたとんでもない話を淡々と語るアル


だがその内容は神をも恐れぬ悪魔の所業であり二人はアルの話を聞き入りながら思わず息を呑んだ


しかしアルはそんな二人を気にする様子もなく話を続けた。


「わかりやすく言えばこれだけの術式を一人の胎児に全て組み込むことはかなり高度な技術と高い魔術知識


そして膨大な魔力があってこそ可能なことなのだ


ぶっちゃけ父上だから可能であり一度見て手伝っただけの助手達ではとてもじゃないが不可能だったというわけだ」


 アルの説明を聞きゴルドバンがようやく何かに気がつく。


「そうか、奴らメンバー全てが五感すべてを強化されている訳ではなく


一人一人が視力担当、聴力担当といったような役目が分かれている、だから奴らは五人いるということだな⁉︎」


 ゴドルバンの問いかけに小さく頷くアル。


「ああ、そういう事だ。アルファの空を見上げたり景色を見るというのは目の訓練のためにやっていることだ


俺もガキの頃にやらされたからよくわかる。


 奴らの能力や性格を見極めどう戦うかを考える、そのためのデータだ」


 説明をしながらもアルは食い入るように報告書を見ていた。


「なるほど、【敵を知り己を知れば百戦危うからず】というわけか」


 感心しながらアルを見つめるゴドルバン、するとバルダークが一枚の資料をアルに差し出した。


「アル殿、この報告書にアルファの面白いデータがありますぞ」


 差し出された報告書を奪い取るように手に取り書かれている内容をジッと見つめる、そしてバルダークの方に振り向きニヤリと笑った。


「面白れえじゃねーか」


「だろう?」


 バルダークも呼応するように笑みを浮かべる。


「それには何が書いてあるのだ、私にも見せろ‼︎」


 ゴドルバンがその報告書を覗き込むとそこにはこう書かれていた。

〈チャイルドシリーズのリーダーであるアルファは戦闘力が高く統率力もあり他のメンバーからも一目置かれている


だが自信家で我が強く、リストランテの兵どころか他のメンバーですら見下している傾向あり〉


「しかしたった二日でよくこんな事まで調べられたな」


 アルがチラリと視線を向けるとバルダークは満足げに口元を緩めた。


「我が国の諜報能力を舐めてもらっては困るな、だが短時間でそれだけ調べられたのは別の理由もある。


実はチャイルドシリーズの奴らは普段からかなり問題行動を起こしているらしい。


奴らは何かとキレやすく暴力、暴言、横暴な態度と人間的に問題だらけのようでその被害にあった一般兵は数多く、すでに死者を三人も出している


重軽傷者などは数知れないそうだ、それ故に城内でもかなり疎まれているようで


奴らの事を聞くと貯まっていた不満をぶちまけるように向こうからベラベラと喋ってくれたそうだ」


 その内容を聞きアルはニヤリと笑みを浮かべた。


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