立ち込める暗雲
サーシャとバルダークは会談の結果を報告するため急いで帰還すると連合国の王達に内容を報告した。
バルダークの口から会談は決裂しチャイルドシリーズという新たなる脅威の存在と
一週間後に無条件降伏の条件を飲まなければ連合に対して侵攻を開始するという無茶な勧告を受けた事を皆に知らせる。
「馬鹿な、無条件降伏を飲まなければ我々に戦争を仕掛けてくるだと⁉︎」
会談の内容を聞かされたゴルドバンが机を強く叩きながら吐き捨てるように言い放つ。
「せっかくここまで連合としてやってきてようやく軌道に乗りかけてきたところで……」
「この全てをリストランテに渡さなければならないのか……今のフリードリヒが民を大切にするとは思えぬ」
「連合がリストランテに飲み込まれれば財政、流通、社会福祉、教育の全てが振り出しになってしまうだろう、我々は何の為に……」
各王達の思いは同じであった、誰もが忸怩たる思いを胸に悔しさを顔に滲ませている。
昨日の会談からサーシャは一言も発してはいない、重苦しい空気が漂い誰もが絶望的な未来予想に頭を抱えていた。
「ところでアル殿、あのチャイルドシリーズの五人というのは一人一人がアル殿に匹敵する力を持っているのですか?」
沈黙を破るようにバルダークが質問するとアルは淡々とした口調で説明を始めた。
「いや、俺を生み出した父上はチャイルドシリーズ計画には大反対だった
つまりあいつらは父上の手によって作り出された俺とは違って父上の助手をしていた者達の手によって無理矢理造られたのだろう
それ故に父上ほどの高度な技術や巨大な魔力を注ぎ込むことはできなかったから一人一人は俺より弱いはずだ」
アルの言葉に一同の顔が一瞬ほころぶ、だがゴルドバンだけは険しい表情を崩さなかった。
「一人一人は……ということは複数人で戦闘すれば別ということかな?」
鋭い視線を向けながら質問をぶつけるゴルドバン、それに対してアルは小さく頷く。
「ああ、その通りだ。これはあくまで推測だがあいつらと俺が戦った場合、一対一なら俺の圧勝だろう
二対一で互角、三対一ならこちらの不利、四対一ならほぼ勝ち目はない、五対一ならば……」
アルもそれ以上は口にしなかった、ゴルドバンも腕組みしながら目を閉じる。
するとバルダークが痺れを切らせたかのようにゴルドバンに質問をぶつけた。
「ゴルドバン殿、戦闘の専門家として何かいい考えはありませんか?
個人としての戦闘力では奴らよりアル殿の方が優っているのでしょう?
だったらそれを活かして何とか有利に戦える方法は……」
バルダークはワラをもつかむ思いで問いかけるがゴルドバンは目を閉じたままゆっくりと首を振った。
「無理ですな。奴らを倒す為には奴らが一人になる瞬間を狙って一対一の戦いを挑み続けるという戦術をとらなくてはならない
つまり各個撃破を五回行わなければなりません。
しかしそれは奴らも百も承知のはず、常に五人一緒に行動している事でしょう
奴らも生活している以上瞬間的に一人になる事もあるでしょうがそこをピンポイントで狙い打つなどまず不可能
ましてや期限はあと一週間しかないのだ、そんな奇跡のようなチャンスは訪れないでしょうな」
ゴルドバンの的確な分析に誰もが反論できなかった、アル自身もそんなことはゴルドバンに指摘されるまでもなくわかっていた。
「じゃあこのままリストランテの無条件降伏を受け入れるしかないのか……」
フレマルシア国王がそう呟いた時、ここまで沈黙を貫いていたサーシャが突然口を開いた。
「それだけはダメです、我々は民の為、平和のために立ち上がったのです
ここでリストランテの脅しに屈し全てを諦めてしまっては何もかも台無しになってしまいます‼」
まるで自分に言い聞かせるように強い言葉で皆に訴えかけるサーシャ
しかしその思いを打ち消すが如くゴルドバンとバルダークが口を開く。
「だが戦っても勝ち目は無い、勝算のない戦いに兵を投じるのは愚か者のすることだ、それでもやるとおっしゃるのか?」
「それに無条件降伏を受け入れなければ貴方の父上が処刑されてしまうのですぞ、それでも良いのですかな?」
二人の質問を受け、唇を噛み締めながら目を閉じるサーシャ。
「リストランテに対しどうやって戦うかはもう少し考えさせてください
それに……父上もリストランテに対抗すると決めた時点で覚悟はできていることでしょう
私個人の感情で連合の国民の未来や尊厳を犠牲にするわけにはいきません
返答をする期日までにはまだ一週間あります、それまで何かいい案がないか考えてみましょう」
こうしてこの場では何かを決定することなく答えを先延ばしにした形となった
しかしいくらサーシャでもこの絶望的な状況を打破できるだけの案が出るとは思えず皆の心には暗雲が立ち込めた。
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