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歴史的会談

〈リストランテを連合に加入させる〉という方針が決まった一週間後


連合側から正式にリストランテ連邦共和国のフリードリヒ国王との会談を要請した。


リストランテ側はこの要求をあっさりと受け入れ連合国側首脳陣を驚かせた。


 三週間後に中立国であるバネット王国にて両陣営による初めての会談が行われることが決定し人々は〈これで戦争がなくなるのでは〉と期待に胸を膨らませた。


 連合側は代表としてサーシャとバルダークが出席、相手に警戒心を与えすぎないという配慮から


連合側の代表二人には十名に満たない護衛しかつけていない


だがサーシャの背後にはアルがピタリと付き添い何人たりとも彼女を傷つけさせないぞという威圧感にも似たオーラを放っていた。


 連合側に遅れること20分ほどでリストランテ側の陣営が到着した


連合側と違い百名近くの供の者を引き連れ殺気に近いただならぬ雰囲気をまき散らしながら会談の行われる会場に姿を現す。


この会談にはフリードリヒ国王自ら参加していた。


 先に会場入りして待っていたサーシャとバルダークの前に現われたフリードリヒは


冷徹な視線で二人を一瞥すると孫であるアルには目もくれず挨拶も礼儀もないまま無言で席に着いた。


その不遜ともいえる態度にサーシャも思うところはあったがここはその思いをぐっと堪えて務めて冷静に言葉を発する。


「フリードリヒ国王陛下、此度は我々の要請に応えこの会談に臨んでくれた事を感謝します。


この会談が世界の平和と人類の未来につながることを切に願います」


 丁寧な口調で静かに告げた後、小さく頭を下げたサーシャ。


本来であれば祖国を滅ぼし父である国王を拘束している相手に対して頭を下げるどころか


思いつく限りの罵倒を浴びせてやりたいという心境であったのだが世界平和のためにと私情を押し殺しあくまで連合側の代表として振る舞った。


「世界が平和になるかどうかはそちらの態度次第だ」


 まるで格下相手に話すかのような言葉で不遜な態度を崩さないフリードリヒ


サーシャの横に座っていたバルダークも思わず眉をひそめる。


「フリードリヒ国王陛下、今回我々は話し合いの為にここに集ったのです


お互い思うところは色々あるでしょうがここは大局的な視点で話をしようではありませんか」


 バルダークの言葉を受けフリードリヒは思わず口元を緩めた。


「我が国とまともに交渉もできなかった弱小国の王が随分と偉そうな事を言うではないか」


 侮蔑的な言動で相手を貶めるフリードリヒ、バルダークの顔にも怒りの表情が浮かぶ。


その挑発的ともいえる言動にサーシャが堪らず声を大にする。


「どういうおつもりですかフリードリヒ陛下‼今回の会談の要請に応じてくれたという事は


我々と話し合いの意思があるという事ですよね?


それなのに貴方の態度にはその意図が全く感じられません。


我々はあくまで対等の立場でありそれぞれの国の代表なのです、そのような侮蔑的な発言は控えていただきたい‼」


 ここまで何とか冷静に振る舞っていたサーシャだったがフリードリヒのあまりに横暴な言動の数々に思わず感情的になってしまう。


 だがフリードリヒはその忠告には従わなかった、それどころか明らかに不快感をあらわにしたのである。


「この私と対等だと?弱小国が寄せ集まった程度で調子に乗りおって何を勘違いしているのだ


おこがましいにも程がある。分相応という言葉を知るが良い、不快の一言だ」


 吐き捨てるように言い放ったその言葉には対話の意思など微塵も感じられなかった。


中立の立場として場所を提供したバネット王国の人間をはじめその場にいた人間が思わず息を呑む


平和の為の会談を設けたはず会場が一転、一触即発とでもいうべきピリピリとした空気が漂い嫌でも緊張感が高まっていく。


「フリードリヒ陛下、ならば貴方は何をしにここに来られたのですか?


我々と話し合い連合に加入する意思があったからこそこの会談に応じてくれたのではないのですか⁉」


 苛つきながらも努めて冷静に言葉を発するサーシャ、だがフリードリヒの口から出た言葉は皆の予想を遥かに超えたものであったのだ。


「連合への参加意思だと?あの〈ベルドルア国王と国民を解放し連合に参加しろ〉とかいうふざけた条件付きの要請のことか?


フン馬鹿馬鹿しい。何か勘違いしているようだが私がここに来たのは貴様らと話し合う為でも


ましてや連合に加入するためでもない。私はここバネット王国も含めて全ての国に対して【降伏勧告】に来たのだ


黙って我が国に従うのならば良し、さもなくば攻め滅ぼす、従属か滅亡か?好きな方を選ぶが良い」


 取り付く島もなく連合側に対し一方的に【降伏勧告を告げるフリードリヒ、サーシャもバルダークも予想外の展開に言葉を失っていた。


「そんな……話し合う意思もないのに貴方自らここへ来たというのですか?どうして……」


 まさかの展開にそこにいたリストランテ以外の人間の顔に絶望が浮かぶ。


だが連合側の代表として絞り出すように問いかけるサーシャ。


それに対しフリードリヒは邪悪な笑みを浮かべ嬉しそうに語った。


「この私自ら貴様らに引導を渡してやろうというのだ、ありがたく思うがいい」


 獲物をいたぶる獣のように愉悦に満ちた笑みを浮かべるフリードリヒ。


その姿には世界の行く末を憂い、命をかけて平和を求めていたかつての面影は微塵も感じられなかった。


「ならば我々と戦うというのですか?こう言っては何ですが今のリストランテは我々と戦うだけの戦力は残っていないはずです。


知っての通り貴方の切り札【リストランテの悪魔】と呼ばれたアルフレッド・バーキュリーは今や我々の味方です、それでもやるとおっしゃるのですか⁉︎」


 感情むき出しの姿勢で前のめりに問いかけた。


するとこの会場に来て一度もアルの方を見なかったフリードリヒがふとアルに視線を向け静かに話し始める。


「アルフレッド、本当にお前は実の祖父である私よりそんな女狐に加担するのか?


血を分けた私を裏切り世界の平和より秩序を乱す側に付くというのか?」


「ああ、俺はサーシャの味方だよ、じいちゃん。そもそも俺を騙して裏切ったのはじいちゃんの方じゃないか」


「数多くの国があるから争いが起きるのだ。


人類の未来と世界を平和のためにはこの私が世界を統一することが唯一の方法だとなぜわからぬ。


アルフレッド、今戻ってくるならばその罪は問わぬ、さあこちらへ来い」


 淡々とした口調で右手を差し出すフリードリヒだったがアルはそれに応えることはなかった。


「もうそちらに戻る気はない、父上を監禁し孫の俺すら騙して世界征服の道具にするじいちゃんの言う事は信用できない。


それにじいちゃんが世界を統一しても人々は幸せにはなれない」


「そんな事はない、私が、私だけが世界を平和にして人類を幸福に導けるのだ、それがなぜわからぬ‼」


「見解の相違だな、俺はじいちゃんの言葉よりサーシャの言葉を信じる。じいちゃんの言うことは嘘ばっかりだ」


 訴えるように戻ってこいというフリードリヒの願いもアルには届かなかった。


孫にすげなく断られ思わず苛立ちの表情を浮かべるフリードリヒ、そしてその怒りはサーシャの方に向けられる。


「小娘のくせにその色香でアルフレッドをたぶらかしたか、女狐が」


 今日初めて感情的な言葉を口にするフリードリヒに対しサーシャは微笑を浮かべながら得意げに言葉を返す。


「アルは貴方の野望より私の理想を選んだのです、アルが私の色香に惑わされたのかはご想像にお任せしますわ」


 勝ち誇るように言葉を返すサーシャだったが後ろにいたアルがボソリと小声で呟いた。


「それはねーよ、サーシャに色香とか微塵も無いし」


 アルの冷静なツッコミに一瞬眉をピクつかせるサーシャだったが何事もなかったかのように話を続けた。


「フリードリヒ陛下、今のリストランテが我ら連合に、いえアルに勝てるとでも思っておいでですか?


我々としても戦うのは不本意ですがそちらがどうしてもやると言うのであればこちらも受けて立ちますが」


 サーシャの一言で立場は逆転したかに見えた


だがフリードリヒは何事もなかったかのようにスッと椅子から立ち上がるとサーシャとアルを見下ろしながら言い放つ。


「ならば私と戦うと言うことだな、滅亡の道を選んだ事を後悔するぞ」


 この宣戦布告ともとれる言葉に周りの人間がざわつく


完全に思惑が外れたサーシャは激しく動揺し言葉を失っていた、交渉は完全に決裂したのである。


 そんな中でアルだけが冷静な態度で口を開く。


「本気で俺とやるつもりかい?相手がじいちゃんでも手加減しないぜ」


 アルは既に戦闘モードに入っていた、何なら今ここで戦いを始めてもいいというくらいの殺気を放ち周りの者達を怯ませた。


「やめなさい、アル、こちらが要請した交渉での席で戦闘を始めたとなれば連合の国際的信用に関わります


矛を交えるにしても戦うのは戦場であってここではないわ」


 サーシャの一言で思いとどまるアル、だがその瞬間フリードリヒの後ろから突然大きな声が発せられ会場中に響き渡った。


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