有意義な交渉
連合国首脳陣による会談の翌日、スワロワ海洋国に戻ったパルキスはアルの提案通り
〈海賊達に連絡を取れたものには多額の賞金と昇進を約束する〉と部下達に伝える。
すると三日も経たないうちにある男がパルキスのもとに報告に来る、その男は海軍副参謀のサバロワという者であった。
背が低く痩せた体、顔には火傷の跡があり常に周りを気にしているかのような大きな目が特徴的な男である。
「パルキス陛下、私は色々な手段を駆使して何とか海賊どもとコンタクトを取る事に成功しました、いや〜苦労しました」
ヘラヘラと下卑た笑みを浮かべながらこれ見よがしに自分の手柄を主張するような仕草で擦り寄ってくるサバロワに対し
パルキスは心底怒りを覚えたが、感情を押し殺しグッと堪えて芝居を続ける。
「そうか、でかしたぞ、サバロワ。ならば海賊どものリーダーと話し合いができるようにセッティングしろ
こちらは連合の代表として元ベルドルア王国王女サーシャ殿とお付きの者二人だけで行くと伝えろ
会談場所の指定は相手側に任せる、どこかの海の上でならば相手も納得するだろう」
パルキスの提案に驚きの表情を見せるサバロワ。
「たった二人で海賊どもと会うとか……よろしいのですか?」
「ああ、かまわない。そのぐらいしないと会って話もできないだろうから……
というのがサーシャ殿のお考えだ、だからその方向で話を進めてくれ」
「かしこまりました、お任せください陛下。それとこの会談がうまくいったら賞金と出世が約束されるとお聞きしましたが、その件は……」
「ああ、期待していいぞ、だから早急に話を進めてくれ」
「はい、陛下の思いのままに」
喜びを隠しきれないといった様子で笑みを浮かべるサバロワ、嬉しそうに何度も頷きながら立ち去っていった。
それから二日後、海賊達との会談が行われることとなった。
サーシャとアルが指定された場所へ行くと一舟の小舟が待っていてそれに乗せられて沖へと向かう
三十分ほど進んだ先には数隻の船が浮かんでいるのが見えてきた
その中でも一船だけ大きな船が浮かんでいてサーシャとアルは誘われるままその船に乗り込むこととなる、どうやらこの船が会談場所という事らしい。
船内に案内されるとそこには何人もの屈強な男達が武器を片手にヘラヘラと笑みを浮かべながら二人を見つめている
海賊達のそんな態度にアルは一瞬ムッとするがそれを察したサーシャが右手でアルを制し海賊達に向かって言い放った。
「小娘一人に随分と仰々しいお出迎えですね、私はあなた方と話し合いにきたのです、そのような小賢しい駆け引きは無用ですよ」
武装した男達相手にも一歳怯むことなくキッパリと言い放ったサーシャの態度にややビックリした様子の海賊達
するとその男達の後ろから一人の男が前に出てきた。
「なるほど、さすがは元とはいえベルドルア王国の王女様だ、【王国一の頭脳】とかいう噂は大袈裟ではなかったようだ」
その男は二十代後半ぐらいで背は高く日焼けした浅黒い肌に引き締まった体
何より意志と知性を感じさせる目が特徴的な男であった。
「あなたがここのリーダーですね?思っていたよりずいぶん若いのですね」
「アンタよりは若くないだろうけれどな、まあいきなり威嚇するような真似をしたのは謝るよ
何せこちらはお尋ね者の立場なんでな。それじゃあ改めて自己紹介させてもらう
俺はこいつらのリーダーをしているマークハントという者だ、よろしく」
意外にもフレンドリーな態度で挨拶してきたマークハント
この若さで海賊達のリーダーをやっているだけあってその立ち振る舞いには人間的魅力というかカリスマ性というものを感じさせた。
「私は元ベルドルア王国第一王女サーシャ・フォン・ベルドルアです
後ろの者は私のお供をしてくれているアルと申します。
早速ですが本題に入らせてもらいますが我々は五カ国の連合を組むにあたって海運を流通の主に置いた経済発展を考えております
ですがそれにはあなた方海賊が最大の障害になってしまいます」
「まあ、そうだろうな」
特に気負うこともなくあっけらかんと答えるマークハント、物事に動じない胆力も持っているのがわかる。
「そこであなた方に提案です、我々の連合の一翼としてこの海運業に手を貸してはくれませんか?
あなた方は世界の海に詳しく船の操縦もお手のもの、何より他の海賊に襲われた場合、船での戦闘にも慣れている
何より今まで最大の障害であったあなた方が味方になってくれるのであればこれ以上ない追い風となります。
あなた方が過去に犯した罪や遺恨は全て水に流しますので我々と共にその力を使ってはくれませんか?」
サーシャはそういい放ち優しく右手を差し出す、しかしマークハントはその右手を取ることなく
目を閉じ腕組みをして何かを考えこんでいた、そしてしばらく考えたのち目を見開くとサーシャの言葉に答えた。
「俺たちにとっては大変魅力的な提案だ、いや信じられないぐらいの好条件と言ってもいい……」
「でしたら……」
「だがいくら何でも話がうますぎる、どう考えても俺たちを一網打尽にするための罠としか思えない
とても信じられないというのが正直な気持ちだ」
「ならば正式な書面として起こしましょうか?今回も各国の王達の印がある委任状を持ってきています
私の言葉は連合の意志と受け取ってもらってもいいです」
サーシャの言葉に再び考え込むマークハント、そして再び口を開いた。
「アンタの言葉に嘘はないと思える、だがアンタがそのつもりでも他の王達はどうなのだ?
特に俺たち海賊とスワロワの海軍とは散々やり合った仲だ
俺たちはともかくスワロワ側が〈過去のことは水に流そう〉と本気で思っているとは思えない
さしずめ今は上手いことを言って俺たちを誘き寄せ後で難癖をつけて俺たちを処分するというシナリオとも考えられる
俺は……いや俺たちは国とか政府とかに散々裏切られてきたからな、どうしても信じることができないというのが本音だ」
真剣な表情で切実に語るマークハント、身をもって体験してきただけあってその言葉には重さが感じられ何ともいえない悲しい気持ちになる。
「でしたらあなた方はこのまま海賊を続けるのですか?
五カ国が連合を組んだ以上、海賊への対策は一層厳しいものとなるでしょう。
このままですとあなた方は犯罪人として命を落とす可能性が高くなるのですよ、それでもいいのですか?」
諭すようなサーシャの言葉にマークハントの先程までの余裕な態度は一変し
感情を抑え込むように小刻みに震え出し吐き捨てるように言い放った。
「そんな事はわかっている‼しかしそうするしかないんだ、俺たちにはもう……」
サーシャにというよりどこか自分に言い聞かせる様に大声で言い放つ。
「ならば我々と共にまいりましょう、あなた方にも大切な家族がいるのでしょう?
子供達にまで一生犯罪者の家族、日陰者として過させるつもりですか?だったら……」
「黙れ‼」
マークハントはサーシャの言葉を遮るように怒鳴った。
「そんな事は言われなくともわかっている、だが俺たちは……」
唇を噛み締め拳を握りしめるマークハント、その気持ちが痛いほど伝わってきたサーシャは居た堪れない気持ちになった。
だが次の瞬間、武装していた男達がサッとサーシャの周りを取り囲んだ。
「な、何ですか⁉」
驚きを隠せないサーシャは自分を取り囲んでいる男達を見渡しながら問いかけるとマークハントは静かな声で答えた。
「悪いがアンタには人質になってもらう、俺たちも家族を食わせていかなくてはいけないのでね……
アンタに悪気がないのはわかっている、しかし……乱暴な事はしたくない
向こうが身代金を貰えば速やかに解放するからどうか大人しく……」
マークハントがそう言いかけた時、サーシャを取り囲んでいた男の一人が突然吹き飛んだ
吹き飛ばされた男は壁に叩きつけられ床に倒れたまま動かなくなってしまった
マークハントをはじめ海賊達は何が起こったのかまるでわからず呆然としているとアルが大きくため息をついて話し始めた
「ハア、全く……俺が働かずに済むんじゃなかったのかよ……
仕方がないな、さっさと片付けてやる、面倒だからまとめてかかって来い」
余裕の態度で周りの男達に向かって手招きするアル、我に返った男達は怒りの表情を浮かべ武器を手に一斉にアルに襲い掛かった
そしてそれと同時にサーシャの声が船内に響き渡る。
「アル‼」
「わかっているよ、殺すなっていうのだろ?ったく面倒臭いな」
気だるそうな台詞とは裏腹に襲い掛かった男達が次々と吹き飛んでいく
まるで竜巻に巻き込まれたかのように人間の体が紙グズのように飛んでいき次々と船内の壁に叩きつけられていく
中には吹き飛んだ衝撃で壁を突き破って外の海に投げ出された者すらいた。
「いいのか?気を失ったまま海に落ちた奴は放っておくと溺れて死んじまうぜ?」
十秒も経たないうちに十人近くの屈強な男達がのされてしまっていた
さすがのマークハントも顔から余裕の色が消え目の前の光景が信じられないと言った様子で固まってしてしまっていた。
「選りすぐりの武闘派の男達が一瞬で……一体何なんなのだ、お前は?」
血の気を失い唖然とするマークハントとは対照的に終始気だるそうな態度を見せるアル。
「武闘派と言っても所詮は海賊だな、正規兵に比べたら弱かったぜ
まあ俺にかかれば海賊も正規兵も大差ないけれどな。さてどうするサーシャ?
プランBに変更しコイツらをここで皆殺しにするか?
リーダーと武闘派の男を一層すれば海賊達に壊滅的なダメージを与えることができるだろう
どっちにしても安全な海運が約束されるわけだ、お前がいいというならば
ここにいる奴らを全員片付けるのに十秒もかからないぜ」
アルは残忍な笑みを浮かべながらペロリと舌を出す、その悪魔の如き姿を見て思わず背筋が寒くなるマークハント
そんな彼を前にサーシャは一歩踏み出し語りかけた。
「アルの正体が何者か?とお尋ねになりましたね、彼の名前はアルフレッド・バーキュリー、名前ぐらいは聞いたことありませんか?」
その名前を聞いて驚愕の表情を浮かべるマークハント。
「リストランテの悪魔がどうしてここに……」
「アルと私がなぜ一緒にいるか?という事の経緯は割愛しますが
あなた方がまだ海賊行為を続け私を拘束する意思があるというのであれば私はあなた方を処分しなければなりません。
ですがもっとお互いのための建設的な話をしようではありませんかマークハントさん
ここでアルに殺されるぐらいならば私の言葉を信じてみませんか?
我々に協力してくれるというであればあなた方の身の安全は保証しますし正式に書面にも起こしますから」
サーシャに続いてアルも口を開く。
「他の王達がサーシャの意志を無視し約束を破ってアンタらを処罰しようとしたら
俺があいつらをぶちのめしてやってもいいぜ、俺はあいつらには何の義理もないからな」
もはやマークハントにとって答えを考える必要もなく、サーシャの提案を素直に受け入れた。
こうしてスワロワ海洋国を苦しめてきた海賊の問題はここに解決し五カ国による連合活動がスタートすることとなったのである。
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