窓口と対策
サーシャの提案に皆驚きの表情を浮かべた
特にパルキスは口を大きく開けたまましばらく言葉を失うほどであったが、気を取り直し慌てて反論する。
「奴らは盗賊ですぞ‼そんな奴らに海運を任せるなど正気の沙汰とは思えません
そのまま荷物ごとトンズラするのが関の山ですぞ‼」
思わず立ち上がり興奮気味に捲し立てるパルキスだったが、サーシャは対照的に落ち着いた口調で返した。
「そうでしょうか?彼らは仕事がなくてやむなく海賊をやっていると思われます。
ならばお尋ね者として海賊を続けるより政府公認の仕事を与えそれに見合った対価を払えば彼らも納得するはずです。
そして何より彼らは世界の海に詳しいし船の操縦はお手のもの
もしも他の海賊に襲われた場合でも海上での戦闘にもなれています、【蛇の道は蛇】といいますからね
そうすれば海運の為の人員を確保できるし護衛の兵隊を同乗させる必要もない
つまり一石二鳥、いや三鳥ともいえます、これ以上の適材適所はないと思いますが?」
まるでそれが当然とばかりに話すサーシャに動揺を隠せないパルキスだったが何とか気を落ち着かせ椅子に腰を下ろすと再び語り始めた。
「では百歩譲ってサーシャ殿のいう通りにするとして海賊側とはどうやって交渉するつもりですかな?
〈今までの罪を全て無かった事とし政府公認の仕事を与える〉と世間にふれ回って交渉を試みたとしても海賊達は信じないでしょう、
〈自分達を捕まえる為の罠だ〉と思われるのがオチです。海賊達と直接交渉したくともその手段が無いのです
何処の誰が海賊どもの頭領なのかですらわかっていないのですから」
パルキスの言葉にサーシャの表情も曇る。
「それは困りましたね、同じテーブルにつけないのでは交渉すらできません、その窓口すら無いのではどうすることも……」
皆に再び暗雲が立ち込める、さすがのサーシャもこの状況には打つ手が無いように見えた、そんな時後ろにいるアルが突然笑い始めた。
「はっはっは、お前らガン首揃えてどいつもこいつもおめでたい奴らだな」
各国の王を嘲笑うかのような発言に一同の顔が歪む。
「何がおかしいのですかアル‼」
サーシャはアルを睨みつけるように問いかけるが当のアルはすぐさま答えることはせず
ニヤニヤと含みのある笑みを浮かべながら一同を見渡していた。
「お前らみんな国のトップなのだろう?それなのにこんな単純な事もわからないのか?
サーシャもだ、この程度の事が分からないのならお前の頭もタカが知れているな」
嘲るようなアルの言動に険悪なムードが漂いサーシャの顔にも憤りが見え始める
その時、各国の王の中でただ一人バルダークだけが突然声を上げた。
「そうか、そういうことか⁉︎」
何かに気づいた様子のバルダークに皆の視線が集まった。
「さすが諜報活動と裏を読むことに長けているケルコフ共和国の王様、あんただけは気づいたようだな」
バルダークの反応を見てアルがニヤリと口元を緩める、何のことを言っているのかわからない他の王達は困惑の表情を見せていた。
「バルダーク様、一体何がわかったのですか?我々にもわかるように説明してはくださいませんか?」
皆を代表するようにサーシャが質問するとバルダークはコクリと頷いた。
「アル殿が言いたいのは単純な事です、なぜ今まで海賊達はスワロワ海洋国の軍から逃げおおせていたか?
それはスワロワの中に海賊達と内通している者がいるからです」
バルダークの言葉を聞き呆気にとられる一同、特にパルキスは再び興奮気味に立ち上がると激しく反論した。
「馬鹿な、海賊どもと繋がっている裏切り者がいるだと⁉︎そんな事はありえない‼」
まるで自分に言い聞かせるかの如く吐き捨てるように言い放ったパルキスだったが
そんな空気を読むこともなくアルは挑発的な口調で返した。
「馬鹿かお前は?海賊の頭領がいくら切れ者だとしても元々漁師だった奴だぞ
軍事の素人が統率された軍の包囲網をそう簡単に突破できる訳がないだろう
事前に情報が漏れていたのに決まっているじゃねーか
それともお前の国の軍隊は素人に易々と突破されるほど間抜けな奴ばかりなのか?」
痛い所を突いたアルの指摘にパルキスは言葉を返すことができない、顔を真っ赤にし、アルを睨みつけながら小刻みに震えていた。
「やめなさい、アル‼パルキス様も落ち着いてください、今我々はどうやって彼らと交渉するかを話しているのです
身内同士で不毛な言い争いをしている場合ではありません」
一括するようなサーシャの言葉にパルキスは何とか怒りを収め再び席に着く。
しかし険悪な空気を作った張本人であるアルは反省の色を見せるどころかまだニヤニヤと不適な笑みを浮かべていた
そんなアルの態度を見てサーシャの苛立ちは益々膨らんでいく。
「何がおかしいのですかアル‼」
「サーシャ、お前も頭に血が昇ってまともな思考ができていないのじゃねーのか?」
「どういう意味よ⁉︎」
「今お前が言っていたじゃねーか、海賊共とどうやって交渉するかの手段を模索しているのだろう?だったらもう答えは出ているだろう」
「どういう事よ?」
「内通者が居るってことは連絡手段としての窓口があるっていうことだろうが、何でそんな単純な事がわからないんだ?」
「あっ⁉」
サーシャを始め一同が思わず声を上げた、暗礁に乗り上げかけていた問題に一筋の光明が見えたのである。
「しかしアル殿、スワロワ国内に内通者が居るとしても
それをどうやって見つけて海賊達と交渉まで漕ぎ着けるか、中々に難しい問題ですぞ?」
バルダークが問いかけるとアルは再び口元を緩めた。
「国を裏切り海賊どもと繋がっているような奴は金と名誉に目がないというのが定番だからなそれを利用してやればいい。
例えば〈連合を設立するのを機に恩赦として今までの海賊達の罪を許し
彼らに今後需要な仕事を任せたいと思っているのだが、彼らと連絡手段が無い
もしも海賊達との交渉を取り付けた者がいたならば褒美として賞金と出世を約束する〉
とでもいえばホイホイ食いついてくるだろうぜ」
アルの提案に皆唖然として言葉を失っていた、特にパルキスは自国に裏切り者がいるという事がいまだに信じられないでいる様子である。
「我が国にそのような裏切り者がいるなど私はいまだに信じられませんが……」
「試しに今俺が言った方法をやってみればいいじゃねーか
アンタのいうように裏切り者がいないのであれば海賊達との交渉はできないという事でまた他の方法を考えなければいけないだけだ。
しかしもし〈海賊達と交渉を取り付けてきました〉という奴がいればそいつが裏切り者だ
海賊どもとの交渉ができて裏切り者も炙り出せるのだからダメ元でもやってみて損はないだろうぜ」
あっけらかんと正論を言い切るアルにパルキスも納得せざるをえなかった。
「しかしアル殿、その裏切り者を使って話をしたいと海賊達に伝えたとしても奴らは交渉のテーブルにつきますかな?
先ほども言いましたが〈海賊達を誘き寄せ捕まえるための罠だ〉と思われるのがオチでしょう」
バルダークの指摘に今度はサーシャが答える。
「それならば心配要りません、交渉場所には彼らが指定した海の上でやると伝えてください
そして交渉には私一人が行きます、それならば彼らも応じてくれるはずです」
その大胆ともいえる提案にバルダークは驚愕の表情を浮かべた。
「しかしサーシャ殿、あなたお一人で行くのはあまりに危険
仮にも元王女であるあなたが単身で行けば囚われて奴らの人質になってしまうのでは?」
「大丈夫ですよ、一人で交渉に赴くとはいってもお付きの者を一人だけ連れて行くぐらいは大丈夫でしょう。
一応私も元王女ですからね。それに私が人質として拘束され最悪殺されたとしても
国を背負っていない私なら居なくなっても連合にとっては痛手にはならないでしょう」
サーシャは何処か含みのある笑みを浮かべアルの方をチラリと見た。
「ったく、食えない女だな、お前は。仕方がないから俺がお前を守ってやんよ
俺の見た目は十五、六の少年だからな、サーシャに付いて行ってもそこまで警戒されないだろうぜ
元とはいえ王女様が供の者も連れずに行くのは逆に不自然だろうしな」
もはや誰にも反論はなかった、だがバルダークはまだ心配なようで複雑な表情を浮かべながら声をかけた。
「確かにアル殿がいれば安心だとは思うが本当に奴らが話に乗ってくるのか、少々不安ですが……」
理屈ではわかるが本当に海賊達との交渉がうまく行くのかどうか誰もが不安に思っていて
バルダークは皆の気持ちを代弁する形で言葉を発したのである。
「大丈夫です私に任せてください。今聞いた話ですとあくまで想像ですが彼らのリーダーはかなり頭の切れる者だと思われます
いくら情報が漏れていたとしても仲間を率いて軍の包囲網を突破するなんて
誰にでもできることではありません、交渉の価値はあると思います」
続いてアルも発言する。
「それにいざという時は俺が奴らのリーダーをぶち殺せばいいだけの話だ
もしも他の奴らを逃したとしても内通者からの情報を遮断しカリスマリーダーを失えば海賊どもは今までのような活動は不可能だろう
まあ何にしても俺が全て片付けてやるからどっちに転んでも損はないだろう?」
サーシャとアルの自信に満ちた言葉に反論できる者などいるはずはなかった
こうしてサーシャとアルは連合の経済基盤となる海運へ向けて海賊たちのリーダーとの交渉へと向かうことになったのである。
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