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海賊の脅威と悲劇

サーシャの提案を受け両目を見開き一瞬驚きの表情を浮かべたパルキスだったが、すぐさま反論した。


「我が国の船と港を使って運送するということですか、陸運ではなく海運……


なるほど、面白い発想ではありますな。ですがサーシャ殿は一つ考え違いをしておられるようだ」


「勘違いとは何でしょうか?」


「確かに船を使っての海運であれば移動にはコストがかからず大量の荷物を運ぶことができるでしょう


ですがその船へ荷物を運び込む事こそが問題なのです。


今現在船での輸送手段は人が小舟に乗って荷物を少しずつ大型船へと運び込むのが普通です


小舟を使って大量の荷物を運ぶとなればそれだけ人数も必要になりますし時間もかかるでしょう


そこにかかる莫大な人件費こそが今まで海運が流行らなかった最大の理由です。


船へ運び込む人件費を考えると結局馬車で運んだほうが安いというのが現状なのです


それでもサーシャ殿は海運が良いとおっしゃるのですかな?」


「はい、パルキス様がおっしゃる様に海での輸送は船への搬入作業が最大のネックになっていることは重々承知しております


ですがそれは逆に言えば〈船への搬入作業が大幅に改善できれば問題解決〉という事に他なりませんよね?」


「ほう、その言い方ですとサーシャ殿には何か妙案があるのですかな?」


 興味深げに目を細めるとサーシャは待っていましたとばかりに説明を始めた。


「船に荷物を少しずつ運び込むのではなく一度に大量の荷物を運び込めば良いのです」


「一度に?確かにそれができれば理想ですが、どうやってそれを成し遂げるのですかな?


できれば我々にもわかるよう具体的にご説明いただきたい」


「はい、では私の考えをご説明いたしましょう、今までは荷物を個別で運び込むから問題なのです。


荷物を大量に詰め込める大きな箱を作りそれに荷物を詰め込んでいっぺんに船へと運び込むのです


私はこの大きな箱の事を【コンテナ】と名付けました、このコンテナを使った工程であれば船への運び込む作業は大幅に簡略化できます」


 そこにいる全員が驚きを隠せないでいた、だがすぐさまパルキスが反論する。


「サーシャ殿のおっしゃることは大変面白い提案ですが


そのコンテナなる巨大な箱をどうやって船に運び込むのですかな?


巨大な箱に荷物を詰め込むとなると重量もかなりのものになるでしょうし


何よりそのような大きな物を船に運び込むのは至難の業かと」


「ええ、ですからコンテナを船へと運び込む役目はガゼ武国の巨人族にやってもらおうと思っています」


 それを聞いたゴルドバンは思わず立ち上がった。


「我が国の巨人族を戦闘ではなく運搬に使うとおっしゃるのか⁉」


「はい、確かに巨人族は近接戦闘では無類の強さを発揮しますが


炎に弱く火炎系の魔法はおろか火矢ですら撃退できてしまうというのは今や周知の事実です。


そのような致命的な弱点を抱えた巨人族を戦闘に使うのはあまりにリスキーです


ならばその巨大な体躯と優れたフィジカルを使ってこの新しい流通方法に貢献してもらおうというものです、適材適所ということですね」


 サーシャの説明を聞いた一同はそれぞれ顔を見合わせ話し始めた。


「確かにその方法は面白い、実現すれば今までにない画期的な流通が可能になるぞ」


「人と物が動けば金が動くのは自明の理、その方法で我らが経済連合を組めばとんでもない経済効果が見込めるぞ」


「そうなれば他の国も次々と我が連合に加わりたいと言ってくるだろう


軍事と経済のことを考えればリスクよりもメリットの方が遥かに大きい、いけるぞ‼」


 明るい未来の展望に皆が湧き上がっている時、パルキスだけはまだ厳しい表情を浮かべていた。


そして周りの空気を無視するかのようにスッと手をあげる。


「ちょっとよろしいですかな、サーシャ殿。なるほど貴方のおっしゃる提案は大変魅力的なモノだ


それが実現すれば経済効果は計り知れないものになるでしょう


ですが船を使って運搬するというのであればまだ大きな問題が一つ残っております」


 パルキスの言葉にサーシャの表情からも笑顔が消え真剣な表情へと変わる。


「海賊ですね?」


 パルキスはコクリと頷いた。


「せっかくのご提案に水を刺すようで申し訳ないが、ここ五年あまり海賊による被害は増え続け甚大なものとなっております。


我が国が保有する大型船も海賊退治のために軍船として建造した物ですからね


あいつらがいる以上、海運を主流にするのはリスクが高すぎると思われます」


 一瞬湧き上がった室内に重苦しいムードが漂い始める、そんな空気を察してかサーシャは深刻な表情で話し始めた。


「海賊による被害はそれほどひどいのですか……聞いた話ではここ数年で海賊による被害が激増しているとの事


どうして急に海賊の被害が増え始めたのですか?」


「今我が国を苦しめている海賊どもは元々バーゼナンデやゲルゼアで漁師をしていた者達だと聞いています


その両国で魚が激減し漁師が続けられなくなり食い詰めてコチラに流れてきたということらしいのですが……」


 パルキスはどこか歯切れの悪い口調で顔を曇らせながらそう語った。


「どうしてその両国で魚が取れなくなったのでしょうか?」


 サーシャの問いに対し、皆は顔を見合わせるがその質問に答えられる者は誰もいなかった


そんな時、サーシャの後ろにいたアルが突然口を挟むように発言した。


「答えは簡単だ、バーゼナンデとゲルゼアは【超破壊魔法】の開発の為に魔力増殖炉を建設し稼働させていた


その際に発生する膨大な熱を冷却するために海水を使っていたのだがその際に有害な成分が混入してしまったのだろう


だが奴らはその汚染された海水をそのまま海に垂れ流し続けた、だから海が汚染され魚が激減した、簡単な理由だ」


「そんな……じゃあ漁師の人達は一方的な被害者じゃないの」


 サーシャは思わず顔をしかめやりきれない気持ちになる。


「まあな、だが漁師達の悲劇はそれだけでは収まらなかったのだよ。


汚染された魚を食べればどうなると思う?


少しずつ人的な被害が出始めたとき、バーゼナンデとゲルゼアの政府はその責任を回避するために


〈海で獲れた魚を食べてはいけない〉という命令を国内に発表した


〈海の生物に謎の奇病が発生したから〉という理由を無理矢理でっち上げた挙句原因は不明とお茶を濁した


もちろん魔力増殖炉とは全くの無関係だと公式に発表し自分達に非はないと開き直ったのだよ。


権力を持った悪党というのは全く手に負えないといういい例だな」


 あっけらかんと話すアルだったがその内容に皆が言葉を失っていた。


「そんな……ただでさえ魚が減っているのにその魚を食べてはいけないなんて


じゃあ漁師の人達はどうやって暮らしていけばいいのよ⁉︎


自分達のせいなのに生活保障もなしで漁師達を切り捨てるなんていくらなんでも酷すぎるわ‼」


 唇を震わせながら怒りの言葉を口にするサーシャ、それに各国の王達も続いた。


「なるほど、政府による理不尽な命令で漁師として暮らしていけなくなった者達は


世界最大の海洋国であるスワロワに流れてきたという事ですか、ある意味自然な流れですな」


「ひと昔前であれば食い詰めてしまったら兵士になるというのが定番だったが


今の戦争は魔法戦が主流、戦闘経験もない元漁師の兵など雇う余裕は両国ともにないだろうからな」


「しかしいくらスワロワが世界最大の海洋国とはいえそれほど大量の漁師が流れてきてしまっては


漁業権の問題とか発生してしまうのではないですかな?」


 何気なく出てきた質問にパルキスは心痛な面持ちで答える。


「その通りです、それほど大量の漁師が一度に流れてきて漁場を荒らされた地元の漁師達は自分達の漁業権を主張し国に訴えを起こしたのだ」


「確かに魚を捕り過ぎれば市場価格は下落し生態系も崩れる


だからパルキス様は地元の漁師達の意見を飲んだのですね?」


 サーシャの問いかけにパルキスは小さく頷いた。


「はい、地元の漁師達にのみ漁業権を与え権利を持っていない者は魚を捕ってはいけないという法律を作りました。


彼らには気の毒ですが他国から流れてきた者達より自国民の生活を守るのが我々の使命ですから……」


「なるほど、スワロワでも漁師を続けられなくなった者達は仕方がなく海賊へと身を落としたのですね……彼らも被害者なのですね」


 悲しい表情で独り言のように呟くサーシャ、しかしそれを否定するかのようにすかさずパルキスが反論した。


「確かに彼らの境遇には同情すべき点がありますが彼らのやっていることは立派な犯罪行為です


それによって甚大な被害が出ており泣いている者達も大勢いるのです


ですから彼らの行為を断じて認めることはできません」


 キッパリと言い放ったパルキスの言葉には明確な意志が感じられた。


しばらく沈黙の時が流れサーシャも目を閉じ何か考え事をしていた


そんな沈黙を破るようにゴルドバンがパルキスに質問する。


「その海賊どもを捕まえる、もしくは撃退することはできないのですかな?」


「ええ、我らも海賊撃退のための大規模な作戦を何度か試みたのですがその都度うまく逃げられてしまって……


海賊の頭領は中々の切れ者のようです」


 再び沈黙の空気が流れ始めた時、サーシャが大きく目を見開いた。


「わかりました、ではこういうのはどうでしょうか、その海賊達をこちら側に引き込み海運の仕事を任せてみるというのは?」


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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