サーシャの未来計画
そのあまりの提案に一同唖然として言葉を失う
そしてゴルドバンが目の前の机を激しく叩きものすごい形相でサーシャを睨みながら立ち上がった。
「馬鹿なことを言うな、紙で通貨を作るだと⁉︎そんな話聞いた事もない。
そもそも通貨というのはそれ自体に相応の価値があるから取引として成り立っているわけであって
何の価値もない紙でできた通貨など誰も使うはずがないだろうが‼」
声を荒げ興奮気味に糾弾するゴルドバン、しかしサーシャは少しも動揺することなく淡々と答えた。
「前例がないからといってそれが間違っているとは思いません
今は常識外だとしてもこれから変えていけばいいのです
そう我々が世界の常識を変えていくのです。それに通貨の価値というのはそれ自体の金銭的な価値ではありません
信用こそがその通貨の本当の価値なのです。
金属による通貨は多くなれば持ち運びにも不便ですし制作過程にも手間がかかります、金属による通貨よりも利点は多いですよ」
まるでそれが当然とばかりに自信満々に言い放つサーシャの言葉に各国の王達も圧倒されていた。
誰もが言葉を失っている時、再びサーシャが口を開く。
「その統一通貨の制作はフレマルシア陛下にお願いしたいです」
「えっ、我が国に?」
突然話を振られたフレマルシア四世は目を丸くして驚いていた
「ええ、陛下の国シャルファニア王国は芸術に秀でた国です
統一通貨を作るのに当たってシャルファニア王国以外の適任国はないでしょう。
紙による通貨は制作コストが安いという点と一度に大量生産がしやすいという利点がありますが
それ故に偽造つまり偽物を作りやすいというデメリットがあります
それを許さないために貴国の技術が必要なのです、どうか引き受けてはくれませんか?」
懇願するように深く頭を下げるサーシャ、最初は驚いていたフレマルシアも少し考えたのちにニコリと微笑んだ。
「いいでしょう、その役目我が国で引き受けさせてもらいます。どこの国に見せても恥ずかしくない紙幣を作って見せますよ」
その言葉を聞いたサーシャは嬉しそうに微笑んだ。
「軍の再編と通貨の統一はそれでいいとして、具体的にどうやって人を集めるのですかな?
我々の国には大勢の人を集めるだけのこれといった名物や特産品、観光となる名所も少ない。
せいぜいスワロワ海洋国の海産物とシャルファニア王国の芸術品ぐらいでしょう。その辺りをどうお考えかな?」
再びブレドレフが問いかけるが、サーシャは〈想定内〉とばかりに整然と答える。
「まず人をどう集めるか?ですが我が連合で暮らしてくれればこれだけのメリットがあると示すのです。
戦争による難民を含めたくさんの人達に定住してもらいます。
社会福祉や教育、子育ての支援を徹底的に行い人々に〈住みやすい国〉という印象を与えます。
多くの人が安心して暮らしてくれればそれが国の力となるのです
充実した社会福祉と高い教育はいずれ豊富な労働力や大量な消費と流通につながる
そしてそれは必ず莫大な税収となって返ってきます、人さえ増えればそれに比例して国力は上がりますからね
多くの人に我らが連合で暮らしてもらい多くの子供を産んでもらうのです
国の力とは人の力です、ですからそういった一連の社会福祉と教育に関してはブレドレフ様に一任したいと思っていますが、どうでしょうか?」
逆に質問を返されたブレドレフだったが、【微笑み王】の二つ名通り、嬉しそうに頷いた。
「そういうことならば喜んでお引き受けいたしましょう、教育と福祉、国民の為の政策
それは我が国の国是にも共通する理念ですからね。ですがどれほど素晴らしい政策であろうと絵に描いた餅では意味がありません
将来的に人を増やし国力を上げる事には賛成ですがそれほどの大規模な政策を行いとなると
先行投資もかなりの資金を投入しなければならないでしょう
何度も言いますが差し当たっての資金はどうなさるおつもりですかな?」
皆がサーシャの答えに注目していた、いくら理想論を語ろうとも
それが実現できないのであれば何の解決にならないという事をどの王も身をもって知っているからである。
だがサーシャはそんな王達の思いを嘲笑うかのように目を細め、笑みを浮かべた。
「資金ならばあるではありませんか、新しい通貨のために回収する予定の金貨や銀貨が」
思いもよらぬサーシャの言葉に皆が〈あっ〉と叫んだ。
「なるほど‼回収した金貨や銀貨は通貨として使えなくとも金属としての価値はある、それを資金源にするということか⁉︎」
「確かに紙幣であれば製作コストは銅貨一枚程度でできるだろう
銅貨一枚で各国の金貨や銀貨が集まるのであればこれ以上ない美味しい資金調達ができるぞ‼」
「何という事を考えるのだ、貴方は⁉︎」
明るい未来が見栄かけてきたことに皆が興奮気味に湧き立っていた時
一人腕組みしながら黙って聞いていた男がいた、スワロワ海洋国のパルキス国王である。
「サーシャ殿、貴方の言いたいことはよくわかった。なるほどその錬金術が如き手段をとれば当面の資金は調達できるでしょう
ですがしっかりとした経済基盤がなければどれほどの膨大な資金があってもいずれは食い潰す事は必定。
必死に人を集めてもその民達が生活を維持していく為の仕事がなければ就職の難民が増え不労者が増すだけの話です
【働かざる者食うべからず】という言葉がありますがその働き先すらないのでは国民は飢えるばかりです
それは治安の悪化とつながり国への不満となって返ってくることは明白。
その辺りをどうお考えか、ぜひお聞かせいただきたい」
静かな口調ながらも問い詰めるような内容に一瞬湧き立った国王達の顔にも不安がよぎった。
だが当のサーシャは少しも怯むことなく毅然とした態度で説明を始めたのである。
「その点については今からご説明いたしましょう、先ほどブレドレフ様からもご指摘がありましたが
我らが五か国にはこれといった名産品や観光名所といったモノはありません、だから発想の転換をするのです」
「発想の転換とはどういう事ですかな?具体的に仰っていただけませんか?」
パルキスの問いかけにサーシャは無言でコクリと頷く。
「はい、我ら連合にはこれといった名産品や名所が少ないということは先ほど聞きました
であれば逆の発想でいくのです、具体的には〈ここに行かなければ無い〉ではなく
〈ここに来れば何でもある〉という国にするのです。
世界中の物がここに集まって来れば自然と商人達もここに集まってくるでしょう
〈ここは安くて品揃えがいい〉となれば人は嫌でも集まってきます
結局庶民が求めているものは〈安くていい商品〉なのです。
人と物が動けば必ずそれが仕事へとつながると私は信じています」
堂々と受け答えするサーシャだったがパルキスの表情は依然として固く、さらに眉をひそめた。
「今サーシャ殿は〈世界中の品物をここに集める〉と申しましたが具体的にはどうやって集めるおつもりですかな?
隣国とかならともかく遠方の国から品物を取り寄せようとすればいくら原価は安くとも荷馬車や人件費
つまり運送コストを考えれば売値は跳ね上がります
そうしますと先ほどサーシャ殿が言っていた〈安くていい商品〉を揃える
というコンセプトから外れてしまうと思うのですが、その辺りをどうお考えかな?」
「パルキス様のおっしゃることはごもっともです、世界中から物を集めようとすると最大の問題は運送費であることは理解しています。
おっしゃる通り今の主流である馬車による運送では運べる量も知れていますし
費用がかかりすぎて商品自体が高くなってしまうのが最大の問題です。
ですから馬車を使っての陸路ではなく船を使っての海路で運ぶというのが私の考えなのです。
パルキス様のスワロワ海洋国には世界最大の港【サンロッテ港】があり大型船を五隻も所有していますよね?
それを使うのです、海であれば大量の荷物でも海流と風が勝手に船を運んでくれますからね
びっくりするぐらい運送コストが下げられるはずです」
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