サーシャの戦い
「初めまして、私はベルドルア王国の第一皇女、サーシャ・フォン・ベルドルアと申します。
今回の趣旨【反リストランテ連合】の内容についてお話しさせてもらいます。
この連合は単なる軍事同盟ではありません、全ての国の力を結集し運命共同体となってリストランテに立ち向かおうというものです」
話が始まったばかりだがすかさずゴドルバンが手を上げる。
「それは我々が一つの国に統合してリストランテに立ち向かおうという意味合いかな?」
ゴドルバンの率直な質問にサーシャは静かに首を振った。
「いえ、そういうわけではありません。国を守ために国がなくなってしまうのでは本末転倒ですからね。
私の提案は各国はそのまま存続しながら政治を行い軍事、経済、社会福祉などでは共同体として助け合うというものです」
サーシャの言葉に一同がざわめく。
「そんな事が可能なのかね?」
まずはキトロフ公国のブレドレフ国王が静かな口調で問いかけた。
「はい、まずはみなさまが一番気になっている軍事について私の考えをお話し致します。
リストランテに対抗する為各国の軍隊を一旦解体し一つの軍隊として再編するのです」
そのあまりに突拍子もない提案にゴルドバンが思わず立ち上がった。
「馬鹿な、各国の軍を解体して一つの軍に再編するだと⁉︎そんな事ができる訳がない‼
軍とはその国を守る為にあるモノだ、国の為、国民の為に剣となり盾となるのが軍の役目だ
それがどこの国のものでもない軍など作ってしまったら何のための軍だ⁉︎
そもそも指揮系統はどうするつもりだ、ニワカ混成軍では余程の指揮能力がないと統率などできない
いくら数が増えたからといっても指揮系統が疎かでは烏合の衆となるだけではないか⁉︎」
興奮気味に捲し立てるように質問を浴びせかけるゴドルバン、だがサーシャは少しも動揺する事なく淡々と答えた。
「ですから各国の軍ではなく【反リストランテ連合】の軍を作るのです
その行動理念はただ一つ〈連合に所属している国の国境を犯す国がいれば
その理由を問わず速やかに武力で対抗しそれを駆逐する〉というものです、例外は認めません」
口調こそ穏やかだがサーシャの有無を言わせぬ提案にゴドルバンも思わず息を呑んだ。
「連合軍の趣旨は理解した、だが指揮系統はどうするつもりだ?軍隊は数が増えるほど統率は困難になる、その辺りはどうお考えか?」
「はい、この新しく創設する連合軍の総指揮はゴドルバン武王にお願いしようと思っています」
「なっ、私に⁉︎しかし我が国はこの連合の中では最も国力が低く兵の数も少ない国だぞ、それでも良いのか?」
驚きを隠せないゴルドバンは改めて聞き返すがサーシャは迷う事なく頷いた。
「ええ、ガゼ武国のゴルドバン武王は戦いのエキスパートですよね?ですから連合軍の指揮を任せるのにこれ以上の適任はないと思いますが」
サーシャはまるでそれが当然と言わんばかりに言い放つ。
質問したゴルドバンの方が戸惑ってしまうが気を取り直し再びサーシャに問いかけた。
「あなたの言いたいことはわかった、だがそれには三つ問題がある。
まず一つ目だが本当に連合軍の指揮を私がとっても良いのか?各国の王に聞きたいがそれで納得するのか?」
ゴルドバンの訴えかけるような問いかけに各国の王は誰もが渋い顔を見せ、首を縦に振ることはなかった。
何せ連合軍とはいえ自国の軍を全て他国の王に預けるというのはあまりにリスクの高いことだからである。
そこで皆を代表するようにバルダークが手を挙げサーシャに質問する。
「皆が戸惑うのも無理はない、自国の軍を他国の王に全て任せるなど古今東西聞いた事がない
しかもサーシャ殿がいった通りゴルドバン武王は戦いのエキスパートだ
そんな者に全ての軍を任せてしまうのはあまりにリスキーだと思うのは当然であろう、その辺りをどうお考えかな?」
皆の意見を代弁するような質問にサーシャはニコリと微笑みながら答えた。
「ゴルドバン国王には全軍の指揮をお願いしますがそれはあくまで指揮系統を任せるだけであって
軍自体を掌握する権利を与えるわけではありません。
連合軍が動くのは連合に所属する国の国境が侵されたときのみ
それはガゼ武国が他の連合に所属する国の国境を侵したときも例外ではありません。
それ以外の事で連合軍が動かなければならない時には各国の代表による評議会の決定が必要とする規則を作るつもりです」
理路整然と説明するサーシャの姿に皆が息を呑む、まだ十代の小娘の強い意志と信念の言葉が各国の王を圧倒していたようにすら見えた。
「サーシャ殿の言いたいことは理解した、確かに単なる軍事同盟よりも現実的であるし
どこの国にも所属していない軍という発想も非常に面白い、そういうことであれば僭越ながら私が連合国の指揮を取らせてもらおう」
ゴルドバンの言葉に一瞬安堵の表情を見せるサーシャだったがゴルドバンはすぐさま鋭い視線をサーシャに向けた。
「だがまだ問題がある、確かに各国の軍を解体再編して一つの軍とするならばかなりの大規模な軍となるだろう。
しかし軍というものは維持するのに金がかかる
それほどの大軍となるととてもじゃないが我が国の財政では負担しきれない
サーシャ殿はその辺りをどうお考えかな?」
現実的な問題を突きつけるがサーシャは少しも動揺することなく淡々と説明を始めた。
「ゴルドバン様の懸念はごもっともです。ですがその心配は無用です
連合軍の維持費や活動資金は連合側が全て負担します。
この後で詳しい話をいたしますが私の考えている連合は軍だけでなく
経済も共同体として運営していこうというものですので、資金面でのご心配は無用です」
自信みなぎるサーシャの言葉の前に百戦錬磨のゴルドバンも納得せざるを得なかった。
「そういうことであれば了解した。その資金をどうやって工面するかは後の説明を聞くとして
ならば最後の質問をしたい。確かに各国の軍を統合し再編すれば頭数だけはリストランテに対抗できるだけの軍が作れよう。
だが知っての通り今の戦争は魔法戦が主流だ、我ら五国の魔法士を集結させても高位魔道士は十人に満たない
ゲルゼアとバーゼナンデを統合したリストランテとはとてもじゃないが対抗できないだろう
そして何より向こうには【リストランテの悪魔】がいる
真正面からぶつかって勝てる相手ではない、そこをどうお考えかな?」
鋭い眼差しでサーシャの顔を見つめ冷静な口調で質問をぶつける。
「そのことでしたら心配いりません。今のリストランテは【貴族廃止政策】をとっており
ゲルゼアとバーゼナンデに所属していた高位魔道士達との関係はあまり良好とはいえません
そして最大の懸念である【リストランテの悪魔】ことアルフレッド・バーキュリーは今や我々の味方ですから」
何を言っているのか理解できないゴルドバンは思わず眉をひそめた。各国の王も不思議そうな顔を浮かべサーシャを見つめていた。
「言っている意味がわからぬが、あの【リストランテの悪魔】が味方とはどういう事ですかな?」
するとサーシャは〈待っていました〉とばかり口元を緩め自分の後ろに控えているアルを紹介した。
「申し遅れましたが、私の後ろにいるこの者こそ【リストランテの悪魔】ことアルフレッド・バーキュリーです」
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