連合への道
サーシャの要請に応じたバルダーク王は早速周辺国家に連合の要請を打診した。
サーシャの意向もあり〈アルの事はまだ内密で〉という条件で連合の話を持ちかけた結果
呼びかけに応じた国はキトロフ公国、シャルファニア王国、ガゼ武国、スワロア海洋国という国境を隣接した四カ国であった。
とはいえ四カ国ともに〈すぐに連合に加わろう〉という前向きな姿勢ではなく
〈とりあえず話を聞いてみよう〉という程度のものであった。
「全ての国が連合に加わればそれなりの規模にはなるよな
この話がうまくまとまれば静観している他の国もこぞって連合に参加してくるだろうし序盤の滑り出しとしては上々じゃねーか?」
楽観的なアルに対してサーシャはやや曇った表情を浮かべていた。
「そう上手くいけばいいのだけれど……どの国もリスタランテの脅威に対してどうするか?という問題に直面しているからね。
勝ち目のない戦いに挑んで滅ぼされるか、向こうの要求を無条件で飲み属国として膝を屈するか
どちらにしても不名誉で屈辱的な選択になる、だからワラをも掴む気持ちで
〈話だけでも聞いてみよう〉といった消極的なスタンスで今回の会談に応じただけの話だから……」
「だったら俺の話をすればよかったじゃねーか⁉︎
俺がこちら側についていて今のリストランテの内情はガタガタという情報を教えてやれば
各国の王達ももっと積極的で前向きな姿勢で連合に参加してくれるのではないのか?」
しかしサーシャはゆっくりと首を振る。
「もし会談の席に【リストランテの悪魔】と呼ばれたあなたがいるという事を伝えたら各国の王達はどう思う?
〈会談と偽って我々を誘き出し皆殺しにするつもりだろう、これはリストランテの罠だ〉と思われるのがオチよ」
「馬鹿じゃねーのか?俺がアイツらを皆殺しにしようと思えば
堂々と真正面から乗り込んで城から引きずり出してやればいいだけの話だ、そんなまだるっこしい事をするかよ」
アルは呆れ顔を浮かべつつ吐き捨てるように言い放った。
「政治の外交というのは信用が第一なのよ、各国の王を会談の席につかせる、まずはそこからなの」
「俺の事を内緒で呼びつけておいて〈実はリストランテの悪魔がいました〉と種明かしをした時
各国の王がどんな顔をするのか見ものだけれどな。
信用が第一とか言っておいてお前がやっている事は騙し討ちじゃねーか、それで信用とか本当に得られるのか?」
やや嘲るような口調で煽り気味に反論するアルに対し、サーシャは眉を釣り上げ一瞬睨むように反論する。
「そんな事わかっているわよ、でもこれしか方法がないの。
まずは会談の席につかせて貴方のことを含めて話し合いをする
経過がどうであれ話の内容にさえ納得してもらえれば必ず連合に参加してくれる、私はそう信じているわ」
悲壮感すら漂わせ断固たる決意を見せるサーシャだったが
そんな彼女とは対照的にアルはどこか楽しそうにニヤついていた。
「出来るのか、お前に?」
「出来るわよ‼というかやってみせるわ。世界の命運と平和がかかってくるのだもの」
唇を噛み締め新たに決意を固くするサーシャ。そんな彼女の姿を見てアルは思わず目を閉じフッと笑った。
「会談が成功しようと失敗しようとお前は俺が必ず守ってやる、最悪俺一人でもリストランテをぶっ潰してやるから心配すんな」
不器用ながらも励ましてくれるような言葉に複雑な思いを抱えるサーシャ、そして悲しい笑顔をアルに向けると静かに口を開いた。
「ありがとうアル、でもなるべく貴方が戦わない方向で何とかしてしてみせるわ」
そのどこか寂しそうなサーシャの笑顔が何を意味するモノなのか、その時のアルには理解できなかった。
いよいよ会談の日が訪れた、会談の会場となるケルコフ共和国のネルアンデス城に各国の王が集結するのである。
話し合いが行われる広々とした部屋には大きなテーブルと豪華な装飾が施されている椅子が置いてあり
各国の王を迎える準備は万全といった様子である。ホスト側であるサーシャは緊張の面持ちで真っ直ぐ扉を見つめていた。
それに付き従うようにアルがサーシャの椅子の真後ろで睨みを効かせていた。
「キトロフ公国、ブレドレフ国王がお見えになりました‼」
最初に到着したのはキトロフ公国のブレドレフ国王、歳は五十代半ばといったところだ
全体的に丸みを帯びたふくよかな容姿でいつも微笑んでいるような表情をしているので【微笑み王】などという二つ名が付けられている。
見た目通りの温和な性格で良民からも慕われていた。
キトロフ公国は医療と教育に特に力を入れていて〈人こそが国の力〉という言葉を国是としている。
「続きましてシャルファニア王国のフレマルシア四世陛下がお見えになりました‼」
シャルファニア王国の国王、フレマルシア四世はまだ二十代後半といった若さである。
父である先代王が病気で急死したため三年前に即位した若い王である。
金髪で長身、青く爽やかな瞳とスラリと伸びた長い手足は王というよりファッションモデルを思わせる。
シャルファニア王国は昔から多くの芸術家を生み出しており歴史的な芸術品も数多く保有している
このフレマルシア四世自身も画家としてもかなり高名で王に即位する前からいくつもの賞を取った経験がある。
「続きましてガゼ武国よりゴドルバン武王がお見えになりました‼」
前に入ってきたフレマルシア四世とは対照的に部屋に入ってきたガゼ武国のゴドルバン武王は
ギラリと殺気に満ちた目と筋骨隆々の体、浅黒い肌にはいくつもの傷跡があり
自身も死闘をくぐり抜けてきた歴戦の猛者である事を容易に想像させた。
国名と王の名に〈武〉という文字を付けている事からもわかるようにガゼ武国は軍事国家である
他の国に比べて国土面積と人口は少ないものの鍛え抜かれた一騎当千の兵たちが数多くおり
兵の強さと練度ならば他国の追随を許さないほどの精鋭を揃えている。
傭兵として他国に送り出すことも多く〈ガゼ武国の最大の輸出品は傭兵〉と言われるほどだ
そして最大の特徴は戦いにおいて巨人族を使うという点である。
巨人族は体長約3m〜5m、その恵まれた体格を生かした近接戦闘は肉弾戦において無類の強さを誇り他国の兵士を圧倒する力を持つ。
しかし近年の戦いは魔法戦が主流であり、どれだけ鍛え抜かれた兵士でも
近づく前に魔法で一蹴されてしまう為にその戦闘力を発揮できずにいた
特に巨人族は炎に弱く火を見ただけで逃げ出してしまう為、炎を操る魔道士がいるとまるで役に立たないのだ。
「続きましてスワロア海洋国のパルキス国王がお見えになりました‼」
最後に入ってきたのはスワロア海洋国のパルキス国王、歳は四十代後半で赤毛の髪に日焼けした小麦色の肌が特徴的である。
スワロア海洋国はその名の通り海を中心に発展した国家である
国内には大陸最大の港【サンテロッテ港】があり船による貿易や海産物などが有名な国である。
各国の王が揃い席に着いたところでバルダークが立ち上がり皆の前で頭を下げた。
「此度は遠路はるばる我が呼びかけに応じてくれて誠に感謝する
各国の王におかれてはこれからの国の方針や国益、今後の国家運営などそれぞれ思うところもおありとは思いますがまずは……」
バルダークが挨拶と共に今回の会議の事を話そうとした時、ガゼ武国のゴルドバン武王がそれを遮るように手を上げた。
「堅苦しい挨拶や御託は良い、私は腹の探り合いや牽制など大嫌いだからな
まず今回の会議の趣旨と【反リストランテ連合】なるものがどういったものなのか、考えをお伺いしたい」
そのあまりにストレートな質問に各国の王も驚きを隠せずにいた。
バルダークは気を取り直したかのように小さく頷きサーシャの方にチラリと視線を向けた後再び口を開く。
「ゴドルバン武王のおっしゃることはごもっともです。
では今回の趣旨【反リストランテ連合】についてこちらの方に説明してもらいます
この姫君は元ベルドルア王国第一王女 サーシャ・フォン・ベルドルア姫殿下です」
先日リストランテによって滅ぼされたベルドルア王国の姫と聞いて各王の表情が一瞬変わるが誰もその点については言及しなかった。
ベルドルアのサーシャ姫の噂は各国の王も耳にしていたのでまずは話を聞いてみようという姿勢に見えた。
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