力の証明
次の瞬間、その広い部屋に高らかな笑い声が響き渡る。
「わはっはっはっは」
その場の空気のそぐわない高らかな笑い声にバルダークをはじめそこにいる人間達は一瞬呆気に取られる。
「御大層な御宅を並べているがとどのつまりリストランテのおどしにビビって
盟友の娘を売り渡すってだけの話じゃねーか、それが何を偉そうに、とんだ腰抜け王だぜ」
アルの言葉に眉をひそめるバルダーク、そして横にいた王の従者が口を挟む。
「貴様、陛下に向かって無礼であろうが‼」
しかしアルはバルダークに蔑むような視線をむけ平然と答える。
「あ⁉︎何が無礼だ、盟友の娘を敵国に売り渡すような腰抜けは王として以前に男としてダメダメだろうが。
国民を守る為だとか偉そうに、そんな奴には猫の子一匹守れやしないぜ」
自分をあざけり挑発するような言葉にバルダークの怒りが爆発した。
「貴様などに何がわかる‼私が好き好んで盟友の娘を売り渡すとでも思っているのか
私はこの国の王だ、国民を守る義務がある、民のためには仕方がない事なのだ‼」
感情のままに想いをぶつけるバルダークに対し、アルは薄ら笑いを浮かべながら言葉を返した。
「民の為に盟友の娘を売り渡すのがアリという理屈が通るのならば
こいつを守る為にお前らを全員ぶち殺すって理屈もアリって事でいいんだよな?」
サディスティックな笑みを浮かべ獲物を物色するような視線を向けた。
その目を見たバルダークは一瞬背筋がゾッとするがそれを振り払うかのように部下達に命令を下した。
「もう良い、サーシャ姫とこの無礼者を捕らえよ‼」
バルダークの後ろに控えていた【SINOBI】の者達が一斉に動き出す、それに合わせてアルも戦闘モードに入った。
「ダメよ、アル、殺しちゃダメ‼」
サーシャが部屋に響くほどの大声で叫ぶ。
「でもサーシャ、こいつら……」
「絶対に殺してはダメ、わかったわね」
強い意志を持った目で見つめるサーシャにアルは思わず舌打ちした。
「ちっ、しゃーねーな」
【SINOBI】の者達が周りを囲むようにアルを包囲すると合図もなしに一斉に襲い掛かった
その統率された動きはまるで獲物を狩る狼の如しであったがアルに襲い掛かった瞬間一人の【SINOBI】が壁にまで吹き飛んだ。
「な⁉」
バルダークは目の前で起きている光景が信じられずにいた
精鋭中の精鋭であるはずの【SINOBI】の者達が一人また一人と倒されていく。
しかもその倒され方が尋常ではない、一人、また一人とまるで竜巻にでもあったかのように体ごと吹き飛んでいたのである。
次々と壁や床に叩きつけられ気を失う【SINOBII】の者達。
戦いはあまりにあっけなく終わった、それは時間にして十秒も掛からなかっただろう。
気だるそうに一人たたずむアルの姿に唖然とする一同。
「言われた通り手加減はしたぜ、鍛えられた奴らならこの程度では死なないだろう」
アルの言葉に小さく頷くサーシャ、何が起きているのか全く把握できないバルダークは呆然としながら口を開いた。
「お前は、お前は一体何者だ?」
「あ⁉︎俺の事を知らないようじゃ、アンタら自慢の情報収集能力もたかが知れているな」
相変わらず挑発的なアルの言葉に思わずバルダークの顔が歪む。
「ミ・ペトルジア、ミ・ペトルジアはおらぬか‼」
バルダークが大声で呼びかけると一人の男がそそくさと前に出てきた。
黒いフードを被り魔法の杖を手にしていることからもこの男が魔道士であることがわかる。
「はい、ミ・ペトルジア王の御前に……」
面長の顔に鋭い眼差し、アルに冷徹な視線を向けるその姿は一見して只者ではないことがわかる。
「この無礼者を倒せ、最悪殺しても構わぬ」
バルダークの命令に小さく頷き鋭い視線を向ける魔道士ミ・ペトルジア。
「御意、小僧、運がなかったな。少々腕に自信があるようだが我が魔法の前には全て無力だと知れ‼」
ミ・ペトルジアは既に魔法の準備に入っていた、その動きに合わせ魔道士を守るように兵士たちが盾を構える。
「気をつけてアル、彼はこの国唯一の高位魔道士よ‼」
サーシャの忠告にも似た言葉にも全く動じることのないアル
それどころか不敵な笑みを浮かべながらどこか楽しそうに舌なめずりしていたのである。
「死を目前にして気でも触れたか小僧、ここで命乞いでもすれば少しは考えてやっても良かったが
己の愚かさを悔やみながら死んでいくが良い、ファーアーボム‼」
ミ・ペトルジアの魔法により放たれた炎の塊は弾ける様に凄まじい速度で目標へと向かって行く
燃え盛る巨大な炎の弾丸は瞬きするより速くアルに近づきその姿を赤々と照らした
そして次の瞬間、アルの体へと直撃して爆発した。
〈ドカーーーン〉という爆発音と共に爆風と爆炎が巻き起こる
サーシャの白い服がバタバタと爆風ではためき、周りの者達にも爆炎の熱が伝わってきた。
「塵も残らず消し飛んだか……」
勝ちを確信したミ・ペトルジアは愉悦に満ちた笑みを浮かべ自分の放った魔法に酔いしれているように見えた。
だが魔法が収束し炎と煙が収まってくるとその中に一人の人影が見えてくる。
「なっ、そんな……そんな馬鹿な⁉︎」
信じられないと言った表情で思わず後退りするミ・ペトルジア
さらに視界が開けてくるとアルの姿がはっきりと現れたのである。
身体中に施された無数の対魔法用の文字が薄っすらと光りながら浮かび上がり
金色に輝くその瞳はもはや人間とは思えないほどの異様な空気を醸し出していた。
「そんな……全ての魔法を無効化する絶対魔法耐性にその金色の瞳
そんなモノを持つ人間はこの世に二人といない、貴様がまさか【リストランテの悪魔】……」
驚愕の表情を浮かべ立ちすくむミ・ペトルジア、その瞬間アルが動いた。
目にも止まらぬ速さで高速移動し魔法を放った魔道士に迫る
ミ・ペトルジアを守るように取り囲んでいたはずの兵士たちが全く反応できないほどの速度で
あっという間にミ・ペトルジアの目の前に近づくと呆然としている魔道士の腹に強烈な一撃を加えた。
「ぐえっ」
訳もわからぬ内に強烈な一撃を食らったミ・ペトルジアはうめき声をあげ胃液を吐きながら前のめりに崩れ落ちる。
呼吸もままならない様子で腹を抑えながらうずくまる目の前の魔道士を
猫の子を掴むように片手でつまみ上げたアルはまるでゴミ袋でも扱うようにバルダークに向かって放り投げたのだ。
無造作に放り投げられたミ・ペトルジアはバルダークの足元に落ちると既に意識を失っていた。
何が起きたのか全く理解できないバルダークは魔道士の変わり果てた姿に呆然としながら立ちすむ
そんな王の心境を気遣うはずもないアルは平坦な口調で語りかけた。
「どうする、まだやるのか?」
バルダークは無言のまま答えることが出来ない、そんな態度がアルを益々苛立たせた。
「無言という事は〈戦闘継続の意思あり〉ととっていいのだな?じゃあ当初の予定通りアンタらを皆殺しにしてこの国を乗っ取る方向で……」
アルがそう言いかけ攻撃準備に入る。
「待ちなさい、アル‼」
先ほどまで余裕の態度で戦っていたアルだったがサーシャの言葉に思わず眉をひそめた。
「どうしてだ?こいつらはお前をリストランテに売り渡そうとしたのだぞ、殺されて当然だろうが」
「アル、貴方は人の命を軽く考えすぎです、自重しなさい」
「ちっ、わかったよ」
叱られたような形になったアルは顔を背け舌打ちしながら面倒くさそうに返事をする。
サーシャは呆然としているバルダークに近づいていき努めて冷静に話しかけた。
「見ての通り【リストランテの悪魔】と恐れられたアルフレッド・バーキュリーは今では私の味方です。
リストランテの現状は二つの大国を併合した反動で新たな法整備と治安維持で精一杯という混乱状態です。
アルも抜けた今現在の状況ではとても他国に攻め入る余裕はありません
今しかない、今がチャンスなのです。リストランテが国内統治を完全にしてしまえばもうどうにもならないのです
どうかもう一度【反リストランテ連合】を考え直してはいただけないでしょうか」
再び頭を下げるサーシャの姿に驚きを隠せないバルダーク。だがそれを見たアルは堪らず叫んだ。
「ちょ、ふざけんな‼こいつらがお前に何をしたか忘れたのかよ、俺がいなければお前は今頃……」
「いいから黙りなさい。世界の行く末を簡単な感情で判断してはいけないのです‼」
頭を下げたまま一喝するサーシャにアルは釈然としないまま口をつぐんだ。
「サーシャ殿、貴方に対してこれほどの仕打ちをした私を許してくれると申すのか?」
「はい、祖国を取り戻し、世界の秩序と平和を取り戻すためならば私の気持ちなど取るに足らないものです。
ですからもう一度お考え直しください、どうか貴方の力をお貸しください陛下」
終始頭を下げながら懇願するサーシャの姿に思わず目を閉じ、天を仰ぐバルダーク。そして両手でサーシャの手をそっと握った。
「こちらからお願いいたしますサーシャ殿、本当に立派な姫になられましたな」
ようやく頭を上げたサーシャの目にはうっすらと涙が浮かんでいた
そんなサーシャの姿を見てどこか嬉しい気持ちになるアル
こうして【反リストランテ連合】の第一歩が動き始めたのである。
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