盟約の所在
二人はバルダークに会う為その居城であるネルアンデス城へと向かう
その道中でアルはこの国の説明を受けていた。
「ケルコフ共和国のバルダーク国王と私の父上は昔からの盟友なの
だから連合を組むときも父上は真っ先にバルダーク様に声をかけたのよ」
「ほう、それでケルコフ王国というのは強いのか?」
「そうね、国力や兵力はベルドルアとほぼ同じ位ね、魔道戦力もそこまで高くはない
所属している魔道士は高位魔道士が一人、中位魔道士が三人といったところよ。でもこの国には特出するべき点が一つあるの」
「それは一体何だ?」
「この国には隠密行動を得意とする【SINOBI】と呼ばれる特殊部隊があるのよ」
「ほう、それでその特殊部隊とはどんな事をやるのだ?」
「そうね……【SINOBI】の主な活動は敵国に潜入しての情報操作と撹乱、軍事施設の破壊、通信連絡網や流通の妨害
時には要人誘拐や暗殺まで行うと聞いているわ。中でも最も優れていると言われているのが情報収集能力よ。
戦いや国交において情報がいかに大切かはわかるわよね?
情報収集能力においてケルコフは世界一よ、おそらくリストランテにも何人かの諜報員を潜入させていて情報を得ているはず
それ故に他国にも一目置かれているしリストランテ側から見てもこの国は要注意と見ているはずよ」
「なるほど、確かに今のリストランテは色々と知られたくない事が多そうだからな」
そんな事を話しながら二人はバルダーク国王のいるネルアンデス城へと到着した。
本来であれば王へ謁見する為には特別な通行許可証や政府関係者からの推薦状が必要なのだが当然今のサーシャにそんな物はない。
王への謁見どころか城へ入ることもできない状態なのである
だから何とか頼み込んで入れてもらうしかないと思っていた。
「何者だ、貴様ら‼」
「許可証も推薦状もなしでこの城に入れると思っているのか⁉︎」
門番の兵が険しい顔で二人を睨みつけ警戒しながら槍を向ける。
「俺たちはここの王様に用がある、四の五の言わずにさっさとつなげ」
アルはまるで門番の方が間違っているとばかりの命令口調で言い放つ。
一瞬戸惑った門番達だったがすぐに気を取り直し、先ほどよりもさらに強い口調で返した。
「ふざけているのか貴様‼許可証も推薦状も無い者を通すわけにはいかぬ、さっさと立ち去れ‼」
取り付く島もない門番達の態度にアルは少し苛立った。
「どうしても通さないというのならば力づくで……」
門番達とアルの両者の間に緊張が走る。
「止めなさい、アル。聞いてください、私はベルドルア王国第一王女サーシャ・フォン・ベルドルアです
火急の用事がありどうしてもバルダーク国王様にお会いしたいのです
緊急事態で許可証も推薦状もありませんがどうか取り次いでください‼」
鬼気迫るサーシャの態度に思わず顔を見合わせる門番達
何やらヒソヒソと小声で話していたがすぐに二人に向き合いペコリと頭を下げた。
「そういう事であれば了解いたしました。失礼ですが何か身分を証明できる物をお持ちでしょうか?」
「はい、この王家に伝わる短剣であれば……」
サーシャは懐から短剣を出すとそれを門番の一人に手渡す。
「お預かりいたします、上のものに確認してきますので少々お待ちを」
サーシャから短剣を受け取った門番はそそくさと城の中へと入って行く。
しばらくして戻ってきた門番は二人の前で深々と頭を下げた。
「先ほどは大変失礼いたしました、あなた様はサーシャ・フォン・ベルドルア様で間違いないだろうとの事、どうぞ奥へ」
門番は預かった短剣を丁寧に返すと二人を城の奥へと案内してくれた。
案内された部屋は謁見の間では無く机と椅子が並んでいるだけの部屋であった
普段は会議室として使っているのか広々とした殺風景な部屋の中で静かに待っている二人
だがバルダーク王はなかなか現れない、三十分以上待っても王様どころか誰一人姿を見せなかったのである。
「ちっ、いつまで待たせるつもりだ」
「仕方がないわよ、向こうは一国の王様なのだから。アポもなしでいきなり押しかけた私が悪いのよ」
苛立つアルをなだめるように言葉をかけたサーシャだったが内心は不安であった。
国を滅ぼされ今は追われる身である自分はバルダーク王にとって招かれざる客かもしれないと思ったのである。
しかしベルドルアとケルコフの盟約を信じ、それだけを頼りにここまで来たのだ。
さらにそれから二十分ほどが過ぎた後、ようやくバルダーク王が姿を見せた。
年は五十半ばといったところか、高貴そうな顔立ちとたたずまい知性を感じさせる灰色の目が特徴的な王である。
「遅くなってすまない、色々とバタバタしていてね」
「いえ、こちらこそ突然押しかけてしまって申し訳ありません、どうしても陛下にお話ししたい事がありまして……」
椅子から飛び上がるように立ち上がったサーシャは深々と頭を下げ、早速話を切り出そうとするがバルダークはその話を遮るように口を挟んだ。
「【反リストランテ連合】の盟約のことだね」
「はい、その件でお話ししたい事がありまして」
鬼気迫る雰囲気の中、切羽詰まった表情で話すサーシャを見てバルダークは目を閉じゆっくりと首を振った。
「すまないサーシャ殿、もう遅いのだ……」
「遅いとは一体?……」
言葉の意味がわからず聞き返すがその瞬間アルの表情が険しいモノに変わる。
「ちっ、そういう事か」
アルは素早く椅子から立ち上がりサーシャの身を守るように二人の間に割り込み相手を睨みつける。
すると次の瞬間、バルダーク王の後ろの扉が一斉に開いた。
「何よ、これ……」
状況がつかめず呆然とするサーシャ、バルダーク王の後ろには黒装束を身に纏った怪しげな人間が二十人ほど立っていたのである。
「これは一体どういう事ですかバルダーク陛下⁉」
感情に任せて思わず口に出したがどういうことかは一目瞭然である
そしてこの状況はサーシャが一番恐れていたものだった。
唯一の頼りだったバルダークに裏切られ絶望感で倒れそうになるサーシャ。
そんな彼女を守るようにアルは周りを気にしながら警戒モードに入っていた。
「この俺に気配すら感じさせないとは、【SINOBI】とかいう特殊部隊の実力は本物みたいだな」
絶体絶命の状況にサーシャの目から涙があふれだす。バルダークは思わず顔を伏せ絞り出すように答えた。
「すまないサーシャ殿、実は昨日リストランテから使者が来て
〈ベルドルア王国のサーシャ姫がそちらに訪れた際は速やかに我が国に引き渡すことを要求する
もしこれを守らないのであれば我が国はケルコフ共和国に対し宣戦を布告するモノである〉と……」
「そ、そんな……では我が国との盟約はどうなるのですか?」
小刻みに体を震わせ涙を流しながら問いかけてくる盟友の娘の姿にバルダークは思わず唇を噛み締め目線を逸らした。
「あの盟約はあくまでケルコフとベルドルア、つまり国と国との間で交わされたモノだ
しかしベルドルアはリストランテにより滅ぼされ王は囚われの身、もはや国として存在していない以上盟約はなかったという事になる、残念だが……」
「そんなことはありません、まだ私がいます、ベルドルアはまだ滅びてはいません‼
国と国でなくとも陛下と父との盟約は反故にされるようなモノではないでしょう‼」
涙ながらに訴えるサーシャだったがその訴えは無情にも受け入れられなかった。
「すまないサーシャ殿、ベルドルアという国が存在しなくなった以上、どうやってもリストランテには勝てないのだ。
私はこの国の王だ、国民を守る義務がある、非常に残念だが君をリストランテに引き渡す、恨んでくれて構わない……」
「そんな……」
完全に見限られたサーシャはその場に力無くへたり込んだ。
頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。




