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いい女の判断基準と接し方

 夜になりテントの中で休むことにした二人、高級マジックアイテムであるテントの中は広々としていて


5,6人は寝られるほどのスペースとしっかりとした温度管理がされており砂漠という過酷な環境下でも快適な適温で休む事ができる。


ランプの薄明かりの中でテントの中で毛布にくるまり早々に横になったサーシャはよほど疲れていたのかすぐに寝息を立てて眠りに入る


そんなサーシャを横目で見ながらアルは思わず舌打ちをする。


「ちっ、いい気なものだぜ。この辺りは少し厄介だからな、本当は今日中に砂漠を越えたかったのだが……」


 独り言のように呟くアル、そしてその危惧は現実のモノとなった。


 夜もふけ、しんと静かなテント内。雲が空の月を覆い隠し月明かりもあまり無い漆黒の世界の中。


ぐっすりと寝入っていたサーシャだったが何か気配を感じふと目を覚ますと目の前にアルの顔があった。


「な、何よ⁉︎」


 突然のことで驚きを隠せず思わず問いかけたサーシャだったがアルはその質問には答えず真剣な表情のまま口を開いた。


「動くなよ」


 少年の面影が残るアルの顔がさらに近づいてくる、意図しない展開にサーシャは動揺し困惑した。


「ちょ、ちょっと、アンタそういうことする人だったの⁉︎止めてよ、私まだ男の人とそういう事は……」


 サーシャの訴えるような言葉にも耳を貸す気配のないアル、その右手がゆっくりとサーシャの体に伸びてきた。


「い、嫌……」


 思わず目を閉じ全身を強ばらせるサーシャ、だがしばらくしても何かをされたという気配はない為


恐る恐る目を開けるとアルは既に立ち上がっていてジッと何かを見つめている


テント内の薄明かりの中、サーシャは目を凝らしてよく見てみるとアルの右手には何やら黒いものがウネウネと動いている。


「何、それ?」


「ああ、これか?これはデザートスコーピオンだ」


 淡々と答えるアル、どうやらいつの間にかテント内に入ってきたサソリが寝ているサーシャに近づいて来ていたようである。


「サソリ⁉もしかしてさっき私に近づいて来たのは……」


 ようやく事態を把握したサーシャはほっと胸を撫で下ろす。


「ああ、こいつに刺されると激痛と高熱で三日は動けなくなる、下手をすれば死んでしまうからな


一応お前の身は俺が守ると言った以上こんな所でサソリに刺されて死なれては困る」


 説明するアルの右手で身を捩りながら必死で逃れようとしているデザートスコーピオンそして次の瞬間


掴んでいるアルの手にその毒針を突き刺したのだ。


「ひっ‼」


 サーシャは思わず悲鳴のような声をあげる。だが当のアルは何事もなかったかのように表情を変えないでいた。


そしてそのままテントの入り口の幕を捲り上げると掴んでいたサソリを無造作に放り投げた。


投げられたデザートスコーピオンは砂の上に着地するとそのままカサカサと夜の闇に消えていった。


「だ、大丈夫なの、アル?」


「ああ、サソリの毒など俺にとってはどうって事はない


俺の体はあらゆる毒に対して耐性があるし痛みは感じないように作られている


だからあの程度なら痒いとも感じないから心配いらない」


 まるで報告事項のように語るその姿を見てサーシャは色々な面でアルが普通の人間とは違う事を再認識した。


「でも自分を刺したサソリを逃してあげるとか、優しいところもあるのね」


「別に……生物が自身の生命維持のため敵を攻撃するのはよくある事だ


そんな事に一々目くじらを立てていたらキリがないだろ。


それともお前は俺が生物とあれば皆殺しにしないと気が済まないバーサーカーだとでも思っていたのか?」


「そんな事は思っていないわよ、少し意外だと思っただけ、深い意味はないわ……」


 サーシャはアルの触れてはいけない部分に触れてしまったような気がして思わず目を伏せた。


だがそんな思いとは裏腹に思いもかけない言葉がアルの口から出てくる。


「サーシャ、そういえばお前さっき変な事を言っていたよな?


〈私まだ男の人とそういう事は……〉とか何とか、アレは一体なんなのだ?」


 安心しきっていたサーシャは突然の質問に動揺してしまう。


顔を真っ赤にし、ドギマギしながら挙動までおかしくなってしまった。


「あ、アレは、その……何というか、別に、何でもないわよ」


 赤面しながら目も合わせられず明らかに態度がおかしいサーシャを冷徹な目で見下ろすアル、その不可思議な言動に何かを感じ取った。


「もしかして俺がお前に欲情したとでも勘違いしたのか?」


 どストレートな質問にますます動揺するサーシャ


その反応を見て自分の指摘が正解だったと悟り思わずため息をつく。


「ハア、馬鹿かお前は?そんなわけないだろうが」


 呆れているアルを前にサーシャは目を伏せながら恥ずかしそうにボソボソと話し始める。


「だってしょうがないじゃない、男の人ってそういうものだと聞いていたし。


その……アンタが私の魅力に釣られて、つい……とか考えても仕方がないじゃない」


「はあ?お前みたいなガキくさい女にどうして俺が欲情しなくちゃいけないのだ?


大体自分から〈私の魅力〉とか、どれだけ自意識過剰なのだよ、言っていて恥ずかしくないのか?」


「失礼ね‼私はこう見えても【ベルドルアの宝石】と呼ばれた女よ


もう少し大人になれば誰もが振り向くくらいの絶世の美女になるのだから‼」


 目くじらを立てて言い返すがそれを聞いたアルはますます引いていく。


「ハア、そいつが魅力的な女かどうか?何て、相対的なものだろうが。


そもそも今はその判定する俺がそう思わない時点でもうアウトだろうが。


大体〈今のお前がどうなのか?〉が論点になっているのに〈大人になれば……〉とか


未来に願望を向けている時点でもう駄目だろう〈言えば言う程〉だと思わないのか?」


 呆れ顔で淡々と語るアルのツッコミに対し、顔を真っ赤にしながらブルブルと体を震わせ何とか怒りを押し殺す。


「アルが女の何を知っているというのよ、そもそもアンタ見たところ私より年下でしょ?


私はもう十七歳よ、アルは一体歳幾つなのよ、十五、十六?」


 目を釣り上げて問いかけるサーシャ、よほどプライドが傷ついたのか明らかに感情的になっているのが見てとれた


だがアルは歳を聞かれふと視線を逸らすとどこか物悲しげに話し始めた。


「俺は特殊な魔導法によって生み出されたいわば異質な存在だ。だから見た目と年齢は比例しない」


「そうなの?じゃあもしかして私より年上とか?」


 再びアルの触れてはいけない部分に触れてしまったのか⁉と感じ、どこか気遣うような態度で問いかけた。


「いや、年下というのは間違ってはいない。俺の見た目は十五、十六くらいに見えているかもしれないが、実年齢は八歳だ」


「は、八歳⁉︎何よ、それ⁉まるっきり子供じゃないのよ‼」


 目を丸くして驚くサーシャ。それも無理からぬことで、サーシャは先ほど八歳の子供に


〈女の魅力〉について言い負かされてしまったのである。驚きを隠せないでいるサーシャにアルは話をつづけた。


「八歳と言っても俺は特殊な教育を受けているから教養や知識といったものはそこらの成人男性よりずっと高いはずだ。


だが特殊な環境で育ったせいで一般良識とか社会常識とかにはまるで疎い。


そういう自覚はある、だからそれを知るために旅に出たのだ」


 サーシャはその説明を聞いて妙に納得してしまった。アルの持つアンバランスさと異常性


八歳にして世界を変えてしまうほどの力を持つという十字架を背負わされた純真無垢な怪物。


その瞬間何としても彼を常識のある幸せな人間として今後の人生を生きさせてやりたいと思った。


「そう……わかった、あなたが少し変わっている理由もね。


私が必ず貴方を幸せにしてあげるわ、だからさっきの発言も忘れてあげる」


 優しく微笑みかけてくるサーシャの笑顔にアルは感じたことのない温かいモノが胸に込み上げて来て不思議な感覚にやや戸惑っていた。


「そうか……悪いが頼む」


 少し照れくさそうに俯きながらボソリと呟いた。アルにしてみればそれは精一杯のお礼だった。


父親以外にまともなお礼などした事のないアルにとって嬉しさと気恥ずかしさが入り混じったような


初めて感じる不思議な感覚、だが決して不快ではなくむしろ心地よさすら感じていた。


「よく出来ました」


 嬉しそうに微笑みながらアルの頭を撫でるサーシャ。先ほどまでの不機嫌さと怒りは既にどこかへ吹き飛んでしまっているようである。


「まだ人生経験が足りないアルには女の魅力は難しかったという訳ね、うん納得よ」


「いや、さっきの意見なら俺は間違っていないとおもっているぞ。お前は自分が思っている程いい女じゃない」


 再び自分を否定され思わずサーシャの笑顔が引きつる。


「どうしてそういう事をいうのよ‼ここは話の流れ的に〈そうですね〉


で済ませておけばいい場面じゃない、そういうところよ‼」


「どういうところだよ?」


「そこは話の流れというか、空気を読むというか、とにかくそういう感じよ」


 再び機嫌の悪くなったサーシャだったがアルには言っている意味が全く理解できずにやや困惑していた。


「空気を読むとかどういう意味だ?〈大気中の空気の成分を解析しろ〉という事か?


それとも〈気流のベクトルが環境や人体に与える影響を分析しろ〉という事なのか?


どちらにしても今の状況でそれが必要だとは思えないのだが」


 真面目な顔で問いかけてくるアルに今度はサーシャが戸惑ってしまう。


「いや、そういうことではなくて……だから女性にはデリカシーを持って優しく接するというか


思ったことをそのまま口にするのではなくて相手が喜ぶように褒めるとか気を使うとか……


そんな感じよ、女の子は繊細なのだから」


「何だ、そのフワッとした説明は?要するに〈嘘でもいいからサーシャを褒めろ〉ということか?


だが俺は父上に〈女性には嘘をつかず誠実に接しなさい〉と教わっていたぞ。


父上の教えは間違っているということなのか?」


「いや、それは間違ってはいないのだけれど……それだけじゃないっていうか、ケースバイケースというか……」


 どこまでも真っ直ぐなアルにどう説明していいか戸惑うサーシャ。だがその時、アルの顔が急に険しくなる。


「静かに‼」


 アルはサーシャの言葉を遮るように口を挟むと外の気配を探るように耳を澄ませる。


 そんなアルの突然の言動に何が起きたのかわからないサーシャは思わず息を呑む。


「な、何よ、一体何があるのよ……」


 何が起きたのかわからず戸惑うサーシャ、だがアルはそれに答えず息を殺すようにジッと何かを探っているようであった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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