5章「勇者の使命・ヒモの役目・おれの人生」1
今作品は、C90「よろづ屋本舗」にて販売した作品となります。
あれからどうやってここまで帰ったのか――『雨宿り』のレジカウンターを斜めに見上げるように床へ転がったアルベルトが魂まで抜け出そうな溜息を明かり一つ灯っていない店内へ吐き出した。
相変わらず外では雨が降り続いており、街頭の明かりがあっても不気味な黒の覆われていた。外を行く者はおらず、不気味さと相まってゴーストタウンのようだ。
「おれにどうしろって言うんだよ……無茶だよ」
無意識に無機質な声が溢れるも、それに答えるものはない。
濡れたままの身体は今もなおアルベルトから温もりと呼べるものを根刮ぎ奪って意識を深い眠りへ誘おうとしている。しかし、それでも目を閉じないのはギブソンとコトハの言葉が耳の奥で響き続けているからだ。
「いいじゃん、今が平和ならそれで。なんで……おれがやらないと――ッッッ!」
ようやく収まっていた頭痛が目を覚ましてアルベルトの顔をしかめさせる。痛みに悶えながら店内をむちゃくちゃに転がる。ドンッ、背中へレジカウンターがぶつかり、写真立てが額へ直撃。
「なんだよ……こんなの」
片手でどこかへ放り投げようとするが、どういうわけか指先から放れてくれない。
「全部アイツのせいだろ……品田アルト、お前が死ななければ最初からこんなことにはならなかったのに……。死ななかったら……」
もし品田アルトが死んでいなかったら――深雨さんはどうなっていたんだろ?
力尽きたように腕を放り下ろし、写真立てを手首から零した。
「クソッ!!!」
品田アルトは深雨を守った末死んでいったんじゃないか。もし品田アルトが死んでいなかったら? そんなふざけた未来があっていいはずない。
しかし同時に、
「なんで……死んじまったんだよ。深雨さんを残して……石に齧り付いてでも生きなきゃダメだろ……お前は……」
なんて無力な呟きなのか。
目元から熱いものが溢れた。寒いはずなのに、まだ火傷しそうな熱を持ったものが自分の中から出てくるのに驚きながら濡れた袖で顔を覆う。
彼と比べて自分は何もできない元勇者じゃないか……。
別れ際に見せた深雨の涙さえ拭うことができなかった無力さに打ちひしがれ、ただ涙を流し続ける。雨音が嗚咽を飲み込んで、店内は再び無人同然の静けさに満ちていく。
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ。
静寂を破った電子音がポケットから陽気に鳴り響いた。
「誰だよ……」
相手を確認せず、事務的動作で耳へ当てる。まず最初に聞こえたのは車が水溜りを駆け抜ける疾走音。相手は屋外かららしい――屋外?
「み、深雨……さん?」
まさか!?
飛び起きはしたものの、アルベルトの声は抑揚がない確かめるものだった。
『……』
返答がない。息遣いのみの沈黙に、少しずつ心臓の鼓動が早くなっていく。血液が全身へ巡り、暑くないのにじっとりした汗が雫と別に額へ浮かぶ。
「み、深雨さん……だよね?」
もう一度、深く確かめるように尋ねる。
「も、もしもし……」
音がした。




