第41話 白き血の証
木箱の底からは、もう一つ小さな包みが出てきた。開けてみると、真っ白な絹のバンダナが入っていた。金糸で小さく神獣の紋章が刺繍されている。さらに、首飾りやリボン、上質な毛布に銀の鈴、仕立てのいい小さなケープ…それから、いくつかの小さな玩具。
ドイルさんが思わず吹き出した。
「…もしかして、これ全部ルゥちゃんの?」
クリスも、思わず目が点になっていた。
「えっと…そうみたいですね…」
プレゼントと一緒に手紙が一枚添えられていた。
『神獣殿への無礼、まことに申し訳なく存ずる。ささやかながら、お詫びの品を同封した。お気に召していただければ幸いである。前グランヴァルト公爵』
クリスはその署名をじっと見つめて思わずぽつりとこぼした。
「…神獣殿」
ルゥは「きゅ?」と言いつつバンダナを見つめ、不思議そうに首を傾げる。
そんなルゥにクリスはそっとバンダナを首元に巻いてあげた。
「きゅ♪」
ルゥは、少しだけ得意げだった。
それから、公爵家からの荷物はしばらく間隔を空けて届き続けた。学術書が山のように届いたこともあったし、神獣の飼育書を大量に抱えた使いが訪ねてきたこともあった。どれも、善意百パーセントで、少しだけ方向がずれていた。
そして、届く荷物の中でいつの間にかルゥ宛のものが、クリス宛のものを上回るようになっていった。神獣用特注ベッド、神獣用のブラシ、神獣用のマント、ある日届いた箱には王室御用達と刺繍されたクッションまで入っていた。
ドイルさんが箱を覗きながら、ぽつりと言った。
「旦那様…最近は、クリスさん宛よりルゥちゃん宛のお荷物の方が多い気がしますね」
クリスは、膝の上のルゥに声をかけた。
「…人気者だね」
ルゥは、得意げに「きゅ」と鳴いた。
王都大神殿、中央聖堂。天井近くに設けられた丸窓から朝の光が幾筋も差し込んでいた。
その日、聖堂の内側には王国中の高位者が集められていた。国王アルベリック・アルドビー三世。宰相。グランヴァルト公爵夫妻と、前公爵。フローラ。そして、大司祭カスバートを筆頭にアイラ司祭。列席の端にはレオンハルトをはじめとする騎士団の面々の姿もあった。
誰もが、緊張した面持ちで聖堂の中央を見つめていた。
クリスは、聖堂の中央に立っていた。腕にはいつものようにルゥが抱っこされている。周囲の張り詰めた空気とは対照的に、その白銀の毛並みは、いつも通りふわふわと丸かった。
大司祭カスバートが静かに歩み出た。老齢だが、背筋の伸びた威厳のある人物だった。
「クリスティーナ・グランヴァルト。本日、神殿の名においてそなたの力を確かめる」
その声は、聖堂の隅々まで届くほど、よく響いた。
クリスは、僅かに緊張した様子で頷いた。
「…はい」
「まず、その手を、祭壇へ」
大司祭は、静かに、聖堂の中央に据えられた祭壇を示した。
クリスは、腕の中のルゥをそっと見た。
「……ルゥ、少しだけ下でいい?」
クリスは、ルゥを、祭壇の脇にそっと下ろした。
ーとすん
小さな体が、石の床に落ち着く音は聖堂の緊張感にはあまりにも似合わなかった。列席の誰かが、思わず小さく噴き出しそうになり、慌てて咳払いで隠した。
両手が自由になったクリスは、祭壇の前に立ち、静かにその表面へ手を置いた。
「天にまします理よ」
大司祭が、両手を広げた。
「かつて英雄と共に歩んだ、白き血の証を今ここに示されよ」
古い言葉が、聖堂に静かに響いていく。アイラが、緊張した様子でその様子を見つめていた。
その時だった。
クリスの手のひらの下から白く輝き始めた。
聖堂の四方に据えられていた聖具が、次々と共鳴するように光を帯びていく。誰も触れていないはずの聖火が、ふっと灯った。遠くの鐘楼で、鐘が一つ、静かに鳴った。
「…あれは」
誰かが、息を呑む声がした。




