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神罰の子と呼ばれた少女は、王都で初めて居場所を知る  作者: バニースリッパ


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第36話 12年ぶりの公爵家

レオンハルトは、その様子を少し離れた場所から見つめていた。あの子が、初めて自分の意思で何かを選ぶことを許された。その光景に、レオンハルトの胸の奥で何かが静かに緩んでいくのを感じた。


謁見を終えて王城を出たところで、クリスがふと振り返った。

「団長…ありがとうございました」

「俺は何もしていない。決めたのはお前だ」

レオンハルトは静かに首を振った。


その言葉に、クリスは少しだけ泣き笑いのような顔をした。


ーーー


一台の馬車がグランヴァルト公爵家の本邸正門に到着した。


クリスティーナがここをくぐるのは十二年ぶりだった。三歳で離れへ移されてから、クリスはずっと裏門だけを使って過ごしてきた。十四歳で家を出た夜も同じ裏門を使った。表の正門をくぐるのは、離れへ移されたあの日以来、これが初めてのことだった。


正門の前に立った瞬間、出迎えの列に小さなざわめきが走った。短く整えられたプラチナブロンド。飾り気のない、王国騎士団の制服。その腕には、白銀の毛並みを持つ小さな獣。そして、どこまでも澄んだすみれ色の瞳が、まっすぐに屋敷を見据えていた。


十二年前に離れへ移されたはずの娘は令嬢としてではなく、一人の騎士として帰ってきた。


エントランスには使用人一同がずらりと並んでいた。主人の命により、十二年ぶりに帰還する娘を出迎えるため、全員が朝から並ばされていたのだという。その中心には公爵夫妻と、前公爵。そして、その少し後ろに、フローラの姿があった。誰も声を発さなかった。


父の目が、クリスの姿を上から下まで何度も往復した。

「…こんなにも、立派に」


その声は震えていた。感慨か、後悔か、それとも両方か、本人にも分からないような声だった。


クリスは、その言葉に静かに返した。

「私は、ここへ娘として帰ってきたつもりはありません。今日は、話を聞くために来ました。それだけです」

騎士としての口調だった。誰もそれに言葉を返せなかった。


前公爵の視線は、クリスの瞳に釘付けになっていた。

「…その瞳は…」


クリスは、僅かに眉を寄せた。

「?」


前公爵は、慌てて視線を逸らした。

「いや…失礼した」


だが、内心は大きく波立っていた。(銀ではない。あの子は、確かに、銀の瞳で生まれたはずだった。それが…このような、すみれ色に?)


記憶の奥底にある、ある肖像画の色と目の前の瞳の色が静かに重なっていく。それが何を意味するのか、この時の前公爵にはまだ言葉にする勇気がなかった。


その時、フローラが一歩前へ出た。じっと、クリスの顔を見つめている。その目に、みるみる涙が浮かんでいく。


「…初めて、ではない気がします」


クリスは、僅かに目を見開いた。

「え?」


「小さい頃、一度だけ。庭で…」フローラの声は、震えていた。

「顔はちゃんとは覚えていません。ただ…なんとなく、泣きそうな顔をしていた女の子がそこに立っていた気がして」


クリスの中で、遠い記憶が静かに輪郭を持った。少女たちの話し声に吸い寄せられるように庭に出たあの日、母に「下がりなさい」と言われた、あの時。


その庭にいた小さな子どもがフローラだったのだ。

「あなたが…」


それ以上言葉は続かなかった。フローラの涙が、静かに頬を伝った。

「本当に、いたんだ…」


それは、憐れみの涙ではなかった。ずっと胸の奥にあった違和感の答えをようやく見つけた者の涙だった。


クリスは、しばらくフローラの顔を見つめていた。憎む理由はいくらでもあった。自分の奪われた十二年と手に入れられなかったもの。そして、一方で何もかもを与えられて育った妹。


素直に羨ましいと思った。でも、目の前で泣いているこの子は何も知らずに育っただけだった。憎み切るには、あまりにも罪がなかった。


クリスは、小さく息を吐いた。

「…後で、ゆっくり話しましょう」


それだけ言うと、視線を、公爵夫妻と前公爵へ戻した。

「先に、大人の話を済ませたいので」

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