第16話 新たな一歩
レオンハルトは、その反応をしばらく観察していた。
(喜んでいる。けれど、どこか他人事のような目をしているな)
「クリス。聞くが、なぜ討伐隊なんぞ志望した。危険な仕事だぞ。」
クリスは一瞬、答えに詰まった。少し間を置いてから答える。
「腕試しがしたくて。」
レオンハルトは、クリスの答えを聞いて呟いた。
「……腕試し、か」
嘘ではないだろう。だが、それだけでもないはずだった。
(この娘は、自分が傷つくことを恐れていない。)
それは勇気ではなく、命を軽んじている者の目だと、レオンハルトには分かった。
レオンハルトは静かに息を吐いてから言った。
「一つだけ言っておく。騎士団に入る者が、自分の命を粗末にすることは許さん」
クリスは、少し目を伏せた。
「誰かを守るために戦う者が、自分自身を守れなくてどうする」
しばしの沈黙のあと、レオンハルトは書類へ視線を落とした。
「とはいえ、魔法師としての能力は十分に認める。明日から討伐隊に配属する。まずは、実力を見せてもらおう」
「はい!」
クリスは、深く頭を下げた。
その姿を見送りながら、ガレスがぽつりと呟いた。
「団長、彼、何か隠していますね」
レオンハルトは笑った。
「だろうな。だが、面白い」
クリスティーナの採用が決まったあと、レオンハルトが王国騎士団本部の廊下を歩いていると聞き覚えのある声がした。
「レオンハルト殿」
振り返ると、そこには白髭の老人が立っていた。
「…ブレイバーン大魔法師」
「久しいの」
「あなたが、騎士団に来るとは」
「孫弟子のことでな」
その言葉に、レオンハルトの表情が少し変わった。
「クリスのことですか」
「うむ」
ブレイバーンは、しばらく黙り込んだあと静かに切り出した。
「頼みがある」
「なんでしょう?」
「ワシの代わりに、あの子を見ていてやってほしい」
それを聞いて、レオンハルトは少しむっとした。
「彼は騎士団員ですよ。子供扱いするつもりはありません」
「そうじゃ。だから、お主に頼むんじゃ。守る、ではない。必要な時に、手を差し出してやってくれ」
ーーー
騎士団の門を出たクリスは、思わず空を見上げた。
(認めてもらえた…)
その瞬間、門の陰からひょこっと帽子が覗いた。
「…?」
クリスが歩き出すと、帽子も同じように動く。
「……じぃじ」
物陰で、びくっと肩が跳ねるのが見えた。
「帰りましょう」
「…散歩の途中じゃ」
「はいはい」
じぃじは咳払いを一つしてから尋ねた。
「採用されたか?」
クリスは、満面の笑みではいと答えた。
じぃじには、それだけで十分だった。
「そうか。よかったのう」
その目尻には、少しだけ涙が光っていた。
ーーー
朝の騎士団本部で、新入り!と声をかけられたクリスが振り向くと、そこには副団長ガレスが眼鏡を押し上げながら名簿を眺めていた。
「本日から、第一討伐隊へ配属です。団長直轄になります。こちらへ」
ガレスは、クリスを一瞥した。
(…やはり、女ですね)
しかし、顔には出さない。
食堂に入ると、騎士たちがざわついた。
「おっ、新入りか!」
「細っ!」
「風で飛ぶぞ!」
騎士たちがどっと笑った。
そこへ、エプロン姿の恰幅のいい女性が現れる。
「はいはい!朝から騒がない!」
ミセス・ベイクウェルだ。彼女はクリスを見るなり、眉を寄せた。
「食べてないね。その細い腕見りゃ分かるよ。座りな!」
返事も待たず、皿の上にベーコン、卵、パン、スープが山盛りに盛られていく。
「全部、食べるんだよ!」
食後、早速討伐隊が出発する。
道中、若い騎士のドゥーガル・マグガイヤーが人懐こい笑顔で話しかけてきた。
「新入り!よろしくな!」
クリスはなんとなくホッとした。討伐の危険性よりも、なんとか騎士団でもやっていけそうな賑やかな雰囲気に心が落ち着いていた。
(…ここなら、居てもいいのかもしれない)




