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最強の助っ人

夜の街に飛び出した美咲は、冷たい風に吹かれながら、スマートフォンの連絡先をスクロールした。彼女が最後にタップしたのは、大学時代の同期で、現在は離婚案件を専門に扱う弁護士、**優子(35)**の番号だった。


「……夜分に悪いわね、優子。……『案件』が発生したわ。今から会える?」


三十分後、都心の会員制バーの片隅で、美咲は優子と向き合っていた。

グラスに注がれた強い酒が、喉を焼く。美咲の瞳からは、すでに先ほどの涙は消えていた。そこにあるのは、プロジェクトの失敗を分析し、リカバリーを企む時の、冷徹なリーダーの目だった。


「状況は把握したわ。ソファで現行犯、しかも相手の女は暴言……。典型的なクズね、健一さん」


優子はタブレットに慣れた手つきでメモを取る。


「美咲、どうしたい? 謝らせてやり直す? それとも――」


更更さらさらないわ。私の人生に、これ以上の『不良債権』は不要よ。徹底的に『上司』として、あいつらの人生を査定してあげる。……優子、あのマンションのローン、健一の単独名義に書き換えさせることは可能?」


「ええ、可能よ。でも、あいつの今の年収じゃ、地獄を見るわよ?」


「それでいい。……それから、健一の会社。……あそこの常務、私のクライアントの元上司なの。事実が耳に入ったら、どうなるかしらね」


優子は、美咲の容赦ない言葉に少しだけ苦笑した。


「……あなたを敵に回したあいつらが哀れね」


翌朝。



美咲は、一睡もせずに優子と練り上げた**「人生の精算書」**を手に、再び自宅マンションのドアを開けた。

リビングには、健一のTシャツ一枚でくつろぐ萌と、現実逃避するようにコーヒーを飲む健一がいた。美咲は、かつて自分が愛した男を視界から外し、感情を排したビジネスライクな声で書類を叩きつけた。


「健一、これは『協議離婚合意書』の最終稿よ。10分で読みなさい」


「美咲、昨日は……その、悪かったよ。でも、お前にも原因が――」


「黙りなさい。あなたの言い訳に払うコストは、1円分も残っていないわ」


美咲は冷たく遮り、書類の要点を、まるでプロジェクトの失敗報告のように読み上げた。


1. マンションの「権利譲渡」と「全額返済」


「まず、このマンションの所有権を100%私に移転させなさい。当然、残りのローン3,500万円は、あなたの『誠意』として、**あなたが完済まで全額支払い続けること。**私はここを売却して、自分の再出発の資金にするわ。……住む場所? 多摩の奥の方なら、あなたの『削られた手取り』でも借りられる部屋があるんじゃないかしら?」


「住んでもいない家のローンを俺が払うのか!? そんなの生活が……」


「成り立つかどうかは私の関心事ではないわ。私への損害賠償だと思いなさい」


2. 不倫相手への「高額慰謝料」


美咲は次に、萌の方を向いて言い放った。


「萌さん、あなたへの請求額は500万円よ。一括で、来月末までに払いなさい。……払えないなら、あなたの実家、それから勤め先にも、この『現行犯の音声データ』と共に請求書を送付するわ。あなたが私を煽った『夜の営みがない干物女』っていう侮辱発言、しっかり録音できているから。慰謝料増額の立派な証拠よ」


「……っ! 実家なんて……っ、健一さん、どうにかしてよ!」


3. 不正出金の「全額返還」

「最後よ。あなたが共有口座から『交際費』と偽って引き出し、この女のブランド品に変えた約800万円。これも不当利得として全額返還してもらうわ。……断るなら、明日中にあなたの会社の常務宛に、この部屋の防犯カメラの映像を送るわ。退職金がゼロになる前に、賢い選択をすることね」


「……美咲、お前、そこまで……っ」


健一の喉が引き攣る。目の前にいるのは妻ではない。自分を社会的に抹殺し、残りの人生を「支払いのための奴隷」に変えようとしている、完璧な**「執行官」**だ。


「健一さん……嘘でしょ? 私500万も払えない。」


萌が健一の腕を掴んで揺さぶるが、健一はそれを乱暴に振り払った。


「うるさい! お前が『上司みたい』なんて煽るから……!」


「あ、逃げるんだ? 健一さん、マジでサイテー! 結局、奥さんの顔色伺ってるだけの無能じゃん!」


昨日までリビングで腰を振っていた二人が、今は血みどろのなすりつけ合いを始めている。美咲はその醜態を、仕事の進捗を確認するかのような無感情な目で見つめ、最後にペンを差し出した。


「サインなさい。……明日から、あなたたちの地獄が始まるわ」


美咲は、署名と指印の揃った書類を回収すると、一歩も振り返らずに部屋を出た。

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