新しい生活
翌朝。
大輝が「昨夜は散々な目にあった」と莉奈とLINEで愚痴り合いながら、いつも通りアルファードで工場へ出勤した時。
彼の世界は、すでに結衣の手によって跡形もなく爆破されていた。
結衣は、一睡もせずに健斗と準備を整えていた。
昨夜の情事、そして車内でのあの厚顔無恥な「逆ギレ」の全記録。それを健斗の編集技術で一本の動画にまとめ、大輝の工場のコンプライアンス窓口、そして役員、さらには莉奈の両親のメールアドレスへと一斉に送信したのだ。
大輝が工場の門をくぐった直後。
彼は上司から会議室へ呼び出され、そのまま「就業規則違反」および「職務怠慢(残業偽装)」を理由に、即刻解雇を言い渡された。
「親は関係ない、会社は関係ない……。そう言ったのは、あなたたちよね?」
一方、莉奈の実家には、結衣が直接足を運んでいた。
厳格な公務員である彼女の父親は、娘が人妻の夫と、しかもその家の生活費を削って維持されている車で不貞を働いていた証拠を突きつけられ、文字通り崩れ落ちた。
その日のうちに、莉奈は大輝の目の前で父親に髪を掴まれて連れ戻され、実家に軟禁された。
「会社は関係ない」と豪語していた彼女を待っていたのは、親からの絶縁宣告と、結衣への莫大な慰謝料の支払い義務という、逃れられない現実だった。
一ヶ月後。
大輝の自慢だったアルファードは、ローンが払えず、業者の手によってレッカー車で引き揚げられていった。
「俺の城だ」と叫ぶ大輝の姿は、近所の住民たちの失笑を買うだけの、滑稽なピエロに過ぎなかった。
それから一年。
結衣は、自分と斗真を救ってくれた健斗と、穏やかな交際を続けていた。
大輝からは定期的に、職を転々とする中で絞り出したような養育費が振り込まれている。
「結衣さん、斗真くん。……僕が二人を、一生守ります」
夕暮れの公園。健斗が、真摯な眼差しで結衣にプロポーズをした。
結衣は涙を浮かべて頷いた。
若くして地獄を見た彼女が、ようやく手に入れた、本当の幸せ。
保育士の彼と再婚し、真っ当な家庭を築き、過去を忘れて新たなスタートを切る。
誰もが、そう信じていた。
結衣自身も、その「はずだった」。




